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ちいさな世界

 私。

 とは一体なんでしょう。

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 今でこそ「私」と言う言葉を使えるようになりました。
 というのも「私」という一人称を使うことに拒否感がありました。
 今も少し躊躇いがあり、仲の良い友人などには、代わりに「自分」という言葉を使っています。


 嫌だ、と感じたのは6歳のころでした。
 女の子は「私」男の子は「僕」を使って、自己紹介をしましょう。と優しい保育園の先生が言うのです。

 この頃、周りの子もそうでしたが、自分を指す場合には、自分の下の名前を呼んでいました。6歳と言うと、もう来年は小学校に入学する時期。大人の階段を登る一歩だったのです。
 次々と女の子も男の子も、先生に言われるがまま「私は」「僕は」と自己紹介をします。

 簡単なもんです。私は の次に自分の名前を言えばよいだけでした。


 ですが自分にはそれができませんでした。
 「私は」と口に出そうとすると、喉に何かつっかえたように声が出ず、鼻がツンとなるばかりで、遂にはポロポロと泣いてしまったのです。

(自分が自分じゃなくなるような気がした)
 と言う他ありません。


 なぜ女の子は「私」と言わなければならないのか。その一般常識は当時の自分にとっては苦しいものでした。
 暫くこの事を引きずり、13の前半まで、自分を指す時は自分の下の名前を呼んでいました。


 私。わたし。ワタシ。
 とは一体なんでしょう。

 ただママごとよりブロック遊びの方が好きで、ヒーローより悪役の方が好きで、美味しいよりウマイと言いたくて、外で遊ぶより絵を描いていたくて、危なっかしくてもブランコから飛び立つことが好きで。

 大人の頭を持ってようやくこれがなんたるかを説明できるようになりましたが、やはり親しい間柄では特に「私」という言葉を言えないでいます。

 きっとどこまでいっても「自分」なのです。

C.Heath / mizo

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