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GTGS 21 -- Day 2(Part II)

▼GTGS 2日目を取材した記事(Part I)はこちら


■次の最前線:健康と長寿社会【経済再生担当・西村大臣、SOMPO・櫻田CEO登壇!】

人々がかつてないほど長生きしている今、長寿社会を支えるための革新的なアイデアとは――リスク軽減のためのデータ利用、意思決定を助けるテクノロジー。官民を代表するスピーカーが集い、長寿社会へのテクノロジー実装を議論しました。

1月のダボスアジェンダでも話題になった「ピンコロ社会」(Pin Koro Society)が再び!SOMPOの櫻田CEOは最期の日まで健康で幸福に生きることが可能な社会の実現がHealthy ageingの一つの定義だと発言。中長期的なテクノロジー実装政策によるHealthy Ageingの実現により、労働参加率の上昇など経済の持続可能性を図ることも可能であると述べました。

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テクノロジーの実装に関しては、AARPのAlison Bryant氏が、健康寿命を促進する取り組みとして発話に問題のある人々に対しボイスアシスタントを提供する会社への投資を挙げたほか、Johnson & JohnsonのSophie Guerin氏は、従来より長い人生への準備のため、個人情報に基づいて医療から教育、投資先まで幅広いリコメンデーションをユーザに与えるアプリケーションの開発事例を紹介しました。対してDeloitteのStephanie Allen氏は、サービスの提供を受ける側とする側が安心してテクノロジーを利用できるよう、倫理を踏まえた形でデータ共有を行う重要性を強調しました。

経済再生担当の西村大臣は、日本がCOVID-19対策に一定の成果を挙げた背景としてスーパーコンピュータ「富岳」によるシミュレーション、経済学的分析、人工知能など科学的根拠に基づく対策への取り組みを強調。今後の医療政策にもこうしたデータの活用を継続したいと意欲を示しました。

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■ヒトの移動に関する信頼の再構築【NEC・遠藤会長、シンガポール・バラクリシュナン外務大臣登壇!】

デジタルID、顔認証、ヘルスパスといったテクノロジーが旅の再開に向けたトラスト再構築に役立つことが期待される一方、このテーマはプライバシー、国際的な相互運用性(インターオペラビリティ)、インクルージョンなどデータに関わるさまざまな問題が含まれています。個人の健康状態を確認する仕組みを、グローバルに相互運用可能かつ信頼できる形でデザインするためにのモデルとは?

観光が一大産業である南アフリカのKubayi-Ngubane観光大臣は、南アフリカへの渡航に対するトラストを取り戻すために複数のテクノロジーの実証実験を行っていると語りました。こうした技術導入の際、常に問題になるのがデジタル格差。その解決策の例として、Googleと共同で進める農村部でのデジタルプラットフォーム構築を紹介しました。

グローバルな物流ハブであるシンガポールのVivian Balakrishnan外務大臣は、ワクチン接種歴やウィルスを媒介している可能性など、複数の情報を示すヘルスパスが不可欠と指摘。プライバシーが問題となりやすい接触追跡にも言及し、説明責任を果たすこと、民主的なプロセスを経ること、この二つが政府の役割であると強調しました。

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NECの遠藤会長は、生体認証と個人データから成るデジタルIDの促進には、データ利用への説明責任に加え、透明性こそが信頼の構築に必要であるとの見方を共有。この具体策として、世界経済フォーラムと共同で作成した顔認識テクノロジーの利用に関するフレームワークに言及しました。

▼顔認証データに関するフレームワークについてはこちら



■デジタルインフラの未来【デジタル改革担当・平井大臣登壇!】

IT活用を支える技術基盤となるデジタルインフラ。物理的なインフラとのシナジーを念頭に、既にさまざまな取り組みが行われています。安全、自由、透明、サステイナブルなデジタルインフラ実現の重要性について議論が行われました。

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デジタル改革担当大臣の平井卓也氏によるデジタル化のビジョン提言により、セッションは幕を開けました。日本政府は今年9月のデジタル庁発足に向けて、既存のIT基本法を廃止し、未来へのビジョンを示すための新しいデジタル政策を打ち出そうとしています。自然災害や少子高齢化といった課題を含め、国民にとっての安心・安全・倫理的であることを軸にデジタルを社会インフラにしていく姿勢が表明されました。またDFFT (Data Free Flow with Trust、信頼性のある自由なデータ流通)にも言及。「コロナ禍で生活に変化が生じ、社会的なコンセンサスを得られやすい状況の今、普遍的な価値観を共有できる国と協力して、DFFTの具体化にスピードをもって取り組みたい」という言葉が印象的でした。

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インドのIT企業Tech MahindraのCEO、C.P. Gurnani氏も、信頼性のあ
る目的にかなったサイバーネットワークや、デジタルインフラの重要性について語りました。全ての村で5Gを使えるようにするためには財政面で膨大な負担がかかるが、その資本や予算を企業やセクターと協力しながら工面する必要性に言及。デジタル時代の公共財を官民連携で担っていく姿勢が明確に示されました。

物理的インフラとデジタルインフラを相互に活用していくアイデアも挙がりました。SiemensのCTOのPeter Koerte氏によると、資源がなくなりつつある中、デジタルテクノロジーがより効率的な物理的インフラのマネジメントにつながることを提唱。EDGE nextのディレクターSandra Gritti氏も、データ流通の促進に伴い、建物や物理的スペースのサステイナブルな対応力を上げていく必要性があることを述べました。

プライバシー保護の意義やデータ所有権については、データ流通のリスクに関する誤解を解くための対話の必要性で一致。またフィジカルとデジタルを組み合わせた世界 「デジタル・ツイン」については、自然災害の多い日本のようにより多くの命を守るためのデジタル・ツインへの取り組みのほか、建物やスペースを含めた都市のデジタル・ツイン構想なども話題にあがりました。

デジタル庁発足まであと5ヶ月。平井大臣の背景に “Government as a Startup” とあったように、新たな取り組みがどのようなデジタルインフラのデザインにつながり、どのように国民の命を守り、どのようにイノベーションを育てていくのか。デジタル時代の政策は、政府だけのものではなくなりつつあります。自分たち一人ひとりの姿勢についても考えさせられます。



■  経済復興とスマートシティ【赤羽一嘉国土交通大臣登壇】

パンデミックによる景気後退は、米国だけで1兆ドル規模と言われ、地域経済は危機的状況にあります。経済を再興するためにテクノロジーはどのような役割を担えるのか。限られた予算のなかで、どうすれば持続可能な地域投資を実現できるのでしょうか。

当セッションの冒頭では、Jeff Merritt氏によるG20 Global Smart Cities Alliance(GSCA) の背景やこれまでの活動について説明がありました。

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その後、Opening Remarksとして国土交通大臣の赤羽一嘉氏より、国土交通省のスマートシティに関する取り組みをお話頂きました。中でも、レベル3の自動運転車の公道での走行を可能とする法整備についてや、3D都市モデルを全国50以上の都市で構築、大田区羽田地区では3D都市モデルを物流や警備等に活用しているといった事例を述べられました。また、GSCAへの取り組みについて関係省庁と協力して進めていく旨のお話がありました。

また国交省では官民連携や国際連携を進めるべく、「官民連携プラットフォーム」や、「日ASEANスマートシティ・ネットワーク官民協議会」の設立といった取り組みについて言及した上で、今後、関係府省と連携しながら、G20 Global Smart Cities Allianceを支援していくことも表明されました。官民連携だけではなく、政府間でも様々なレベルでも協力して進めていくという点が印象的でした。

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その後GSCAのパイオニア都市の一つである、メルボルン市長のSally Capp氏からは、メルボルン市のスマートシティに関する取り組みについてお話がありました。特に、Covid-19によってテクノロジー活用がより早まっており、リモート教育や電話会議などが進んだことで、メルボルン市の業務効率も高まっていると話がありました。また、街に設置したセンサー等の情報から、人がどの程度街に戻ってきているのかをモニタリングし、政策に生かしているといった点のほか、地方公共団体がデータによって実現できることを正確に理解して取り組みを進めて行くことが必要といったお話がありました。ただ、都市の活動の在り方を考え直していかなければ、復興も難しいといったお話がありました。

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これを受けてヘルシンキ市長のJan Vapaavuori氏からは、都市のパンデミックへの対応力として、デジタル技術の利活用が、都市の堅牢性や回復力の観点で、再認識されているとお話がありました。一方で、氏が協調していたのは、環境への減らすための、再生可能エネルギー活用の重要性について触れ、経済が低下し、財政に余裕がなくなったからといってR&Dを削減するのではなく、将来のための投資をしっかり行っていかねばならないというお話がありました。特に、脱炭素化のアプローチについては、他都市の良事例を参考にしながら、都市間連携、グローバル連携を進めて行くことが有用であると指摘しました。

その後、デロイトのDeborah Sills氏は、新型感染症を受けた世界情勢に鑑みると、スマートシティの取組において、官民連携(Public Private Partnership)は益々重要な視点になってきていると指摘しました。PPPやプライベート・ファイナンス・イニシアティブ(PFI: 公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法)の実施において、民間部門とのデータの共有、マネタイズの整備が必要であり、同時に、透明性・公平性が担保された環境で議論していくことが求められているとお話がありました。

また、財源については、インフラ企業との連携・省庁間連携により、調達面の改善が可能であり、今後のスマートシティの取組においては、契約先の選定方法・契約形式など、調達のモデルを再構築する必要性についての問題定義がありました。

そして、Quantela社のSridhar Gadhi氏は、パンデミックにより世界中の都市が財務的な課題に直面しており、スマートシティを進めていく上でこれが大きな課題であると述べました。そうした中、スマートテクノロジーの導入に際し、サステナビリティをどう担保していくかが、重要であると見解を述べられました。具体的な事例として、インドでのスクールバスのモニタリングによる交通違反の可視化を挙げ、これまでスピード違反等があっても取り締まる方法がなかったが、テクノロジーによって交通違反を可視化することで、違反を正しく捉える事ができるようになった事例や、スマートライトを導入し、コストが下がった分を地域のWifi網に活用した事例についてお話がありました。

その後のディスカッションでも、都市が今後注力していく分野として、国と地方自治体がどのように協業していくのか、また今後GSCAの活動を通して注力していくべき分野として、持続可能なスマートシティプロジェクトを進めていくべく、国や地方政府の連携、官民連携や調達方法への議論をより深めていく必要性について議論されました。


■データ駆動による循環型成長【経産省・梶山大臣、三菱重工・宮永会長登壇!】

セッション冒頭に挨拶を述べた経産省・梶山大臣は、多くの国々がカーボンニュートラルに取り組んでおり、国と企業の関係が変化しつつあると指摘。国と企業が一体となったイノベーションが鍵であり「グリーン社会はデジタル技術無くして実現しえない」との見解を述べました。一方でデータ流通量の急増により、デジタル化を支えるインフラのエネルギー消費増加が懸念されているとし、「グリーン化」「デジタル化」を両立化させるビジョン、枠組みが重要だと述べました。

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サーキュラーエコノミーについては、日本が家電・自動車等のリサイクル制度整備などにより資源の有効利用を進めており、国際的にも3R(Reduce・Reuse・Recycle)のトップランナーだと表明。日本のメルカリをデジタルが個人の生活レベルで循環経済を埋め込んだ好事例として紹介し、課題に対しては循環性に優れたサービスをより高く評価する市場環境を整備することも必要だと意欲を示しました。

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セッションでモデレーターを務めたのは読売新聞社東北支局長の長谷川由紀氏。2050年までのネットゼロ目標に対しいかなる最先端技術を応用するのかという質問に、三菱重工・宮永会長は3Rの加えて資源利用における「Less」「Longer」「Smarter」のコンセプトを挙げ、オランダでの天然ガス焚きGTCC発電所の水素焚き転換プロジェクトなど自社の取り組みを紹介しました。



■産業転換をリードする【東京都・小池知事、シーメンス・スナベ監査役会会長、API・船橋理事長登壇!】

最終日に共同議長とともに産業転換の可能性を探るこのセッションではAPI・船橋理事長がモデレーターを務め、テクノロジーの恩恵を最大化し、その力を統御するための展望を議論しました。

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世界のリーダーがこうしてオンラインで集い、議論していること自体がテクノロジーの飛躍を象徴している――東京都の小池百合子都知事は「COVID-19パンデミック」と「気候変動」という2大危機に直面している世界を指摘し、人間としての「心・技・体」のバランスや、東京都が取り組む気候危機行動ムーブメント「TIME TO ACT」を紹介しました。テクノロジー実装において重要なことはインクルーシブであること、つまり「誰も取り残さない」ことだとも訴求しました。

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シーメンス・スナベ監査役会会長は、COVID-19パンデミックは危機ではなく、新しい未来をもたらす機会だと語ります。パンデミック以後の世界でも引き続き世界が取り組む課題として、小池都知事の挙げた「気候変動」に加え、「デジタル化」と「グローバル化」が重要なテーマになると指摘。持続可能な産業転換のため、責任あるデジタル実装や気候変動へのグローバルな協力を呼びかけました。

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▼登録不要|視聴はこちらから(終了後オンデマンド配信あり)

執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
ティルグナー順子
大原有貴(インターン)

ヘルスケアデータ政策チーム 井潟瑞希(インターン)

データガバナンスチーム 上原さら (インターン)

スマートシティプロジェクトスペシャリスト 平山雄太
スマートシティプロジェクトフェロー 黒石秀一


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