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推しを推す前につながりたい #6


休日の昼下がり。

外は人々で溢れているのだろうか。


開場まであと二時間。

ここは静寂に包まれている。



ふぅ...

珍しく緊張してるな、私...


それもそうか。これがはじめてだもん。


私の歌をわざわざ聞きに来てくれる人なんて

いるのかな...顔も明かしてないのに。



??:「緊張してる?…実は私も。」


アルノ:「掛橋さん…」


沙耶香:「私は演者経験がないから、
舞台に立つ人の本心がわかるわけじゃないけど…
アルノちゃんは、多くの人を魅了する
何かを持っている。

いつもの力を発揮できれば、
盛り上がること間違いないよ」


掛橋さんの声を聞くと、自然と気分が落ち着く…



アルノ:「ありがとうございます…
こんな機会をいただけたのも、
掛橋さんのおかげです」


沙耶香:「そんな…私は沢山の人に
アルノちゃんの魅力を届けたいだけ。
こちらこそあなたと関われて光栄なんだよ?」


アルノ:「本当ですか?…嬉しい。」



生まれてはじめての晴れ舞台。

お世話になってる人たちのためにも、

絶対に成功させる…!




アルノ:「私の思いが届くように…」




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乃木高から電車で一時間半。

ここは誰もが知っているであろう、

世界でも有名な繁華街。



○○:「ここの出口、
目的地と反対側じゃない…?」


和:「うそっ」


○○:「…ホント。」


和:「ごめーん…。都会の駅は複雑で…」


○○:「いいよ。
地図が読めない和に任せた僕が悪い」


和:「そんな言い方しなくても良くない?
どうせ○○もわかってなかったくせに〜」


…指でツンツンすな。


地図アプリさえ開けばわかる。

マップ自体は読めるから。


あと…



○○:「なんで制服じゃなきゃダメなの?」


JKになった和の私服見たかったのに…純粋に。



和:「それはさ、『私たち高校生だよ』って
アルにアピールすれば、もしかしたら文化祭に
来てくれるかも、って思って」


○○:「いやそんなこと…」


普通じゃ難しいが、乃木高の名前を出せば

興味を持ってくれるかもしれない。


…和は僕よりずっと優秀。

なんだかんだ助けられてばっかり。



○○:「でも和はアルの高校
知ってたんだっけ?」


和:「乃木女でしょ。
前にSNS教えてくれたじゃん。ほら」


そうだった…


彼女は僕にスマホを見せる。

バッチリフォロー済だ。


相変わらず匂わせるタイプなのね、アルノさん…



和:「ねね、まだ時間あるよね?行きたいアニメ
ショップがあるの(同人誌とかあるかな…///)」


○○:「おぅ、いいよ…」


キラキラした和の目。

いいんだけどさ、あまり歩き回りたくないっす…





二時間後。会場までは駅から徒歩10分ほど。

外には既に20人ほどの列。

普段は開放的でカジュアルな雰囲気のカフェで、

今日は貸し切っているそう。


和:「すごいおしゃれ…
こんなところ地元にはないね」


店内に入り、キョロキョロ周りを見渡す和。


テーブル、チェア、BGMまで…

この店に関わってる人たちの

本気の思いが伝わってきそうである。

さすが都会。オシャレ度MAX。


1階席、テラス席だけでなく、

なんと地下にも席があるんだって。



○○:「お客さんは…おじさまも少しいるけど、
若い人が多いね」


和:「皆んなキラキラしてて、大人っぽい…。
私たち制服だし浮いてるかなぁ」


逆に個性があっていいじゃない、

と言おうとしたら。



??:『ご来場の皆様、
本日はお越しくださいまして、
誠にありがとうございま〜す!

開演時間が近づいて参りました。皆様地下の方へ
ご移動をお願いいたします!』


スピーカーから若い女性の声。

アルノではなさそうだ。


グラスに入ったオレンジジュース片手に、

僕たちは階段を降りる。





和:「どうしよう、
なんかこっちが緊張してきた」


落ち着きがない和の横で、

僕は観客の観察を続ける。

アルノを知る人物や、一周目で彼女を

自粛に追いやった犯人、とまではいかなくても

何らかの手がかりが見つかるかもしれないし。



○○:「…ん?あの人、うちの高校で
見たことあるような…」


和:「どした?…あ、照明が…」


タイミング悪く会場が暗くなる。


歓声が上がり、周りの熱気もどんどん高まる。

周りに乗せられ、僕たちのワクワクも最高潮。


そして…




I'll never be able to give up on you


So never say good bye and kiss me once again





ステージに散らばった全ての明かりたちが、

導かれたように中央へ集まる。


歓声を上げていた観客たちも皆、

あまりの神々しさに息を飲み込む。



美しい声、眼力、気配に至るまで、

何もかもが圧倒的。


この場にいる全ての者を支配した、あの歌姫は…




紛れもない、中西アルノであった__





数曲歌い終わった後…


アル:『ありがとうございます』


360°、拍手と歓声が鳴り止まない。


一人では耐えられなかったのか、曲の途中から

和がずっと手を握ってきた。

が、そんなことも忘れるほどの

素晴らしいパフォーマンスだった。



??『はい、ありがとうございました〜。
ここから進行を務めさせていただきます、
掛橋です。皆様よろしくお願いしま〜す』


さっきアナウンスしてた人であろう。

少し明るくて、ふわふわした声。

アルとは正反対だ。



沙耶香:『というわけで…もちろん歌にも
触れていくけど、まず何より、
はじめての顔出しとなった今回の公演ですが…
アルちゃん、どうでした?』


アル:『そうですね…』


湧く会場。

「可愛いよー」、なんて声も聞こえる。

オフ会というより、もはやライブだ。



アル:『ありがとうございます…。
まずは、広大なネットの世界から、声だけしか
発信していない私のことを見つけてくださり、
感謝の気持ちでいっぱいです…。

顔を公開することに抵抗がないわけでは
ありませんが、わざわざ時間を割いて
来てくださった皆さんに少しでも
楽しんでいただけるよう、決意した所存です』


こちらこそ、あなたと出会えて感謝です。


最初は言葉が硬かったアルだが、



アル:『わーっ…ペンライトってきれいですね…』


MCが進むにつれ、だんだん笑顔が増えてきた。



沙耶香:『ではここからは…おしゃべりタイム!
アルちゃんが皆さんのお席まで
来てくれますよー。

順番に回っていくので、
皆さん今の席で待っててくださいね』


会場の照明がつき、再び明るくなる。



和:「きた!アルと喋れる!!
ヤバい何話そう…!」


○○:「飛び跳ねないで、恥ずかしい…」


和:「ムリ!すぐそこにいるんだよ…?
落ち着いてるほうがおかしいやん!」


ダメだ。過去一で興奮している。

意味不明な関西弁まで。

もう歌のことなんか忘れちゃったのだろうか。


アルがここに来るまで、

あと五組といったところか。



??:「す、すみません…!」


和:「?」
○○:「?」


突如現れた、ボーイッシュな女の子…



??:「井上和さん、ですよね…!?」




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アルさん。アルさん。アルさん…

あーーなんでそんなに可愛いの。


お目目、お口、お鼻、髪型まで…

全っ部私のドンピシャ。どんぴしゃり。

タイプすぎる。

歌もうまい。うますぎるな。

もうアルになりたい。なんならもう似せてるし。


髪ファサ〜ってやりたい。

そのままナデナデしたい。

私が養いたい。お世話したい。

もはや血肉の一部になりたい。


んーーーーー……



取り乱し過ぎた…


これから推しと話すってのに、

このままいったら即出禁だろ…。


ふぅ…


??:「…あれ?」



あの制服、うちと同じ乃木高じゃん!

…てか井上和ちゃんじゃない!?


あのモブをもひれ伏すオーラで、

彼女と会話できるのは数人しかいないという…

ザ・高嶺の花。


そんな和ちゃんがアルのオフ会に…?


あーーうん、やっぱそうだよなあ〜


かわいい子にはかわいい子が寄ってくる。

さすが和ちゃん、センスまで一流なわけだ。


そんな奇跡の場所に居合わせた私。

これはもう…二人と仲良くなれという

神からのお告げ。

偶然なんかじゃない、そう、これは運命…!


勇気を出して…林瑠奈、動きます…!



瑠奈:「井上和さん、ですよね…!?」




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○○:「…」


和:「はっ、はい…」


瑠奈:「ですよねですよね!
…あ、握手いいですか!?」


和:「えっ、はい…///」


瑠奈:「いや〜〜、かわいー!
今年の運使い切ったなこれは…!」


どこかのライブTシャツに、黒のロングスカート。

僕がさっき見かけた人だ。


歳は同じはずなのに、なんかヤバそう…



○○:「あの、ちょっと…」


瑠奈:「あっ、決して怪しい者じゃないです、
林っていいます。林瑠奈です。
私も乃木高で、和ちゃんと同級生です」


和:「そうなんですね。
疑っちゃってすみません、○○は用心深くて」


瑠奈:「いえいえ〜。…あれれ、
○○さんは和ちゃんの彼氏さん、じゃ…」


和:「ないです。ただのクラスメイトです。」


こんな男に和の彼氏は務まらない、

みたいな目線を林さんから感じて…

いや、きっと気のせいだ。自意識過剰だ。



○○:「ハハハッ…
もう、和ったら冷たいなぁ〜…」


和:「何その喋り方。気持ち悪いよ?」


ご、ごめんって…

でもちょっと怖いよ。

近いうちにサイコ和が開花してしまいそうだ…



瑠奈:「ははっ、仲いいんですね…。
ところでアルと何喋るか、もう決まってます?」


和:「まあ、日頃の気持ちを伝えたり、ね…?
(文化祭のお誘いも)」


○○:「うん…」


瑠奈:「いいですね〜アル愛で溢れてますねー。
私も愛のメッセージはもちろん、
雇ってもらえないか直談判しようかなー、
なんて」


和:「!?
…林さん、好きだからっていくらなんでも…」


瑠奈:「もちろんノープランじゃないですよ。

私趣味で動画編集やってるんですけど、
僭越ながらアルさんと組めば、
もっとチャンネルを伸ばせると思うんです」


まだ若いのに。すごいな〜

確かに今はノー編集だから、無謀な話ではない…


…ってか。


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〈#4〉

それに舞台転換のときとか、

どうしても話の流れが止まってしまう…


テンポは大事だし、どうすれば…

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


その手があったか。

他クラスと協力するなんて、多分前代未聞だけど…



○○:「…林さん。
文化祭準備で困ってること...ないですか?」





アル:「ありがとうございました〜

…!あの制服って、まさか…」




アルが○○たちのもとへ来るまで、あと二組__




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オフ会終了後、乃木女方面では…




土曜の今日も、予備校にこもる私。


アルノはいいなあ、楽しそう…

最近学校でもまともにしゃべってないよなぁ…

この投稿も、なんのことだかさっぱりだし。


私になにか隠し事してるのかな?


瑛紗:「もしかして、避けられてる…?」



そ、そんなわけないよ…!

誰にだって秘密の一つや二つ持ってるし。

楽しいことなら、きっといつか教えてくれるよ、

アルノから…!


お腹もすいたし、唐揚げ食べて元気だそ!



ん、DM。知らない人からだ。



なになに…


突然すみません。乃木女の一年です。……
ぜひお話したいです。お返事待ってます。



…?

なんか違和感…

本当に乃木女の人?

これは高校生が書いた文章なのか…?


…う〜ん考えすぎか、絵文字が多いだけだよ。

返信返信っと。


いけだ

はじめまして、いけだてれさです
メッセージありがとう!
先輩であるこの私に、
何でも聞いちゃってください( ・_・)/-------◎

18:46



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??:「くくっ。アルのお友達ゲ〜ット♡

知らないおじさんにお返事するなんて…
悪い子にはお仕置きが必要だね、
テレサちゃん…♡♡」




#7に続く