迷惑をかけずに生きてきた人

 僕は患者さんに特に思いを寄せることはないが、印象に残っている患者さんはたくさんいます。

 僕が精神科急性期病棟で働いていたとき、大暴れをして入院となった大柄の60歳過ぎの男性患者がいた。なにが大暴れって、近隣の病院の外来で「なんで診察しないんだ」と暴れ、職員複数で対応しても収まらず、警察の御用となりそのままうちの病院にきた。
 入院するなり「家に帰らせろ!!」の大声。男性スタッフ複数で対応しても収まらず。顔を真っ赤にして怒っている。危険なため身体抑制をしたが、ベッド上でも暴れずぎてベッドがあっちこっちに移動するほど(入院のベッドって鉄製で手で持っても重いのに、抑制され身体の動きだけでベッドを動かしてたんです)。大柄の男性で力がとても強い。こんな危険な人みたことがなかった。まずは興奮を収めないといけないし、なぜこんなに興奮してるのか。ただ時間が経てば収まると思っていた。


 案の定、翌日には暴れなくなった。ただ昨日の様子を知ってるから安易には近づけない。そっと様子をうかがうと「誰だよ!!」と。「あ、看護師です」と顔を覗く。「あ、てめー、昨日いたやつだな?なにしにきた!!」。あら、覚えられてる。あんなに怒ってたのに記憶はあるのかと。「いやー、昨日は大暴れされてたんで、今日は落ち着かれたかなと思って」と。「落ち着くはずないだろ!早く家に帰らせろよ!!お前、医者呼んでこいよ!!」と。昨日よりは会話できそうだなと思いつつ、「とりあえず、ごはんでも食べませんか。お昼ですし」と用意した昼食をテーブルにセットする。「ああ、昼か。なんだかお腹すいちゃったな!おい、これ、どう食べるんだよ。お前食べさせるのか?」。そっか、抑制中か。「じゃあ僕が食べさせます」と。食べ始めると思いの外がっついて食べる。「おまえ、食事食べさせるの下手だな!」「ええ、下手です」と言って下膳。


 翌日、夜勤だった。もう落ち着いてるだろうと、他の患者さんに挨拶したあと、一番最後にこの患者さんのとこに行った。
 「夜勤です。どうです?落ち着きました?」
 「お、あんちゃんか。まいちゃったよ~。なんもやることなくてな。誰も来てくれないのよ」と。
 一通り仕事が落ち着いたとき、この患者さんからナースコールがきた。
 「悪いんだけどさ、おむつ交換してくれないか?」
 「あ、わかりました」
 「この歳でおむつなんて、情けないったらありゃしないさ」
 「大丈夫ですよ。あと何十年後かに毎日つけてますから」
 「あんちゃん、そんなこと言うなよ~。おもしろいこと言うね~」と。

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このマガジンは2人の臨床経験をもとに投稿しています。臨床で困っていること、対応の仕方など脳と精神分野に強い2人が臨床に即した内容で書いています。臨床でお役に立てる内容だと思います。ただし、まだ記事が少ないです。

脳神経外科看護師のあずと、精神科と訪問看護のおぬで運営するマガジン。病態に関すること、臨床での体験談などをお伝えし、同じ科で働いている人、…

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