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【開催報告】データ取引市場とは?

2021年8月5日@オンライン                        登壇者(敬称略)                             山室芳剛(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター長)
工藤郁子(同 プロジェクト戦略責任者)                  中西友昭(同 サンフランシスコフェロー)                 八十島綾平(日本経済新聞デジタル政策エディター)

「データ取引市場」をテーマにメディアワークショップを開催しました。報道関係の方々のほか、企業や官公庁から出向中の当センター・フェローも参加し、新たなデータ流通の要となる取引市場構想についてさまざまな視点・論点が提示、議論されました。その一部をご紹介いたします。

データ取引市場と日本政府

まず山室からは、日本政府の「知的財産推進計画2021ーコロナ後のデジタル・グリーン競争を勝ち抜く無形資産強化戦略ー」や「包括的データ戦略」においてデータ取引市場が取り上げられていることを紹介し、当センターとしても政府のこうした動きと連携しながら実証を推進していくことを表明しました。

コロナ禍を経て定着した視点: 「データ利用の目的」

次に「DCPI(共通目的データ・イニシアチブ)概要」と題して登壇した工藤は、まず、コロナ禍を経て、データとその扱いに対する世の中の考え方が大きく変わったことを指摘。データの性質(個人情報かどうか等)とあわせて「データ利用の目的」により焦点を当てることにより「権利の尊重を大前提として、利用の許諾の個別化を通じてデータの価値を最大化する」ことを念頭に置いた取組みが、グローバルで加速している現状を紹介しました。

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なかでもデータ流通に変革の仕組みを提供する「データ取引市場」は、すでに先行事例が登場し、実証に向けた取組みには巨額の投資も行われています。この仕組みを捉えるキーワードとして「利用目的に応じたデータのタグ付け」「スマート・コントラクト」「利用者とデータ品質の信用格付け」「データ・マッチングの仕組み」「リワード」などを紹介。さらに国レベルの視点として「自国のデータ取引市場を、いかにグローバルとつなげるか」という相互接続性(インターオペラビリティ)が焦点になりつつあると解説しました。

データ取引市場の国際的な取り組みについてはこちら↓

DMSP(データ取引市場の運営事業者)とは?

次にサンフランシスコから登壇した中西は「Data for Common Purpose ー データ取引に向けて」と題したセッションにて、前日に世界経済フォーラムから発行された提言書の筆者としてその内容を紹介しました。

まずデータ取引市場構想がでてきた背景、そして信頼性を確保しつつ、市場参加者のインセンティブを高めるようなデータ市場の仕組みを構築する必要性を指摘。そして株式取引における証券取引所というインフラの仕組みに着目し、データ取引所においても主要な運営管理者、すなわちデータ取引市場の運営事業者(DMSPs:Data Marketplace Service Providers)が、データ取引市場における重要なインフラになるとの仮説的前提をもとに議論と分析が行われていることを明らかにしました。

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さらにトラストアンカーであるデータ取引市場の運営事業者(DMSPs)の役割と責任、さらにその論点について詳細に解説しました。内容は提言書を解説した下記でもご紹介しています。↓

今後は、世界経済フォーラムの場を活用して有識者と議論を重ねると同時に、日本・インドを始めとする各国で実証を推進していく予定です。

さまざまな論点

続くディスカッションでは、日経・八十島氏を中心に、さまざまな論点が提示され、意見交換がなされました。そのうちのいくつかをご紹介します。

想定されるユースケース
実証実験の段階では、健康、医療、介護、教育、防災といった準公共分野が期待されている。例えば介護データなど、それぞれの拠点に閉じているデータを共有するだけでも、ケアの質の向上や介護者の負担軽減など、社会課題の解決に役立つ。その他、産業分野では農業における天候予測モデリングや、工場などの現場における事故予防モデリングなど、リスク管理に貢献できるデータ群がある。単体のデータもあるが、複数のソースからなるデータをマッシュアップして掛け合わせて提供していくようなかたちも、でてくるだろう。
オープンデータの取込み
「データ取引市場」というと有償データだけのように思えるが、無償データも取引の対象になりうる。最近注目されているベース・レジストリ(マイナンバーや地理空間情報など社会全体の基盤となるデータベース)のランニングコストを回収する上で、データ取引市場は貢献できるかもしれない。例えば、標準規格を皆が使えるようにするための、特許の「フランド宣言」(公正、合理的かつ非差別的な条件)のような仕組みを導入すれば、誰もがアクセスできるというオープンデータの特性を維持することが可能だと考えている。
規制のありかた                              日本政府の「包括的データ戦略」においては、デジタル庁が国内のデータ取引市場の司令塔として示された。市場の活性化と流動性の確保、そして、信頼性の担保を念頭に置きつつ、規制のありかたを検討していくことになるだろう。

その他、値付け、リワード、買い占めや独禁法との関係などが指摘され、国際的な動向を踏まえた議論が行われました。

【ご参考】金融法制が支えるデータ取引所 政府「創設」明記へ:NIKKEI Finaicial (有料サイト)

終わりに

昨年まで、まだ机上の構想に思えた「データ取引市場」。今年にはいって各国の実証的な取組みとその成果が次々と発表され、このスピード感ある動向には目が離せません。今回の議論はガバナンス的な仕組み・ルール領域が中心でしたが、こうしたデータ流通の動きを踏まえて国際動向に敏感な産業側がどういったデータ戦略をビジネスに組み込んでいくのかも注目されます。

今回ご紹介したデータ取引市場の運営事業者(DMSPs:Data Marketplace Service Providers)は、世界経済フォーラムから発行されたプレスリリースでも紹介されています。世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンターの取り組みも紹介されているので、こちらもあわせてご一読いただければ幸いです。


世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター  ティルグナー順子



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