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「強制入院」ってあんまり言わないよねって話

 精神看護ではここ2回ほど、「強制入院」についての特集を組まれています。強制入院させられたという当事者の話や、抗束帯を付けた経験で涙した話等が書かれておりました。

 強制入院という言葉の対は「自発的入院」。自ら入院を希望し入院することです。一般的に考えれば、骨折した、イレウスになった、内科的に治療が必要になった、救急車で運ばれて手術後そのまま入院になるなどのことが多いですよね。

 これに対して強制入院は医師の診断や都道府県知事の命令により入院となるもの。精神科以外ではないことだと思います。

 ただ、この強制入院という考え方、精神科で働いていると「強制入院だってさ」などとNs同士で会話することはほぼありません。医療保護入院や措置入院などちゃんとした入院形態名で話すことがほとんど。たしかに強制入院ではあるけれど、強制入院させているという上から目線的な意識はありません。

 特に措置入院などが最たる例ですが、たしかに入院する患者さんが「なぜ入院させるんだ」ということがあると思います。しかしどうでしょう、一般的に考えて、警察に通報され警察が対処する出来事って、日常的に起こりますか?

 たとえば、自動販売機で飲み物を買おうとして、なかなか商品が出てこない。こんなときは自販機を設置している業者に電話して対応を求めますよね。それを近くに置いてあったブロックで自販機を壊しはじめたらどう思いますか?また奇声を上げながら大声で叫び、たまたま通った通行人にまで怪我をさせたらどうでしょう。警察を呼びますよね。警察が来て逮捕したあと、全く理解できない不可解な発言を延々と繰り返したらどうしましょう。こういう状態の人が鑑定入院だったり措置入院として入院します。

 まあ、ここまでは大げさとしても、医療保護入院には家族の「同意」が必要で、医師もその家族が本当の家族か、本人と裁判で争ってないか、入院したらこのようなリスクがありますとしっかり伝えています。そこで同意した状態で入院となります。そもそも、家族が入院を希望するには理由があります。何日間も不眠であったり、徘徊してどこかに行ってしまったり、突然高級車を何台も購入したり、大声で昼夜関係なく叫びまくったり。そうでもない限り、精神科に行くという選択肢は一般の人の中にないと思うんです。

 精神看護の記事の中に「夫婦喧嘩をしたら相手に警察を呼ばれ、自殺しようとしたなど嘘を言われ、強制入院となったという相談を受けた」という話がありました。そもそも夫婦喧嘩で警察を呼ぶ選択肢があるのはどうなんでしょうか。警察を呼ぶ方にも、なんらかの事情がありそうだし、警察を呼ばれるほどの夫婦喧嘩ならもはや凶器をつかったり、興奮状態が著しく、家を破壊するレベルでしょう。そして、警察の対応にも問題があると思います。警察も両者の意見をちゃんと取り調べる必要があります。自殺するなんて言ったら状態は切迫していると考えがちですが、そんな一方的な話を信じて入院になるでしょうか。またもし入院となっても、自殺の切迫がなければ、行動制限は早期に解除されます。

 その後も強制的に口に薬を入れられたとありますが、少なくとも私が働いていた過去の病院も含め、そのようなことはしません。内服拒否があればこちらも無理に飲ませません。また内服時にも必要なら薬剤師がどのような薬か説明します。それでも内服しないなら主治医と相談してもらって、内服の必要性と内服薬の説明を医師からしてもらいます。そこでも医師が言うから飲まなくてはにならないように、医師も注意しながら説明をしています。

 この記事の相談内容が大げさや嘘というのではなく、なんか違和感があるのです。なんか自分の働いている環境とちがうなって。

 どうも最近の精神看護の記事は違和感を感じる記事が時々あるんです。なんだら、精神看護と名前は出しつつ、精神看護の「いま」の現場を取材してないんじゃないかって。当事者や支援者ばかりに光をあて、そこを支える我々看護師のための本から離れてる気がするんです。

 実際に興奮状態の患者さんや、入院に納得してなかった患者さんが「あのとき入院してよかった」とか話す模様を取材してもらえば、この違和感は消えるのかもしれませんね。
 
 あ、これだけは言いたいのですが、決して精神看護のアンチではありませんので(笑)これだけの文章書くんだから、むしろファンなのです。だからこそ感想を書きたくて書きたくてたまらなかったのです。

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このマガジンは2人の臨床経験をもとに投稿しています。臨床で困っていること、対応の仕方など脳と精神分野に強い2人が臨床に即した内容で書いています。臨床でお役に立てる内容だと思います。ただし、まだ記事が少ないです。

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