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【VRChatの記録】テキサスホールデムで"D"を目指す

 VRChatは0と1の電子の世界だが、そのワールドに数字のゼロはなかった。代わりに1から13までの数字が存在しており……いや、正確には13ではなく"K"……KINGのKだ。そう、つまりそこにはポーカーがあった。

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 私はカエサル。バーチャルの記録を残す者。今日は私がVRChatでテキサスホールデムポーカーを楽しんだという話をする。つまり日記だ。別にポーカーの攻略記事では無いので、読むとみるみるポーカー力(ぽーかーかでは無く、ぽーかーちから)が上がるわけではないが、あなたはこの日記を読んで楽しむことができる。

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 電子の砂漠ことVRChatで私が辿り着いたそのワールドは、半自動でポーカーを遊ぶことができる非常にハイエンドなワールドであった。ボタンひとつでカードが配られ、個人毎に所有するチップが電子管理されたそのワールドは、まさにバーチャル・カジノといった様相だ。

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 最初、私はテキサスホールデムポーカーはルールを知っているくらいで、いわゆる"戦略"や"定石"の知識が無い状態でプレイしていた。それはまるで会員制ホテルのプールに迷い込んだ野良犬が、犬かきでばちゃばちゃ泳いでいるのと同じようなものだ。通常、そういった奴らは他プレイヤーのカモにされ、足を撃ち抜かれて溺れ死ぬのがゲームの常である。しかし、そのワールドに居た他プレイヤーは私にポーカーのいろはを教えてくれた。それも丁寧にだ。

 それは太らせてから食べるために鶏を育てるキツネなのか、それとも"親切心"というたぐいまれなる能力を持っている上位存在なのかはわからないが、私は彼らを徳の高い人間だと思った。感謝しているし、もし彼らがフリスビーを投げたなら走って取りに行こうとも思った。

・ポーカーは忍耐のゲームだ。

 そして私が最初にポーカーの基礎を学び衝撃を受けたのは、このゲームはかなり「忍耐力」が必要なゲームだということだ。

 テキサスホールデムポーカーでは最初に2枚の手札が配られる。そしてその2枚の手札を見てゲームに参加するのかを考えるわけだが……ここで「降り(フォールド)」を選択すればチップを奪われることも無いが以後のゲームに参加することはできなくなる。

 ポーカーの1ゲームは1分くらいで終了するくらい短いが、それでも最初の2枚が配られて3秒でフォールドするとその後1分間暇だ。私はせっかちで落ち着きのない人間なので、暇は嫌だ。しかし負けるのはもっと嫌だ。なので適正なゲーム参加率を教えてもらったわけだが……私は驚いた。

 私は「まあ2回に1回くらいは参加したいなあ」と考えていたのだが、有識者が言うには妥当な参加率は「20%~25%」らしい……。「4~5回に1回の参加」が適正ということだ! つまり……場合によっては最初に配られる2枚の手札を5連続でも6連続でもフォールドしろということになる!

フォールド連続

 「そんなことしたら5分も暇になるんじゃないか……?」 私は震えた。私が普段やってるゲームなら、1分もあれば人が一人死ぬ(ギルティギアのことだ)。30秒で3人死ぬゲームだってある(これはアルカプだ)。それなのに5分間も暇なんて……心臓が止まっちゃうよ! 私はそう思った。

 しかし、結果からいうと心臓を止めてでもフォールドし続ける忍耐力が必要ということだった。それほどまでゲームへ参加する2枚のハンドを厳選するのは重要ということだ。正確には「全然フォールドしないプレイスタイルもナシでは無いが、初心者にはオススメできない」ということらしい。私はゲームをやるからには勝ちたいので、弱いハンドはフォールドし続けることに決めた。

 そして、その忍耐を差し引いてもポーカーは面白かった。それにはいくつか理由があるが、簡単にいうと「情報を用いた駆け引き」が面白いのだ。しかし、この面白さを説明するには私はまだポーカーを知らなすぎる。ポーカーの面白さがチョコレートの甘さと同じとするのなら、私はまだチョコを包む銀紙を剥がそうとしているくらいの工程だ。茶色の本体には辿り着いていないが、カカオの甘い香りが漂っている。

 とにかく何が言いたいのかというと、ポーカーには駆け引きと数学と心理と尊敬とディスリスペクトと大きな理不尽があり、それによって人は歓喜の声を上げたり、怨嗟・憤怒・悲哀・憎悪・人の手の及ばない全ての不運に怒りの絶叫をあげることになる。私は喜ぶのも怒るのも好きなので、このゲームを面白いと思った。

オールイン死b

・トーナメントが楽しい

 ポーカーの対戦形式は大きくふたつ、「リングゲーム」と「トーナメント」というものがある。前者は特に終わりを決めずポーカーを楽しむというものであり、後者は「チップがなくなった者から脱落し、最終的に一人の勝者を決めるサバイバル・ゲーム」というルールだ。

 私はトーナメントが好きだ。なんといっても一人のチャンピオンを決めるというのが魅力的だし、最後まで生き残ったら勝ちというルール上、9人で戦ったら8人は死ぬことになる。人が死ぬのはエンターテイメントなので、8人死ぬ……つまり最低でも8回は盛り上がるということだ。それが良いと思った。

・専門用語がある。

 ポーカーを学ぶ上でひとつの障害となるのが、意外と専門用語が多いということだ。ロイヤルストレートフラッシュさえ知っていればいいのでは?(カッコイイし……) と私は思っていたのだが、ポーカーの用語は想像以上に多い。

 私は「エーケー」というのがカラシニコフ製アサルトライフルではなくエースとキングのことを指すのはわかるが、レインボー……ブロードウェイ……ハイジャック……などの用語は意味不明だった。現代はグーグルという百科事典を皆が持っている状況なのでそれほど困ったわけではないが、初めて聞いたときに面食らったのは確かである。むしろロイヤルストレートフラッシュなど状況的に全く出現しないので、忘れてもいいくらいであった。

 そして、もしこれを読んだあなたがポーカーに興味を持ったときのことを考え、いくつかの専門用語を紹介しよう。

・リンプ

 あるプレイヤーがこう言った、「リンプ絶対許さないマン」と。
 私はそれを聞いて、(何故いきなりリンス イン シャンプーの話を……? しかもそれを絶対許さないとはどういうことだ……資生堂に何の恨みが……?)と思い、「私はパンテーンを使ってますけど……」と言おうと思ったが、彼らはヘアケアの話をしていたわけではなかった。

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"リンプ"とはプリフロップの段階でBBにコールすることを指し、それは多くの場合において消極的で良くないプレイとされている。初心者としてはチップを多く賭けるのは怖いがゲームに参加したいのでやりがちなプレイだが、チャンス時に多く稼げなかったり、リスクも多いという理由であまり推奨されないようだ。

 だがまあ、これは攻略記事ではないのでここで別にリンプするなとは書かない。私はゲームは勝てれば何をしてもいいと思っているし、大事なのは自分で考える事だとどこかのCEOも言っていた。なので私もそのうちリンプの是非について考えてみようと思った。

・ガットショット

 マジック:ザ・ギャザリングのプレイヤーとしては「ガットショット」といえばプレイヤーやクリーチャーにダメージを与える赤の呪文のことだ。それは日本語名を「はらわた撃ち」といい、人間の腹部を後ろから貫く残忍なイラストが印象的だ。

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 なので初めてポーカーで「ガットショットだ!」と聞いたときは、「なにもポーカーで熱くなったからって人の臓器に危害を加えなくても……」と思ったが、別に彼らが野蛮なファイレクシア人だということではなかった。

 どうやらポーカーにおける"ガットショット"とは、"5" "6" "8" "9"のようにあと1枚、中間の数字(この例では"7")がくればストレートが成立する状況のことを指すようだ。いわゆる麻雀における"カンチャン待ち"のことで、"リャンメン待ち"のことは"オープンエンド"と言うようだ。

・ナッツ

 "ナッツ"とはポーカーにおけるその状況で最強の手役のことだ。よくある状況としてはエースを手札に含んで完成させたフラッシュなどがある。それを手に入れればそのゲームは勝利確定なので、いくらのチップを周囲から奪い取れるかウキウキで舌なめずりだ。

 しかしその言葉の由来は何だろうか……? 私は気になってそのときたまたま同じテーブルについていたプレイヤーに「何故最強の手役をナッツというのか?」と聞くと、彼は「…………ナッツはおいしいから?」と言った。真偽はともかく、私は彼の回答とアバターが可愛かったのでそういうことにしておこうと思った。

なっつおいしい2

・ABCポーカー

 先述した通りポーカーには基本となる戦略や定石が存在するのだが、それらに忠実なプレイを教科書的なプレイという意味で"ABCポーカー"と呼ぶらしい。それは別に初心者をバカにして笑う言葉ではなく、期待値に基づいた基本に忠実な標準的なプレイを表現した言葉で、私はそれを好ましく思った。

 どうやらそのABCポーカーこそ初心者がまず目指すべきプレイらしく、つまり私もそれを目指そうと考えている。私にこの言葉を教えた彼(…………見た目は"彼女"だ)は「まずはそれを覚え、そこから自分なりのプレイを広げていけ」と言った。その表現が素敵だと思ったし、だから私はABCポーカーを目指そうと思った。

・"D"を目指す。

 私が現在どの領域かと言えば、まあ"Λ"だろう。まだまだABCの"A"の二画目といったところだが、既にハンドレンジ……オッズ……コンティニュエーションベット……などの様々な概念に翻弄されている。ポーカーというのは私が想像していたよりも奥が深く、また刺激的だった。

 今はまだ溺れないようになんとかもがいているような状態だが、いずれはクロールからバタフライまでマスターし、ABCのその先に挑戦するというのが現在の私の目標だ。私はゲームを楽しむことに自覚的になるのが好きで、テキサスホールデムポーカーはその価値があるだろうと思った。

 最後に、私にポーカーを教えてくれた人々や同卓したプレイヤー、システムを造り上げた創造主に感謝を示そうと思う。本当にありがとうございました。

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(↑トーナメントで一番最初に脱落している筆者)

 それでは、私はもう行く。それはもちろん次の2枚のハンドを確認しにいくためだ。もしあなたが私と同じテーブルにつき、命のチップを奪い合うことがあるとすれば、そのときは私のアルファベットがどこまで進んでいるか、カードをもって教えることにしよう…………。


Twitter:@caesarcola



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