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『ますかれーど』が目指すコミュニティ像

キズナアイさんをきっかけに、VTuberという存在が誕生してから早5年。昨今、この業界では特に大手VTuberあるいはライバーの引退・活動休止の話題が目立つように感じております。なぜ、彼らは客観的に見て成功したと思われるそのポジションを捨ててでもなお、引退という選択をするのでしょうか?

新しく立ち上がったこの文化圏は、今後の在り方を左右する過渡期にあるのかもしれません。この業界の片隅にいる発信者の一人として、この話題を起点とし『ますかれーど』を運営する者として思うところをお伝えさせて頂きたいと思います。

■「発信者」が感じるプレッシャー
この話の前段として、まずはコンテンツを発信する「発信者」が置かれる立場について触れられればと思います。
人々に対して自身が持つ思いや考え、あるいは創作物といったコンテンツを発信する「発信者」は多かれ少なかれ、どんな業界やコミュニティでも「賞賛」と「非難」を受けることになります。これは発信者の宿命だと私は思います。

過去に私がいたアニメ制作の現場では、作品の放送中はネット評価やコメントを一切遮断するとおっしゃっていた監督がいました。当時、制作進行というポジションで働いていた私は「せっかくファンの方のコメントが見られるのに勿体ない」と感じた記憶があります。
それから時が過ぎ、立場が変わってプロデューサーやクリエイティブディレクターというコンテンツ発信の責任を直に負う立場で活動した際に、ファンの方から寄せられるコメントの重みが大きく変わり、当時の監督が言っていたことをなんとなく理解できるようになったのを覚えています。
当然のことながら、「楽しかった!」「面白い!」というコメントは、非常に嬉しく活動の励みになります。しかし100件の賞賛があれど、1件の批判に意識を取られ、それに落ち込む事もあるのです。ネガティブコメントが与える影響はポジティブコメントよりも何倍も大きく、それは、発信者が背負っているモノ、あるいは発信しているコンテンツへの思い入れや自信に比例して大きくなるのだと感じました。

私自身は頭がハッピーセットな性格なので、あまりネガティブコメントは気にしません。寧ろ「クソが!!!」と思いながらより張り切るタイプです。しかし、VTuberやVライバーを含むインフルエンサーといった方々は、「発信者」という分野の中で見ても、特にネガティブコメントを気にされる割合が多い印象を受けます。
キャストを支える立場として、その理由を日々考えていました。そして、私なりの一つの答えにたどり着きました。

■配信者というパーソナリティーの磔台
その答えは、インフルエンサーという存在の特異性にあると私は考えています。
皆さんにも、所属する団体や会社、制作した商品を批判されれば悔しいという気持ちは沸くと思いますが、それはあくまで「商品」や「団体」への批判であって、対象は自分ではありません。しかし、インフルエンサーは「自分自身」が商品になってしまう構造ゆえに、その「コンテンツへの批判」と「直接的な人格否定」を切り離して捉えるのがかなり困難な性質を持っています。そのため、このような方々は発信者の中でも特に大きなダメージを受けやすいのだと感じました。

とりわけ配信者に関しては、「リアルタイム」でコンテンツ提供をしているため、ユーザーからのコメントを見ないという選択肢がなく、いやでもダイレクトな反応に晒されます。これは、我々の想像を遥かに超えるプレッシャーなのではないでしょうか。相当にメンタルが強い方でなければ、活動を継続するのが難しいのは明白です。

■運営者の課題
ここまでの話から、昨今のVTuberの引退ラッシュは、一般的な人間のストレスキャパシティーの限界に起因する現象であり、Vtuberという職業を長期で継続する上での"障壁"が可視化されている状態なのだと私は考えています。運営としては、キャストが感じる先程のような「ストレス」を軽減させ、いかにサスティナブルな状態を作るかが最重要課題です。
様々なインフルエンサーのマネジメント会社がキャストの心理的安全性を担保することに試行錯誤しておりますが、未だ明確な解決手段は出てきておらず、私たちとしても早急に解消すべき問題であると強く認識しております。

『ますかれーど』の目指すコミュニティ像
さて、それでは話を身近な『ますかれーど』にフォーカスしてみましょう。
『ますかれーど』が目指すコミュニティ像は「やさしい世界」です。

『ますかれーど』の企画立ち上げ当時、ネットの誹謗中傷により自殺をされたプロレスラーの方が世間を賑わせました。それまで何となく意識していた「言葉は武器になる」という事実を強く実感する出来事だったと思います。そういった不幸を無くしたいという気持ちもあり、『ますかれーど』では「いやし」をテーマの一つとして掲げています。
このテーマを発信していく上でも『ますかれーど』では、「いやし」を発信する各キャスト自身がまずは安心して活動を続けられるよう、「楽しんで活動を続けてもらう事を第一優先に考えてほしい」と伝えております。

■運営者としての願い
しかしながら、人との距離を保てて、何度も生まれ変わることが出来るネット世界では、現実世界では到底許容できないようなひどい誹謗中傷が飛び交いあっています。

我々が発信する『ますかれーど』のコミュニティ周辺も例外ではなく、残念ながら同様のコミュニケーションが散見されます。発信・運営者としてはただただ悲しいです。その向こう側には、あなたと同じ"人間"がいることを忘れないでください。

私は言論統制をしたいわけではないですし、コンテンツに対して文句や苦言も言いたい時もあることでしょう。それは構いません。しかし、私が目指す『ますかれーど』という空間は、ご主人様同士そしてキャストが楽しい日々を送れる「いやし」の空間です。「好きなもの」を共有しあう仲間なのですから、対キャストはもちろん、ご主人様間のコミュニケーションにおいても最低限のマナーを守り、仲良く「いやし」の世界を楽しんでいただきたいと願っています。

これは我々運営やキャストが努力するだけで、達成できる事ではありません。むしろご主人様方に積極的に意識していただかなければ達成できないゴールです。

この記事を見ていただいているご主人様。そしてVtuberを推してくれている皆様。どうか一度、ご自身のコンテンツの楽しみ方を振り返っていただければと思います。

余談ですが「ブラック・ミラー」という英国のテレビドラマの「殺意の追跡」というエピソードをぜひ一度ご視聴ください。NETFLIXで配信しています。非常に考えさせられる良作です。

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