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コンセプトがある家具

武蔵野美術大学大学院造形構想研究科クリエイティブリーダーシップコースクリエイティブリーダーシップ特論 第16回藤森泰司さん

 10月23日、家具デザイナーの藤森泰司(藤森泰司アトリエ)さんの講演を聞いた。デザイナーは「価値のある情報を届ける」という点で、マスコミや研究者と似ているところがあるように思う。なぜならその情報は、時代にあったもの、かつ、これまでになかった視点でのメッセージになっているからである。


●藤森さんの家具には「コンセプト」がある。

 藤森さんの家具には、単に実用性を超えた意味、あるいはメッセージが込められている。メッセージを言葉で伝えるのではなく、デザインでカタチに落とし込んでいるのである。
 コンセプトをプロダクト(道具)に落とすことは、コンセプトを言葉で規定することよりも数段難しいと思う。メッセージ性を出そうとすればするほど、プロダクトのデザインとしては奇抜になる。デザインが奇抜になったとき、顧客がそのプロダクトに本来求める実用性を担保できるか。メッセージの強さと実用性のバランスを考慮しなくてはいけない点がアート作品とは違うところで、メッセージを伝えつつもプロダクトが本来持つ機能性・実用性を損なわないような造形が求められる。

 優れたコンセプトに基づいて作られたプロダクトが、優れたものになるとは限らない。どんなに価値のあるメッセージが込められていても、そのアウトプットとなるプロダクトが、媒介として十分に機能するかは、別問題である。コンセプトとプロダクトには相性がある。もしアウトプットがあらかじめ決まっている場合、必ずしもコンセプトを決めてからデザインをする、というトップダウンのやり方にこだわる必要はない。そのアウトプットから逆算して、ふさわしいコンセプトを考えるということもできる。

●コンセプトをプロダクトに落とす難しさ

 本当は、コンセプト開発とプロダクトデザインの役割は、明確に分けない方が良いと思っている。コンセプトを言葉で規定するのが得意なコピーライター、もしくはマーケターなどはたくさんいる。しかし、そのコンセプトが、対象となるプロダクトにうまく落とせるのか、つまりコンセプトとプロダクトの相性は、デザイナーの視点で考え直す必要が出てくる。もしコンセプトとプロダクトの相性が悪いならば、コンセプトか(アウトプットとしての)プロダクトかの、どちらか、もしくは両方を再考しなくていけない。
 「コンセプトとプロダクトの相性」は、実際には「ある程度作ってみないと分からない」ということが多い。頭で考えるだけで「相性が良い/悪い」ということはなかなか判断できず、結局プロトタイピングが必要になってくる。
 だから私はコンセプトを考える人も、プロトタイピングに参加するべきだと思っている。実際に「筋が悪い」という判断になった場合でも、自分の目で見て納得することができているはずだし、形から新しいコンセプトを思いつくこともあるからだ。

 以上、コンセプトをプロダクトに落とすハードルは高いが、もしメッセージ性と実用性を高いレベルで両立させるデザインができた場合、そのプロダクトは代替品のない唯一のものになるはずである。そして作り手のメッセージが、個人に対して一番深く浸透するものは、日常的に使うプロダクトだと思っている。言語メッセージよりも、アート作品よりも、身体全体で直接体感するプロダクトの方が、受け手との感覚的・感情的な接点が多いからである。しかも、家具などのように常に生活空間にあって使用するものならば、なおさらである。

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