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死ぬまでに一度は飛んでみたかった(バンジージャンプしてみた話)

「そうだ、バンジージャンプしてみよ」

 2020年の秋、不意に私は思い立った。

 学生のころから、死ぬまでに一度はバンジージャンプしてみたいと思っていた。
 どうせ飛ぶなら日本一がいい。(海外は高すぎて怖くてさすがに無理だと思った。価格も高度も。)

 長らく日本一の高さは茨城県の竜神大橋のバンジージャンプだったのだが、あいにくと私の居住地からは遠い。
バンジージャンプ自体が2~3万するうえに交通費も往復で2万ほどかかる。となると、学生の私にはややためらわれた。
 社会人になるともはやバンジージャンプのために茨城まで行くのもなあ…と私のめんどくさがりなところが邪魔をして、行きたいと思うだけの日々が続いた。

 ところが、昨年2020年の秋だ。
 当時の私は報われない恋愛に悩んでいた。(いまもだが)

「こんなにつらいならいっそ死んでしまいたい」

「でも、振り向いてくれない男のために死ぬなんて絶対にいやだ…泥水すすってでも這ってでも生きてたい…」

「そうだ、バンジージャンプしてみよ。飛んだら何か変わるかもしれない。何も変わらなくても、やってみたいって口だけじゃなくて実行できたって満足できるかもしれない」

 単純である。

 これはもう、いくらかかろうとも茨城まで行くか、と思い始めていたころ、ネットサーフィンしていた私の目に飛び込んできた記事があった。

 そこには「2020年8月、岐阜に日本一のバンジージャンプができた」旨が記載されていた。

 な、なんだってー!?岐阜!?!?岐阜なら日帰りで車で行ける範囲じゃないか!!!!!
 そのうえ、コロナキャンペーンと称して、定価3.6万円のところ、なんと2万円で飛べるという。

「え、運命?」

 すぐその場で予約した。といっても私の都合で飛ぶのは2021年1月になったが。新年早々だなあ。

 実家の父に「私バンジージャンプすることにした!」と報告すると、心配だったのと興味もあってか「俺が車出して連れて行ってやる」と申し出てくれたので大変ありがたかった。

 あとあと興味を持ってくれた友人も誘って、父と私と友人の3人でいざ岐阜の新旅足橋へ。

 到着して思ったこと。

「めちゃくちゃ普通の橋だ…道路だ…」(ヘッダー画像参照)

バンジージャンプのための橋があるのかと思っていたら、そうではないらしい。道路として利用している橋の真ん中で飛ぶのだ。

 受付を済ませると、衣装を着せられる。
 ムササビスーツというらしく、たしかに両手を広げると、ムササビのようなシルエットになる。なんだか少し間抜けだ。

 同じ時間帯に飛ぶのは、私と友人を含めて5人いた。
 友人が3番で私は4番。

 スーツをひきずりジャンプ台手前まで移動し、先の人たちが飛ぶのを眺める。
 思ったより順番が来るのは早かった。

 外国人の係員に促され、ジャンプ台へ。いや、こわっ!!!
なんだこれめちゃくちゃ高い。しかも「つま先は台からはみ出して立つように」言われる。落ちかけじゃないか!!こわいよ!!!

 スタンバイポイントににそろりと近づきながら正面を見つめる。山だ。
 少し下を見る。川だ。めっちゃ下に川。落ちたら死ぬ。
 私、いまから自分でここから飛び降りるんだ。


 テレビでみるように、「こわい~~~」なんてうだうだ飛ぶぞ、やっぱりまだむり…なんて猶予はなかった。


 震える足先を空に浮かせ、台に立った途端に、係員たちが楽し気にカウントを始める。
 「3.2.1.バンジー!!トンデ!!」

(もうだめだ飛ぶしかない。いくしかない行くぞ私)

「ああああああああああああああああああああああああああ」


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(勢いよく飛び降りる私の図)


 飛んだ。飛んでる!!いややっぱり落ちてる!ああ死ぬ!!!

ムササビスーツのおかげか、真下に落ちるのではなく、ほんの少し滑空するように前方へ進みながら落ちる。まあほぼ落ちてたけど。

 落ち始めるともう恐怖はなくて、興奮していた。もう最高。
 意味わからん、なんでこんなとこから川に向かって落ちてんだ、楽しすぎないか。

 なんなら橋の終わりでこちらの写真を撮っている父に向って「見えてる~~~~~!?!?!?」と叫ぶ余裕もあった。

 問題はここから。落ち切ったところで、ゴムが収縮して、上にもちあげられる。
 結構な衝撃のあと、再び落下。また上に。

 びよんびよんとゴムが伸び縮みする間、私は、後悔していた。

「めちゃくちゃ気持ち悪い…」

 内臓の浮遊感がすごい。なんだこれ。気持ちわるい。下手したら吐く。
吐しゃ物を巻き散らしながら引き上げられるなんてゴメンなので耐えたが…。

 引き上げられるときも地獄だった。びよんびよんの後遺症で気持ち悪いし、冷静になっているから「いまゴム切れたら死ぬのか…」とか考えて怖かった。

 無事地上に戻った時の無敵感ときたらもうすごかった。

「これ以上の恐怖はなかなか味わうことはないだろう。これで私は大体のことは乗り越えられるだろうな」とまで思った。

 落ち切ってからと引き上げの間は、もう二度と飛ばねえと思っていたが、
飛んだ瞬間から落ちている間は本当に、こんな気持ち他じゃ味わえないってっくらいにエキサイティングだった。

 うまく表現できないのがもどかしいのだが、落ちることへの恐怖と、落ちるとわかっていてなお飛んだ自分への誇らしさと、普通に生きている分には一生体験することのない高所から落ちるという経験への興奮とで、周りの音すら一瞬脳が遮断したほどに。

 いつかやろう、で先延ばしにしなくてよかった。
 思い切って飛んでよかった。

 終わった後、付き合ってくれた友人と父にお礼とともにそう告げた。

間違いなく2021年で一番インパクトのある経験だった。いや、もしかしたらそれを超える何かがまだ待ち受けてるかもしれないが。

 興味はあるけどそのうち、と思っている人がいたらぜひとも飛んでみてほしい。

 ちなみに男性は少し注意してほしい。
同行してくれた友人曰く、「落ち切って跳ねたときに股間が固定器具に挟まれてぐりっとなって死ぬかと思ったから二度とやらない」らしいので。


 死ぬまでに一度は飛んでみたかったから飛んでみた話。

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