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PON PON PON!
「ぽんちゃん!」
彼女は今でもそう呼んでくれる気がします。
-
あだ名に憧れていました。
なぜならば、あまりあだ名は付けてもらえない方で、というのも、ほんの少しだけ名前が珍しかったからだと思います。
加えて、中性的で堅い性格だったからか、周りに躊躇わせてしまったのも、少しはあるのかもしれません。
さらに、人伝に聞いた所によると
“なんだか怖い人”
という印象があったらしく、それもちょっとは原因なのかもしれません。
いつも苗字か名前かのどちらかで、中学生まで苗字か名前で生きてきました。
高校に入学してすぐに先生がこんなことを提案しました。
「みんなあだ名で呼びませんか。各自呼ばれたいあだ名を紙に書くんです」
高校は専門学科に入学したので、3年間同じメンバーということが決まっていました。
仲を深めるための第一歩としての提案だったのでしょう。
白いボール紙を小さく切ったカードを渡され、それぞれが呼ばれたいあだ名を書きます。
自分はというと、あだ名に憧れてはいたもののいざ「何と呼ばれたいですか」と問われると何も思いつかず、少し迷ってから、下の名前をぎこちなく書きました。
結局、下の名前で呼ばれることになりました。
高校生活にそこそこ馴染んできた頃だったと思います。
すごく仲のいい人はいませんでしたが、広く浅く仲のいい人は多く居て、彼女もその1人でした。
「ぽんちゃん!」
なにも急にそう呼ばれたわけではありません。
「君のあだ名を考えよう」的な名前遊びを彼女が勝手にしていたのです。
「ぽんちゃん」と呼んだ彼女は“ユリヤン”とあだ名がついていました。
どこかエキゾチックな顔立ちの、髪はセンター分けで一見“綺麗なお姉さん”に見えますが、喋ると周りを混乱させるほど天然なのがとても可愛らしく、溌剌とした人でした。
「いまから ぽんちゃん ね。それか ぽんすけ、どっちがいい?」
「え、原型がないじゃない」
と、こんな会話をしたような気がします。
「ぽんちゃん」
「ぽんすけ」
仕舞いには
「ぽんぽん」
原型もなく、唐突にできたそのあだ名は、思ったとおり卒業まで周囲に浸透せず、ユリヤンだけがずっとそう呼びました。
たまに一緒に絵を描くと、彼女は狸を描いたりなんかして「ぽんちゃん」と言いました。
実を言うととても嬉しかったのです。口には出しませんでした。
初めて付けてもらったあだ名は、自分に似つかない、おもちゃ箱のように華やかで、キラキラピカピカとしていました。
あの時「ありがとう」と言えるくらい素直だったら、と今でも思います。
高校卒業後、ユリヤンとは一度も会うことはなく、この先連絡するかわからないメッセージアプリだけが彼女との繋がりです。
もしいつの日か
「久しぶり」
と彼女に送る事があったなら、彼女はきっと
「久しぶりぽんちゃん」
と、今でもそう呼んでくれる気がするのです。
C.Heath / mizo
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