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アジェンダブログ:高年齢労働者のリスキリングを促進するには?

新型コロナウイルスは、働き方へ大きな変化をもたらしただけでなく、多くの労働者を失業に追い込みました。こうしたなか、全ての人に機会を提供するために、様々な分野のリーダーが集い新たな社会契約の基盤の構築と経済の復興について議論する国際会議「ジョブ・リセット・サミット2021」が開催されます。開催に先駆けて、世界経済フォーラム「Global Future Council on Healthy Ageing and Longevity」メンバーである世界の専門家たちが高年齢労働者活躍の在り方について意見を寄せるアジェンダブログが公開されました。

長寿社会において持続的な経済成長を遂げるには?

長寿社会の先頭を走る日本ですが、もはや高齢化は特定の国だけにおける問題ではなく、世界共通の問題となりつつあります。長寿社会の到来は、生産活動の中心にいるとされる生産年齢人口(15歳以上65歳未満)の割合が減少することを意味しますが、同時に各個人のより長い経済貢献と経済の持続的な成長の可能性も秘めています。その可能性の実現においてキーとなるのが、高年齢労働者の活躍※です。

では、どのような変革が求められるのでしょうか。高年齢労働者の活躍を促進するためには、より柔軟な働き方や選択肢の提供、生涯学習の促進、各年代に適した職場環境の整備や労働条件の改善など、様々な角度での改革が必要と言われています。なかでも、リスキリング(変化に対応するためのスキルの再教育)やアップスキリング(スキルの向上)を通して個人のエンプロイアビリティ(雇用され得る能力)を高めること、そのような研修機会をすべての人に担保することが重要となるのです。

※高年齢労働者とは、55歳以上の労働者を指します。(出典:高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)

学習に年齢は関係ない

世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター・ヘルスケアデータ政策プロジェクト長の藤田卓仙と同プロジェクトフェローの鈴江康徳は、世界最高齢のプログラマーである若宮正子氏を紹介し、学習に年齢は関係ないとしています。

58歳で初めてパソコンを購入し独学で使い方を習得したのち、手芸などのデザインツールとして「エクセルアート」を開発、そして81歳の時にスマートフォンアプリ「hinadan」を開発して世界最高齢プログラマーとして注目を集めた若宮氏。現在は高齢者向けのワークショップを開くなどの活動をしており、何歳になってもリスキリング・アップスキリングが可能であることを体現しています。また藤田、鈴江は、社会におけるインクルーシブネスを妨げるデジタルデバイドの問題の観点から、労働者だけでなく社会のすべての構成員がリテラシー向上に努めることの重要性も指摘しています。

若宮氏は、先日行われたグローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)開催記念セッション「Innovation for Healthy Ageing-最大多様の最大幸福―」へも登壇されていますので、ぜひ以下の記事もご覧ください!

高年齢労働者が活躍できる社会とは

当センター以外の専門家から寄せられた、高年齢労働者が活躍するために重要となる要素や観点について、いくつか紹介します。

欧州委員会副委員長 民主主義・人口統計担当のDubravka Šuica氏は、リスキリングの必要性が年齢を問わず現実のものとなる中で、高年齢労働者がリスキリングを通して社会に貢献できる余地はまだまだ残されていると指摘。高年齢労働者は、若い同僚を指導し積み重ねてきた専門知識を伝えることで、高齢者自身も新たな役割に移行することができると述べています。

また、国連経済社会局(DESA)のAmal Abou Rafeh氏は、仕事の複雑化に伴い、高齢者が適応力とレジリエンスを高められるような生涯学習の機会を適切に提供することの重要性を訴えています。また、リスキリングやアップスキリングの取り組みを構築する際に念頭に置くべきことして、高齢者のニーズ、嗜好、多様なアイデンティティに即していること、遠隔地に住む高齢者、少数民族や移民の高齢者など訓練を受けられないことの多い人々へ配慮することを挙げています。

さらに、ロンドンビジネススクール 経済学教授のAndrew Scott氏は、テクノロジーによる高年齢労働者の支援に着目。テクノロジーが高年齢労働者を支援する方法として、①アクセスしやすく魅力的な新しい学習方法を提供する②ロボットを使って既存の仕事を物理的にやりやすくする③テクノロジーが人間と取って代わるのではなく人間のスキルを補強する、という3点を挙げ、特に3点目が重要であると論じています。また、特に高齢者の労働力をサポートするという観点において新しいテクノロジーが果たす役割は大きいと主張する調査もあると述べています。

ほかにも、生涯学習をする機会へのアクセスを確保する重要性や、高齢化に対応する役割を再定義する必要性などが指摘されています。

ジョブ・リセット・サミット2021 近日開催!

6月1日-2日に開催されるジョブ・リセット・サミット2021に先駆けて公開された本アジェンダブログは高年齢労働者に焦点を当てた内容でしたが、サミットではこれからの社会や経済、組織、雇用の在り方について、様々なテーマで議論される予定です。いくつかのセッションは以下のサイトにてストリーミング配信されますので、気になるセッションをぜひチェックしてみてください!


執筆
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
根岸咲子 (インターン)


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