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「Global Technology Governance Report 2021」読書会報告

2021年4月に東京で開催される「グローバル・テクノロジー・ガバナンス・サミット(GTGS)」に向けて、サミットの flagship report として位置付けられている「Global Technology Governance Report 2021」の読書会を、12月3日に開催しました。

世界経済フォーラム第四次革命日本センターのスタッフ、フェロー、インターンなど20名弱のメンバーが参加し、レポートの意義や活用方法、今後の課題などについて様々な観点から議論が行われました。


レポートの概要―5領域の33のガバナンス・ギャップ

第四次産業革命がもたらす技術の進歩は、新型コロナウイルス感染症対策で注目を浴びたヘルスケア分野でのAIの活用をはじめ、様々な恩恵をもたらします。一方で、その急速な発展に規制やルール形成が追いつかず、進化する技術と既存のガバナンスとの間にギャップが生まれていることが問題になっています。

このような問題に、政府、企業、市民社会など、あらゆるステークホルダーが協力して取り組んでいくことが求められています。このレポートは、AI、ブロックチェーン、IoT、ドローン、モビリティの5つの技術に注目し、それぞれの分野で発生しているガバナンス・ギャップを33点あげて、ギャップ解消に向けた、世界各地での革新的な取組みをまとめています。

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第1章「分野横断的なガバナンス・ギャップ」

第1章では、各技術分野に共通する課題について整理しています。具体的には、以下の8項目です。

(1)限定的な規制、あるいは規制の欠如、(2)誤用や意図しない使用法による悪影響、(3)技術の責任と説明責任、(4)プライバシーとデータシェアリング、(5)法執行機関によるアクセスと使用、(6)サイバーなどのセキュリティ面の懸念、(7)人間による管理の必要性、(8)国境による不整合性と制限されたデータフロー、です。

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第2章「革新的なガバナンスの枠組み」

第2章では、前掲の課題に対して、第四時産業革命の技術をサポートするための革新的なガバナンスと規制枠組みが生まれていると指摘されています。そして、各技術分野の共通項目が整理されています。具体的には、以下の6項目です。

(1)倫理的なガバナンス  例:ニュージーランド政府による「Privacy, Human Rights and Ethics (PHRaE) 」

(2)官民連携  例:日本暗号資産取引業協会(JVCEA)による、仮想通貨に関する自主規制の取組み

(3)アジャイルで即応性のある規制  例:National Highway Traffic Safety Administration (NHTSA)による、AV(自動運転)技術の進化に伴うガイダンス見直し

(4)実験的なサンドボックスの取組みやアクセラレーター  例:世界銀行による、貧困削減のためのブロックチェーン・イノベーション・ラボ

(5)データ共有とインターオペラビリティ  例:The Alliance for Telecommunications Industry Solutions (ATIS)による、データシェアリングの枠組み

(6)規制当局との連携  例:United Nations Economic Commission for Europe (UNECE)による、自動運転技術の規制の連携・調和を促す取組み

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第3章「リサーチのアプローチ」

第3章では、調査手法が示されています。具体的には、以下の3ステップです。

Step1 調査の実施:2020年1月から2月にかけて実施。テクノロジーガバナンスのギャップが顕著に現れる分野や、革新的な取り組みについてヒアリング。

Step2 広範な文献レビュー:異なるセクター、技術、領域から事例を集め、ギャップの大きさを分析。ガバナンス・ギャップは、潜在的なインパクトと投資やイノベーションへの影響によって特定。効果的なガバナンスがなされていない分野や注目度が低い分野にもフォーカス。

Step3 ギャップや枠組みの最終決定:特定したギャップをNow, Near, Nextの三つのカテゴリーに分類。(a)Now gap: 政府などが既に対処し始めており、問題であるとの一般的な合意がある。(b)Near gap: 既知のギャップだが、ほとんどor全く行動を起こしていないもの。対処している国や組織はほとんどなく、コミュニティ内でも合意が得られていない。(c)Next gap: 仮説的または新興のギャップで、不確実性が大きいもの。

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第4章「AI」、第5章「ブロックチェーン」、第6章「IoTとコネクテッドデバイス」、第7章「自動運転、シェアードモビリティ、デジタル化された輸送」、第8章「ドローン」では、それぞれの領域について、Opportunityガバナンス・ギャップ革新的なガバナンス事例が紹介されていました。


読書会の様子

当日は、私(インターン上原)が作成したレジュメをもとに報告を行い、参加者でディスカッションを行いました。ディスカッションでは、以下のような意見がありました。

網羅的に課題がまとまっているので、知っている話題が増えることで日頃のニュースなど興味の対象が広がる。その点で導入として良いレポートだった。
私たちが取り組んできた事例が世界で議論されている課題と関連していることがわかったので、今後どのように日本の事例を世界に広めていけるかを考えたい。
テクノロジーの議論は、技術そのものの話から技術に関わる人の話まで非常に範囲が広いので、第四次産業革命日本センターとして、どの部分に焦点を当てるか整理する必要がある。
多くのテーマを網羅している一方で、もう一段階話を深めたほうが面白いのではないか。GTGSでは現場の人が何を考えているのか、どういう難しさがあるのかを語る機会にしたい。


レジュメ担当の感想

本レポートは、第四次産業革命によるテクノロジーの発展がもたらす恩恵と課題についてより具体的に検討している点で、非常に意義深いものだと感じました。

例えば、タイムラインを区切ってそれぞれの時期に発生するガバナンス・ギャップを明らかにしており、ニュースで見るようなプライバシー問題から、不確実性の高い未来の課題まで網羅していました。

また、ガバナンス・ギャップに対する革新的な取り組みの事例を挙げており、具体的な解決策を示している点で解決への糸口を示しています。

一方で、各地での取り組みを世界に広げていくにはどうすれば良いのかという点には触れられていません。来年東京で開催されるGTGSに向けて、ガバナンス・ギャップに対処するための次の一歩をどう踏み出すのかについて考えていきたいと思います。


執筆:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン 上原理緒

企画・構成:世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター プロジェクト戦略責任者 工藤郁子



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