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『体育教師を志す若者たちへ』 あとがき


保健室の前に掲示してある毎週の部毎の休養日表 
 
 

 

 在職中、校内の部活動係主任として、様々な部活動改革をしてきました。冒頭の写真は保健室前に掲示してある部毎の毎週の休養日表です。毎週更新していきます。どの部も週に2日間は休養日を設定するものとし、顧問が休養日にする日の所にマグネットシールを貼ります。私が毎週それをチェックします。
 学校の部活動としての活動は、原則土日のどちらか1日は休養日にすることになっていますが、部によっては殆どの生徒が社会体育クラブにも所属していて、合わせて両日の活動となってしまう週があります。その時は平日に2日間を休養日をとらなければならないようにしました。そうした週は、私が「平日2日間休養指令」のマグネットシールを貼ります。
 顧問や社会体育クラブの指導者の都合で土日両日の活動になってしまうことがあります。しかし、やはりそれは子どもの生活や健康にとってよくないことです。そういう部は人気がなくなっていきます。そのことに指導者は気づくべきでしょう。
 私の陸上部では、日曜に大会があっても前日の土曜に部活動をしたことはありません。家庭に帰すべきです。前日に練習が必要と考える生徒は、自分でできることで体を動かすでしょう。中学生です。そこまで顧問が管理してはいけません。

 さて、私の著書『体育教師を志す若者たちへ』をお読みいただき、ありがとうございました。今回の「あとがき」で、著書の内容は最後になります。


『体育教師を志す若者たちへ』あとがき


 今全国各地の学校プールが老朽化し、改修・改築に多額の費用を要することから、近隣の民間プールへバスで子どもたちを連れて行き、インストラクター付きの授業を委託する小中学校が出てきている。私の友人の住む町でも小学校でその動きが出てきたことから教育委員会へかけ合い、県の教職員組合へも相談したとのことだが、プールの建て替えは組合要求にならず、水泳の民間委託は逆に組合員に歓迎されてしまっているのだという。
 教師がプール管理をしなくてよくなり、民間の室内プールなら温度管理もできていて猛暑の熱中症の心配もしなくてよくなる。その上教師は引率するだけで水泳指導もしなくてよくなるのだ。行き帰りのバス代、プール施設の使用料、講師代を含めても、自校でのプール管理費用に比べれば、教育委員会としても費用超過にはならないのだろう。教師が教師としての授業をしない状況がすでに出始めてきている。これでいいのだろうか。

 実はこうした指導に対する問題もすでに出始めてきているという。インストラクターでは学級内の子どもたちの技能差に対応できないというのだ。クラスの中にはスイミングスクールに通う子どもから全く泳げない子どもまでいる。スイミングスクールやスキー教室などでは能力別にクラス分けして指導している。こうした指導経験しかないインストラクターが、技能差の大きな学級集団に対して、学習指導要領で示されている「主体的・対話的で深い学び」をどう実現するというのだろうか。それはまさに本書で示してきたような教師による専門的な授業作り研究なくしてできる仕事ではないだろう。だから教員免許制度があるのであり、教師は指導放棄をしてはならない。

 また、先頃ではAIアプリを搭載したスマートフォンを使った体育授業の様子もニュースになった。マット運動の技の習得に活用し、子どもたちも教師も歓迎だという。プールの問題でもICT活用についても導入の理由の一つとして必ず出てくる言葉が、「教員の指導経験不足・苦手な分野の指導に役立つ」というものだ。

 産業革命や技術革新はその期待とは裏腹に労働者の生活をますます追い詰めていくことになったが、今や当たり前になっている教師1人に1台のパソコン普及も教職員の仕事の軽減にはならず、ますます仕事量を増大させてしまった。子ども一人1台の端末の授業への導入はどうだろうか。子どもから奪うものがあることにも目をむけるべきではないだろうか。

 私は体育の授業で1人1冊の体育用大学ノートを用意させ、学習プリントをそこへ貼らせる学習スタイルをずっと続けてきた。配付する自家製プリントの量は多く、1年に大学ノート1冊分程度になる。授業では筆記具とそのノートが毎時間必要で、巻き尺やストップウォッチ、あるいは作戦盤など様々な教具を使って学習を進めてきた。生徒同士の動きや足跡などを自分たちの目で観察して記録し、考えを深めていくことを大事にしてきた。
 そうした学習が技術革新によって生徒一人1台端末とその中のアプリに置き換わりつつある。それが本当に授業改善になるのだろうか。パソコン好きな若手教師はそれを率先して使いたがるが、得るものがあれば失うものも必ずあるということに目を向けてほしいと思う。

 最後に、部活動は勤務の関係から教師の仕事の範囲を超えており、体育の授業は部活動に熱を注ぎながら片手間でやっていけるような仕事でないことを再三述べてきた。そうは言っても現在のブラック的な勤務状況が改善されたら、あるいはその改善の進行と平行して部活動や地域スポーツの指導をしたいと考える教師もいるだろう。そのための方法についても触れておきたい。
 私自身陸上競技が好きで陸上部の顧問を続けながら自分自身も棒高跳で毎年大会に参加してきた。そして現在でも生涯スポーツとしてトレーニングを続けている。それが可能だったのは私が部活動の係主任として率先して部活動改革を進めてきたからでもある。スポーツ庁が現在提言している中学生のスポーツ活動指針には、週に2日の完全休養日、そして1日2時間(休日は3時間)程度までとする活動時間の制限がある。私は以前からそれを率先して行ってきている。夏休みの後半に開催される全国大会で入賞者を出した経験もあるが、その時でさえ、夏休み中の練習は半日の練習を2日やったら1日休むというリズムで進めた。通常の長期休業中の部活動は全日数の半数以下という方針が長野県内では定着してきている。
 そうした方針で進めてきたからこそ、これまで述べてきた授業作りが何とか可能であった。それでも私の超過勤務は他の同僚たちと同様、月80時間以上という過労死ラインは優に超え、100~200時間の間を行き来していた。部員の競技成績によって指導者の能力が評価されがちだが、これからはその評価の観点のひとつとして練習量の少なさと活動集団の民主化のレベルが加えられるべきではないだろうか。

 体育教師は周到な授業準備に専念し、その上で生涯スポーツを自らも実行して健康で文化的な生活を維持すること。それが可能な範囲で部活動指導がしたければ地域と連携して進めていけばいいと思う。文科省は教員が地域クラブの指導者になる「兼職・兼業」は認めているものの、必ず指導者が複数いて教員は本務を優先させるという条件をつけている。
 私はこれまで、超過勤務と休日の部活動指導に疲れ、自分の生涯スポーツどころではない不健康な体育教師をたくさん見てきたが、私自身も30代に心房細動という不整脈が常習化してしまった。その後3度のカテーテル手術を経てようやく正常な脈に戻りつつあり、適度な運動が必要不可欠という理由もあって生涯スポーツに励んでいる。
 これからの若い体育教師たちには新しい体育教師としての生活スタイルを創造し、まず自分自身が精神的にも身体的にも健康を保持し、元気な体育教師として体育・スポーツの魅力を授業を通して子どもたちに伝えていってほしいと思う。
                        2023年3月

 <著者紹介>   小山吉明(こやま よしあき)    
  1958年3月 長野県生まれ
  2022年3月 39年間の公立中学校体育教師生活終えて退職

 <主な著書>
  〇共著『体育実践に新しい風を』、
     学校体育研究同志会編 1993年、大修館書店
  〇共著『教室でする体育 中学校編』、出原泰明編
                2000年、創文企画
  〇単著『体育で学校を変えたい』、小山吉明
                2016年、創文企画
  〇共著『対話でつくる教科外の体育』、神谷 拓編
                2017年、学事出版 
  〇その他、体育科教育誌等に執筆多数
    そして今回の単著『体育教師を志す若者たちへ』


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。アクセス数が現在1100を越えており、私も励みになりました。
 これで著書の原文は終わりになりますが、まだまだ「体育教師を志す若者たち」へ伝えていきたい内容があります。その線に沿ってこれからも続きを書いていきたいと思います。宜しくお願い致します。

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