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これは夢に決まっているわ


Must Be Dreaming / Frou Frou                                                                          I'm losing it
I must be dreaming
I must be dreaming
I must be dreaming    

自分を保てない
これは夢に決まってる
私は夢を見てるのよ
夢に違いないわ


私のとって今敏監督の作品に触れた初めての映画は『PERFECT BLUE』だった。「私」と「他者から見た私」の境界線がなくなることについてサイコホラーというジャンルで描かれたこの映画は、物語もさることながら刺激的な表現、キャラクターの身体の浮遊感に強烈な印象を受けた。
「ユリイカ 特集=今敏の世界」に記載さている木澤さんの文にあるように、この作品の他に同年代には『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』、『lain』などの作品が発表されている。この時代はノスタルダムの大予言の終末思想や、インターネットの黎明期であり、それらを入り混じらせた鬱々とした雰囲気のものが多い。こららは今でもゼロ年代の亡霊、呪いとして役割を果たし、その地続きに現在では「加速主義」などが生まれたのではないかと自分の頭の中で地図を書いている。

肉体と私の不安定さ、あなたの中の私、私の中のあなた、という他者の介在のありようを描いていることに重点を置いて触れた時、今敏の描いているものをまた違った視点で見れるのではないかと思う。

『PERFECT BLUE』はアイドルである未麻とこれからの女優業などを目指す未麻で自分自身の中で成り立っているのだが周囲の目によってその境界線を意識せざるを得なくなり、精神を病み、夢と現実の境を曖昧にさせてしまう。
アカウントを複数持っている状態を乖離などの精神病とも捉えた時、これらの統合は非常に難しい。人と接触するときの自分のアイコン(顔)は角度によって様々に写る。それをメールアドレスや電話番号を使い複製し、それぞれにアイコンを与えることは精神的ショックにより人格を産み名づけること、これは「多重人格(multiple personality disorder)」に近い。
人が死んでもアカウントがあれば生きているように錯覚し、人が生きていてもアカウントが消えていれば当人の情報が入らない限り死んだことになる。
身体が画面に映らず現実で直接つながることができなければ死を意味する。
『lain』に登場する主人公・岩倉玲音は仮想空間の中に自身を作り上げ、それがあることで銃を引き自殺を完了させた。しかしこれは肉体を無くしただけであり、仮想空間の中では玲音は生き続けているのだ。そう、これは統合である。
『攻殻機動隊』の中でもデータが保存されていれば肉体、ロボットに差し込むことでいくらでも復元可能である。これはアカウントのログインにも捉えれる。アイコンを変更し、IDを変更すればまた生きのびれる。(「個」を守るにはまた別の課題が発生するが)
パプリカを捉えた小山内は「いくつもの顔がある。それが人間だ!」と叫ぶ。精神病はその病理を自分自身が理解し、受け入れた瞬間に病状が良くなる場合が多い。『PERFECT BLUE』のラストシーンの未麻が鏡に向かって「私は本物」と呟くシーンも未麻がこれから向かう未来が好き状態に向かうように思える。(しかしマネージャーのルミは自分を未麻だと思い込んだままであるし、他の解釈ではこの未麻はどの未麻かと言及されることもある)



『パプリカ』の劇中には「夢が混入してきている。」というセリフがある。これら二つはトラウマと夢という差異はあるが、ある種の「虚構(fiction)」が開かれ過ぎて閉じられない状態という点では共通している。トラウマはフラッシュバックして私たちの住まう世界に時を戻し精神を浮遊させる効力を持っている。今敏の虚構の侵入はそれを視覚的にわかりやすくしているように思う。夢は視覚情報にかなり依っているため、アニメーション映画によって身体の重さを省き、記号化され、夢によってふやけたあやふやな、境界線を描くことは「再演(replay)」を可能にする。

少し話が変わるが『pet』というアニメ作品が2019年に放送された。
この作品では人の記憶が詰まっている部分を「場所」と呼び、その中でも「ヤマ」と「タニ」という部分は人格形成において重要であり、その部分を書き換えることで記憶を改ざんすることができる。忌むべき記憶=トラウマである「タニ」の部分に潜る際、自身も接続し過ぎてしまい元に戻れない状態が作中では登場する、それは「開き」過ぎた状態なのだ。悪夢を見続けるように人のトラウマの映像が様々に隠喩された状態で脳内に入り込んでくる状態…。

開き過ぎた状態をどう閉じるか。開けたり閉めたりを繰り返す中で自身を承認すること「再演(replay)」を「中断(cut)」するにはどうやってエンドロールを流せばいいのだろう。私は本物なのに。




明晰夢にかなり高い確率で入る自分流の方法がある。
まずベッドに横になる、体に何も乗せない少し寒いが掛け布団も床に落とそう、極力肌に何も触れないようにする、目を閉じる、頭の中で高い場所を想像する、私はよく吊り橋やビルを想像する、そこから飛び降りる、ジェットコースターが落ちる時や飛行機が離陸する時の浮遊感を味わったらそのまま夢の中に入ることができる。夢に自分から混入しに行く姿勢を是非やってみて!




先日夢を見た。
* – ペットボトルの緑茶を口の中に含む。口の中に違和感があり吐き出すと3本の女の指だった。赤い爪からしてこれは女の指だ。 
心臓に強い痛みを感じる。起床。
これは夢だ、大丈夫、起きてから水を口に含む。女の指は入っていなかった。大丈夫、これは夢。-



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