ゲームマスターからの挑戦状1

 衝撃が、世界を駆け抜けた。
 異常気象に、度重なる内乱。民族紛争。エネルギー危機に、食糧危機。
 入り組む国境地帯での不測の軍事衝突、謎の武装集団の蜂起、縄張り争いに、餌の取り合い、未知との遭遇、それから痴情のもつれ等。
 世界は、究極の危機に瀕していた。
 無人化の進んだ各国軍隊の無人機部隊が突如起動、謎の暴走を起こし始めたのだ。

 ここはとある国、御前会議。王の間には我ら正義の象徴、ペン太様がお目見えしていた。
 ペン太様はたいへんに暇そうにしておられる。
「では諸君」
 簾の降ろされた王の間の向こうできょろきょろとペン太様のくちばしが横に向く中、王の声が聞こえた。
「話を聞こうか」
「はい、ではまず私の説明から」
 歴戦のシゲナ提督が立ち上がり、ホワイトボードを部下に持ってこさせて現状の説明を開始する。
 多少棒読みのように聞こえるのは、きっとシゲナ提督がこういう状況説明に慣れているからだろう。あるいは地である可能性も捨てきれないが。
「まず世界中に展開する各国保有の無人機部隊の展開図ですが、可能な限りの情報収集に努めたところこのような事が分かりました」
 最初にまず真っ青な世界地図がホワイトボード上に投影され、そこからぽんっと真っ赤な地図が広がる。
「この青い部分が無人機部隊の未展開地域。そして赤いところが無人機部隊の展開地域です」
 ところどころ青い所もあったが、地図はほとんど真っ赤だった。
「次は監視衛星で二十四時間追跡調査をして分かった、最新の無人機部隊展開図です」
 ぽんっと、赤い地図がふたたび青い地図に入れ替わる。
 前に映し出された赤い地図に比べて、赤色の部分は極端に小さくなっていた。
 しかし、赤色の濃さはかなり濃くなっている。
「各国主要都市の所在地を示します」
 ぴこっと、黒い点に白線の注釈が入って、それぞれの都市の場所が強調されて示される。
 共通することは全ての主要都市が、この赤い帯のような無人機展開図のど真ん中に収まっていると言うことだ。
「しかし不明な点があります」
 シゲナ提督は指揮棒を振って地図の一点、何の都市もない部分に集まった赤い無人機部隊図周辺を丸で囲ってみせる。
 地図は拡大されていき、その謎の展開地域に焦点が当てられた。
 腕を組んで踏ん反り返っている、クドゥー大佐が黙って地図を見守り続けている。
「前述の通り、この無人機たちは何か共通した意志を持って行動していると思われます。しかしこの場所に展開している無人機部隊は、他都市を襲うでもなく、またどこかに移動するために待機しているという情報もありません」
「つまりどういうことなのかね?」
 王の間から王の声が聞こえ、その脇ではペン太様がとことことどこかに向かって歩いていこうとしている姿があった。
 急いで側近がペン太様を抱えこむと、急いでまた元の王座に戻して簾の外に出て行く。
 クドゥー大佐が、腕を組んで黙って踏ん反り返っていた。
「……エート、監視衛星によるさらなる地表観測を行ったところ、この部分で巨大な地震と大規模な地表隆起が起こったことが観測されました。無人機が大規模な反乱を起こした時期とほぼ重なります」
 ピコーンと、その地震が起こった場所と隆起した場所が赤い線で区切られ、その部分だけ切り取られてホワイトボード上に浮き上がってくる。
 ペン太様が暇そうにまた脇をきょろきょろと見始め、側近が、今度は魚を一匹持ってきてペン太様にくわえさせた。
 あぐあぐとペン太様が魚を食べ始める。
「監視衛星によると、隆起した場所に謎の建造物があることが判明しました」
 シゲナ提督が汗をハンカチで拭きながら、懸命に説明を続ける。
 クドゥー大佐が、黙って腕を組んで踏ん反り返っていた。

「ここが、我が国の国境です」
 ホワイトボード上の地図がやや引きながら右に移動し、青い射線と光りでペンターン国が映し出される。
「そしてここが、その隆起した場所です」
 赤い線と丸で、対象が映し出された。それから国境線と赤丸の間に細い矢印が流れて線を描く。
「この施設が、無人機による世界同時暴走と関係があるのかは情報がありません。そこで、この隆起した場所と施設に対し偵察隊を送り込むことにしました。当該国からはこの空域の通過許可はとっています。速やかに対処してくれとのことでした。なお、当該国はすでに無人機部隊により首都が制圧されており、支援要請はあてにできません」
 ペン太様が暇そうにあくびをする。
 クドゥー大佐が、黙って腕を組んで踏ん反り返っていた。
 おもむろに右腕を動かすと、指ぱっちんをする準備をして高く頭上に振りあげた。
「私たちが、世界の最後の希望だそうです。エート。じゃあがんばりましょう」

 パッチーン!!!!!

 クドゥー大佐が、御前会議の間で静かに指を鳴らす。
 シゲナ提督が振り向き、ペン太様も振り向き、また他にも御前会議に参加していた各々も顔を向けて振り返った。

 その時。

 海抜高度一万と二千キロメートル上空から、燃える流星の如く大気を突き抜けてやってくる者があった。
 宇宙ステーション『ノーツ』から分離降下、真っ赤な炎を全身にまといながら大気圏を垂直落下してくる。
 途中で突入用カプセルを爆破処理して脱ぎ捨て、分離した突入パーツを燃やしながら男は大地に降り立った。
 背景で爆発。立ちのぼる炎。黒い煙に、揺れる蜃気楼。
「……大佐、施設への侵入に成功した、これよりターゲットの破壊に移る」
 男は無線機にそう告げると、急いで耐熱スーツを脱ぎ捨てていつものラフな「戦闘私服」に着替えた。
 その時である。
 背後で予期せぬ大爆発。
 謎の落下物到来。
 吹き飛ばされる男。
 同じく大量の瓦礫が四方にばらまかれ、男はここが予定していた場所ではないことに気が付いた。
「どこだ、ここは?」
 男はぼろぼろになった戦闘私服を払うと、改めて自分が降りた場所を丁寧に調べていった。
 廃墟なのは分かった。あと、周りは湿地帯だ。半ばぬかるみに沈み掛かっている旧都市の一つだと思われる。
 それから、そんな廃墟には絶対に似つかわしくないような、漫画家が手抜きで描いたか、敢えて狙って描いたようなネコの顔みたいな宇宙船が、目の前で煙を吹いて地面にのめり込んでい。
 男は、ネスク・オラミィ大尉はチッと舌を打った。
「こいつか。俺の邪魔をしたのは」
 そのとき、同じく煙を吹くタンデムローター式の輸送ヘリが、緊急信号を発しながらふらふらと空を飛んでいった。
『メイデイ! メイデイ! 助けてくれ落ちる! 誰か!』
 オラミィは近場に落ちていた古い型式のマシンガンを手に取ると、ジャキリとスライドを引いて弾を装填した。
「ターゲット確認」
 白いバンダナをギュッと引いて、傷だらけの腕を太陽に露出させ、ミリタリーパンツに白いシャツ。この廃墟ではかなり目立つ格好である。
「俺を見た者は、殺す」
 そんなとき、今度は宇宙船の方でハッチがぱかりと開いて、中から誰かがぴょっこり顔を覗かせたのだった。

 ある一人の男の軌跡と、地下から出現した謎の建造物。
200X年。
 世界は、機械たちによって滅ぼされつつあ(ここで小説はとぎれている)

(2837/2840文字)

(続きは一週間後な。フルツでも食べるといいよ)

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