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お仕置き

昨日、ついに今年もクマ出没情報の連絡網が回ってきました。
しかも、当店の目の前の道路で子熊がしばらく遊んでいたらしいです……。

わたしの営む店は自然豊かな森の中にあり、野生動物もたくさん暮らしています。
毎年のようにクマ出没情報が出回り、しなやかに走ったり、のんきにウロウロしたりするクマを過去に何度かわたしも目撃したことがあります。

数年前、毎日のように頻繁にクマ出没情報が飛び交ってご近所がクマの話題で沸騰するシーズンがありました。
「無防備にうろついている」とか、「独り立ちして間もない若いクマのようだ」とか、「人が居ても音を出しても逃げない」とか、どうやら目撃されているのは警戒心の薄い同一個体のようでした。
しばらくすると、近隣に設置された罠の檻にかかったとの回覧板がきて、その後ピタリと出没情報が止んだので、捕獲されたのはおそらく件のクマの模様。

さて、罠にかかったそのクマが、その後どうなったのか気になるところですが、噂によると「お仕置き」されて、山に返されたとのこと。
それを聞いて、「お仕置き」って、いったいどんなお仕置きだろうと気になったわたし。
一般的には唐辛子スプレーが有名で、実際そういったお仕置き処置がされたようですが、わたしはとっさに幼い頃自分が受けた「お仕置き」に思いを馳せます。

それは、「蔵に閉じ込められる」。
何をしでかしたかはまったく記憶にないけれど、小さい頃、母にきつく叱られたのち、重い扉を閉めると真っ暗闇になる蔵によく閉じ込められました。姉と一緒に閉じ込められたこともあります。
叱られたショックと暗闇の恐怖でしゃくりあげて泣くわたしに、常に前向きな姉は言いました。
「怖くないよ。お姉ちゃんがいるよ」「楽しいこと考えようよ。しりとり、する?」「そのうち絶対扉が開いて外に出られるんだよ」等々。
今思うと、自力で蔵の扉を開けられないほど幼かったにもかかわらず、姉は当時から妹思いでポジティブで、頼りがいがありました。
それに引き換え、恐怖と絶望感でしりとりなんかやる気になれず泣き続け、つくづく甘ったれで悲観的でぐずぐずだった妹のわたし。

そして姉の言うとおり、必ずまばゆい光と共にキキィ~と音を軋ませて、重い扉は開くのです。

「必ずなんとかなる。なんとかならないことなんて、きっとないんだよ」

大人になっても姉のこの言葉で勇気づけられたことがあるのですが、幼児の頃から姉は本当に前向きでした。

そんな蔵のお仕置きも、ついに姉が扉を開けて脱出するようになって終了することになるのですが、姉のように逞しくもなく、自ら重い扉を開けようというチャレンジ精神も薄かったわたしは、当時は蔵に閉じ込められただけでもう悲壮感MAX。

だから、捕らえられたあのクマがわたしタイプだとすると、罠にかかって自由が利かない時間を過ごしただけで、クマには十分お仕置きだったのでは、と思うのです。
でも、もし姉タイプのクマだったら、他のお仕置きが必要です。
真っ暗な蔵の中でも、歌なんか一人で歌ったりしちゃう姉でしたから。
あの年に出没した警戒心の薄い自由奔放なクマを思うと、姉タイプの可能性がかなり高い気がします。
お仕置き、絶対に必要。

「どんなお仕置きが必要だと思う?」と、近所の友人に相談したところ、冷たい笑みを浮かべた彼女が言いました。

「お仕置きっていったらさあ、やっぱり爪を、1枚1枚剥がすとかじゃない?」

……そ、それは、「お仕置き」じゃなくて、「拷問」だよね? 
恐ろしすぎる。

うちの母のお仕置きが、「爪剥がし」じゃなくて助かったし、蔵は怖かったけれど、頼りになった姉の記憶は良い思い出です。

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