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「親切ごっこ」

 病気をして、働けなくなって、時間にゆとりができた頃、私は「親切ごっこ」という遊びを思いついた。
 例えば、乗り物で席を譲ったり、道に迷ってそうな人とかを見かけたら「お困りですか?」と声をかけたり、そういう普通ならちょっと勇気がいることも「ごっこ」にすると楽しくできる、ということを発見した。
 この遊びは、いつもうまくいくとは限らなくて、思いがけず「よけいなお世話よ!」的な態度をとられてしまったりすることもある。そういうときは、「あぁ、今回のゲームは負けちゃった。てへ」って思うと、そこまで凹まずに済むのだ。
 あるとき、道に迷ってるふうなご婦人に遭遇して、思いきって「お困りですか?」と声をかけた。すると「バス停の場所がわからなくなっちゃって」そのあと何も用事がなかったので、「ご案内しましょうか?」と申し出て、バス停まで連れていってあげた。そうしたら、そのご婦人、「ありがとう。あなたのおかげでバス停の場所がわかったから、あそこにあるカフェでお茶を一杯ごちそうさせてくださらない?」「え~、そんなのいいですよ。そんなに気を遣わないでください」「私の気が済まないから」
 それで、お言葉に甘えることにし、カフェでカプチーノをごちそうになりながら、小一時間ばかりおしゃべりした。「一期一会」をしみじみ実感した出来事だった。
 「親切ごっこ」。この遊びが普及したら、ちょっといい世の中になるかも、なんて思った私なのでした。

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