見出し画像

アジェンダブログ:デジタルデバイドを解消する低軌道衛星技術

世界の約29億人は、未だインターネットにアクセスすることができません。こうしたデジタルデバイドを解消する上で、低軌道(Low-earth orbit、LEO)衛星技術が注目されています。LEO衛星とは何か、そして全ての人がテクノロジーの恩恵を受ける世の中を実現するためにはどうすればよいのでしょうか。

原文(How low-earth orbit satellite technology can connect the unconnected)はこちら↓

LEO衛星の概要

LEO衛星は地球の表面から最大2,000kmを周回する人工衛星です(従来の静止衛星は地球の表面から約36,000km離れた円軌道を周回)。多くのLEO衛星を打ち上げることにより、飛行機での移動中や海中を含む、従来の衛星ではカバーできなかった僻地にも高速インターネット環境を提供することができるようになります。

低軌道を周回する超小型衛星ネットワークを活用したIoTシステムは、昨年世界経済フォーラムが発表した「Top 10 Emerging Technologies 2021」においても紹介されています。

LEO衛星への投資例

近年、各国政府や企業が相次いで投資を行うなど、LEO衛星を巡る競争は激しさを増しています。

2022年2月に欧州連合(EU)は、60億ユーロ相当のLEO衛星システム計画を承認しました。LEO衛星フリートの打ち上げは、サイバーセキュリティ強化と共に、EU地域への安全な通信環境の確保と良好なブロードバンドアクセスの提供を目的としています。加えて、外国企業への依存から脱却し、通信サービスと監視データを外部干渉から保護することも期待されています。

こうした宇宙開発競争におけるEUのライバルは、イーロン・マスク氏が率いるSpace X社です。同社はStarlink計画に基づいて軌道上に約2,000の衛星を配備し、40,000超の衛星を飛行させる特許を申請しました。Space X社のサービスは、複数の国で月額99ドル(先着順)、家庭用機器は月額499ドルで利用することができます。

他にも、Amazon社はプロジェクト・カイパー(Project Kuiper)を通じて2022年後半に3,000を超える低軌道衛星を配備し、世界中のあらゆる場所から利用できるブロードバンドサービスの提供を目指しています。またLEO衛星のリーディング企業であるOneWeb社は、軌道上に350を超える衛星を保有し、今後その数を2倍に増やす予定です。

関連するアジェンダブログ(The space internet race is dawning. Here’s what to expect)はこちら↓

LEO衛星の課題

LEO衛星は高速インターネットを世界中に提供する可能性を秘めている一方で、いくつかの課題があります。

地球との距離が近いため、LEO衛星は1機でカバーできる範囲が狭いという特徴があり、複数の衛星を連携させる衛星コンストレーションにより、世界中のあらゆる場所にインターネットを提供することができます。ただし地球の軌道に何千もの衛星を打ち上げれば、宇宙は未だかつてないほど混雑し、これらは宇宙空間における交通の混乱や、スペースデブリ増加の問題に直結します。また、多数の衛星による光害が天体観測に悪影響を及ぼす可能性も指摘されています。

そしてデジタルデバイド解消という目的のためには、LEO衛星によるインターネットアクセスを手頃な価格で実現する必要がありますが、衛星技術はまだ莫大なコストがかかっているのが現状です。衛星ブロードバンドシステム開発が終了する段階では、サービスを手頃な価格で提供する環境を整備することがグローバル展開の鍵になるとされています。

テクノロジー実装と宇宙

テクノロジー実装というテーマは宇宙空間にも及んでおり、この議論は最先端のアジェンダのひとつです。2022年1月に世界経済フォーラムが開催したオンライン会合「ダボス・アジェンダ」では「The Next Frontier for Knowledge and Action(知識と行動のための次のフロンティア)」という宇宙関連のセッションが話題になりました。アル・ゴア氏(米国副大統領1993-2001、ジェネレーション・インベストメント・マネジメント社会長兼共同設立者)、ジョセフ・アシュバッハー氏(欧州宇宙機関長官)、サラ・アル・アミル氏(アラブ首長国連邦の産業・先端技術省科学担当大臣)、そして国際宇宙ステーションからの中継でマティアス・マウラー氏(欧州宇宙省)などが登壇し、地球上の課題への貢献が期待されている宇宙テクノロジーへの規制公平なアクセス競争コントロールなどが議論されました。

また、世界経済フォーラムのEDISON Allianceでは、デジタルインクルージョンに率先して取り組む官民のリーダーを動員し、10億人の人々が手頃な価格でインターネットに接続できる世の中を目指しており、ここでも衛星ブロードバンドアクセスに言及されています。

関連セッション(Technology Cooperation in the Fourth Industrial Revolution)はこちら↓

私たち人類にとってフロンティアである宇宙空間において、迅速で的確でフェアなテクノロジー実装につながる議論をリードするのは、やはり多様なマルチステークホルダー・アプローチによる国際的な官民連携です。宇宙空間をめぐる今後の議論に注目したいと思います。

執筆:
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
竹原梨紗(インターン)





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?