推しを推す前につながりたい #1
理想が邪魔して
真実を見失う
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「エスカルゴ」。
10年の歴史を持つ、
現在大人気の女性アイドルグループ。
この春、新しいメンバーが公開され、
世間の注目度もアップ。
さらなる快進撃を見せるかと思われたのだが…
○○:「燃えてるなぁ…」
中西アルノ。新メンバーの一人。
初公開から二週間後、
いきなり新シングルのセンターに選ばれた。
彼女の特徴は、
なんといっても圧倒的な歌唱力。
センターに選ばれるのも納得だと、
僕は思っていたのだが…
新シングルが動画サイトで
初生披露された翌日。
彼女に関する、真偽不明の噂が
ネット上で広まった。
どうやら彼女は、加入前に歌い手として
動画サイトにカバー曲を投稿していたらしい。
チャンネル登録者数は一万人ほど。
その活動の一環として、
SNSも開設されていたのだが、
そこでの発言が過激であると、
ネットで炎上騒ぎになった。
...確かに、少々過激かなと、僕も感じた。
でも僕の中高の友達にも、
リアルとネットで印象が
全然違う人はたくさんいたし、
今の時代、珍しいことでもないと思う。
流石にかわいそうだと、
僕は彼女に同情していた。
○○:「…ただのファンだけど。」
それでも炎上は収まらず、
初生披露から一週間後、
ついに彼女は
活動自粛の処分を受けてしまった。
うーん、ちょっと納得いかない。
なにか僕にできることはないだろうか…
もし僕が過去に戻れたら、
助けられるかもしれないけど。
タイムマシンがあればなあ...
そもそも彼女は歌い手時代、
顔を公開してなかったし、
なんで特定されたんだろう…
彼女の高校時代の同級生が
リークしたって噂だけど…
○○:「はっ!もうこんな時間!」
外はもう真っ暗。
バイトの時間まであと10分。
僕はワンルームマンションから飛び出し、
急いで自転車に乗り込む。
このままじゃ遅れる...間に合わない。
駐輪場から道路に飛び出た瞬間。
○○:「えっ、眩し…」
トラックが横目に入ったことは覚えているが、
…そこから先の記憶がない。
○○:「うそっ…轢かれた…?!」
痛さを感じる時間もなかった。
こんなにもあっけなく。
まだ社会人にすらなってないのに。
○○:「僕の人生、これで終わり..?」
まだやりたいことがいっぱいあるのに。
彼女すらできたことないのに。
ダメだ、意識が遠のく……
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…ん?なんか光が見える…
誰かの声もする…
○○は足を震わせながら、
光のもとへ歩いていくと…
おんぎゃあ、おんぎゃあ...!
看護:「おめでとうございます、元気な男の子ですよ〜」
……?
え……??
赤ちゃん…になった?
隣には母さん…?もいる。
嬉しそう。
うん、間違いなく僕の母さんだ。少し若い。
生まれ変わった…わけじゃない…?
でもエスカルゴとか、大学とかの記憶もある…
どういうこと…?
僕はこの状況がさっぱり理解できないまま、
30分泣き続けたあと、
疲れ果てて眠ってしまった……
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時は流れ…
15年後。
今日は入学式。
僕は乃木高校に進学した。
親も含め、誰にも話していないが、
どうやら本当に人生二周目らしい。
自分が変わらない限り、
一周目と全く同じ人生を、もう一度歩んでいる。
小中学校を経て、ようやく
現実を受け入れることがてきた。
ちなみに、
赤ちゃんの頃から言葉を喋ることができたが、
流石に怪しまれるのでやめておいた。
高校は今回も乃木高にした。
前回は合格点ギリギリだったが、今回は余裕。
一周目での知識があるからね。
ただ一つ、前回と大きく違うのは…
??:「あっ、○○〜!」
和:「ごめーん、遅くなった!」
幼なじみの井上和が、
同じ高校に入学したのである。
#2に続く