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For Cafe Philosophique

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記事一覧

私が私を『私』と呼べるのはなぜか

http://ante-table.wixsite.com/ante-table 『実験に参加してほしい』 そう言われて、私は時間通りにその研究室を訪問した。 部屋には誰もいない。 テーブルとソファと、人間に見えるロボット、だけ。 人工知能『ジュマペル』の最新ヴァージョンを搭載した女性型ロボットが そこに座っている。 テーブルの上には淹れたばかりに見えるコーヒーがある。 ソファに座り、一口飲んだ。 『天気が良くて気持ち良いね。ここには窓が無いけれど』 高度

『嘘の無い世界』には何が無いのか?

http://ante-table.wixsite.com/ante-table 「ためしに、嘘を無くしてみようかな」  その日の神様は、人間界を眺めながら、そんなことを思いました。 「「庭いじり」ならぬ「人間界いじり」ですね  。大洪水よりは知性を感じますよ」  傍らの天使は毒舌家です。 しかしふと、神様は考えました。 実際のところ、私は何をしたら良いのだろうか、 と。 人間の行動に変化を加えればどうだろう。 悪意も善意も関係なく、彼らの発話行動

『聖』とは、どのようなことか

http://ante-table.wixsite.com/ante-table 昔々、あるところに、赤い帽子とコートの少女、がいました。 赤い少女は、お祖母さんの家までパンとワインを持っていくため、 暗い森に入ります。 すると森の中で、木陰で休んでいた青い鎧の騎士と出ったのでした。 『お嬢さん、この森を一人で行くのは危ないですよ。 私が一緒 行きましょう。荷物は私が持ちましょう』 青い騎士がパンとワインの籠を持つと、二人は歩きはじめました。 『

『待つ』について思いを巡らす

http://ante-table.wixsite.com/ante-table 妻のいない日曜の昼。 娘の昼食にカップラーメンを作る父親は、あまり良い父親ではない、と思う。 『これなあに?』 『お湯を入れたから、3分待って』 娘は砂時計を見ているが、目的が分かっていない。 彼女いま、生まれて初めてカップラーメンを見ているのだ。 空腹の私には、この3分間は、他の3分間よりも長く感じる。 しかし娘はそう感じないかもしれない。 食べ物だと認識

『孤独では無い』とは、どのようなことか

http://ante-table.wixsite.com/ante-table 土曜の午後のその地下鉄は、どの車両も似たような混み具合で、 座ろうと思えば全員が座れるのに、カップルや、家族連れが所々で、 立ったままで話をしている。 私は一人ドアの脇で、横並びの座席の端を囲う板に背中を預けて、 暗い外の風景を眺めていた。 私はいま、孤独である、ような気がする。 スマホを取り出して、明日の天気予報を見ようと思った。 晴れであることを確認すると、 そのままポータ

『忘れる』ことの、善と悪

http://ante-table.wixsite.com/ante-table その日記には30年前の日付で、30年前の出来事に関する 私の体験が書かれていた。 『 きょうは おともだちの  けんじ君とさやかちゃんと こうえんであそびました 』 その字は子供らしいぎこちない字で、私の字だと言われれば、 そうかもしれない。 私には、この『こうえんであそびました』で表現された出来事 に関する記憶が無い。 いや、記憶はあるのかもしれないけれど、少なくとも、思い出