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データ価値の測定はなぜ重要なのか

データはビジネスの源泉になるにもかかわらず、磨かれないまま眠り続け、その力を最大限発揮できていません。この矛盾をどう乗り越えるのか、グローバルでも大きな課題になっています。

2021年12月15日、世界経済フォーラム第四次産業革命コロンビアセンターは、コロンビア政府と連携して、信頼性があり商業的に持続可能な官民データ連携のためのフレームワークを白書として発表しました。


この記事では、当該白書の背景にある問題意識を共有するためのアジェンダブログ「Why measuring the value of data really matters」をご紹介します。
原文はこちら↓


データの価値評価におけるパラドックス

かつて、英国の劇作家であるジョージ・バーナード・ショーは「パラドックスだけが真理である(Paradoxes are the only truths)」と述べました。この言葉は、まさにデータにも当てはまります。

データは、価値創造とビジネスにおける生産性向上の重要な推進力です。それにも関わらず、最も誤解され過小評価されている企業資産の一つでもあります。データは大部分において評価されず、十分に管理・活用されていないために、その膨大な価値は実現されないまま眠っています。

データの収益化・評価・マネジメントに関するパラドックスは、チャンスとリスクの双方を孕んでいます。企業価値の90%は知的財産、特許、ブランド、評判、顧客の信頼などの無形資産にあるとされています。しかし、中でも最も重要な無形資産であるデータについて、どのように価値を定量化するかについてのコンセンサスはほとんど取れていないのが現状です。

現在の経済・会計の慣行では、データの価値貢献を測るための仕組みが整っていません。これは、従来の財やサービスとは異なるデータ独自の属性を考慮していないためです。データは、労働、資本、石油とは異なります。ゼロに近いコストで無限に複製・共有できるだけでなく、複数目的での同時使用もできます。消耗し尽くすこともありません。使用すれば使用するほどその価値が増えます。

このように、類例のない特徴のある資産としてのデータを、経済学者たちは「非競合的、非枯渇的、自然繁殖型」資産と呼んでいます。

データの価値を評価するための基準

世界で最も困難な課題に対応するためのデータの共同利用は、逆風にさらされていると言っても過言ではありません。主として国際的な篤志家、技術系スタートアップ、将来を見据えた経済学者や学識経験者などから成る需要側のエバンジェリストたちが前進を続ける一方で、民間部門のデータ保有者である供給側からの進展はあまり見られません

官民のデータ連携を阻害している慢性的な課題として、トラストの欠如と、明白で持続可能なエコノミクスの欠如の2つが挙げられます。データ保有者とデータ主体の両者が、データのプライバシー、セキュリティ、その適切な使用について深い懸念を抱いているのです。さらに、官民データ共有の測定可能性に関するエコノミクスもまだ正式には確立されていません。

「計測できるものは、成し遂げられる(what gets measured gets done)」という古くからの教えが、官民データ連携の積極的な取組みについて、民間部門がいまだに傍観している理由の根底にあるようです。データ価値評価に関する最近の世界経済フォーラムのレポートによると、「データの実際の価値と潜在的な価値の双方を測定できないと、データガバナンス、分析、インサイトの共有だけで自己満足してしまい、最終的にはデータ本来の価値を実現できなくなってしまいます」。

残念なことに、官民データ連携に関しては、先行者利益がほとんど存在しません。それどころか、特に初期段階では、リスクが利益を上回ります。失敗に終わった官民データ連携は、成功したものよりも、およそ10対1の割合で多いのです。

官民データ連携の最大の障害は、企業が提供するデータの価値を評価することの難しさにあります。最近の MIT Sloan Review の記事によると、「組織は、膨大な量のデータを変換し、ビジネス価値を定量化し、共有することよりも、データの保存・保護・アクセス・分析のためのコストに注目する傾向がある」のです。

データの価値を評価するための新しいアプローチ

今必要とされているのは、官民データ連携がもたらすインパクトと、そこに含まれるデータの価値を、企業が正しく評価するための新しいアプローチです。これには、データ連携が双方に価値をもたらすメカニズムをよりよく理解することが極めて重要となります。

インパクト重視のビジネスモデルで、ステークホルダー資本主義の原則を推進しようとするCEOのグローバルコミュニティからのコミットメントが高まりつつある今こそが、アプローチ探求への出発点に相応しいのではないでしょうか。企業の取締役会が、環境、社会、ガバナンスの要素をますます優先するようになるにつれ、ビジネスリーダーたちは、地球のために持続可能な成果を、人々のために普遍的な繁栄をもたらすことが求められています。

データの可能性を最大限に引き出すためには、どこから始めれば良いでしょうか。データ保有者としての企業の考え方は、次の3つの点で変えていかなければなりません

  1. まず1点目に、ビジネスリーダーが「データの収益化」という語の定義を広げることです。「どのようにしたらデータから価値を生み出せるか」という問いを、直接的な収益・報酬と引き換えにデータを販売するという狭い概念を超えて拡大する必要があります。『Infonomics』が指摘するように、データの収益化には、データ活用による事業運営の改善、政府との関係強化、サイバーセキュリティへの対応、ブランド力の向上、顧客との関係強化、地域社会との関わりなど、直接的のみならず間接的な様々なものがあります。

  2. 第2に、産業界のリーダーも問題意識を持たなければなりません。業界内リスクを集合的に低減できれば、自然と市場が形成されます。新たな種類のデータへのアクセスを提供することで、斬新なインサイトを生み出し、複雑なグローバルの課題に関する集合的意思決定を改善できます。また、長期的なシステミック・リスクへの取組みを強化し、データ主導型ソリューショニズムを減らすことで、測定可能な改善をより早期に提供できるようになります。

  3. ビジネスリーダーが意識すべき3点目は、企業という狭い枠を乗り越えて、より広い範囲を視野に入れ、環境・社会経済へのインパクトを考えることです。官民データ連携のユースケースをいくつか見てみると、公益のために(そしてすべての利害関係者にとって公平で、包括的で、アクセス可能な方法で)測定可能な成果を提供することが共通目標である場合に、インパクトが最大化することがわかります。

心構えを変えていこう

世界経済フォーラム第四次産業革命センターネットワークに属するコロンビアインドが行う新しいデータ連携に関するパイロットは、データの価値評価におけるビジネスリーダーの考え方の変化が見て取れるまたとない例になっています。

第四次産業革命コロンビアセンターが最近発表した白書では、「プロジェクト・ムーンショット」と呼ばれる官民データ連携が提示されており、それが同国のエネルギー・公共事業セクターのネットゼロ移行を加速させるための商業的インセンティブにどのように結び付いているかが強調されています。

同様に、インドでは、新たな持続可能な農業データ連携により、大規模な事業者がデータを収集・利用する際に、小規模農家に公平に報いるための商業的インセンティブが特定されています。共有された成果に対して集団的に合意するための共通ツールセットを活用することで、データの共同利用における、ビジネス、事業運用、法、技術、社会に関するリスクを特定するための新しいアプローチをより明確にすることができます。

共有価値の創出を可能にするためには、データの独自性をより深く理解することがビジネスにとって不可欠です。社会経済について正のインパクトを与えるべく、収益以外の価値にもその定義を拡張することで、企業は、社会的、商業的、環境に関する様々な利益を享受できるようになります。

MIT Connection Sciences の新刊『BuildingtheNew Economy:Data as Capital』で指摘されるように、「私たちはビッグデータから共通データへと移行しています」。官民データ連携は、その移行を加速する上で主要な役割を果たします。

執筆:ウィリアム・ホフマン(世界経済フォーラム DCPI プロジェクトリーダー)、ダグラス・レイニー(ウェストモンロー イノベーションフェロー)、シーラ・ウォーレン(世界経済フォーラム第四次産業革命センター ネットワーク長)、セス・ベルゲソン(世界経済フォーラム第四次産業革命センター プロジェクトフェロー)
翻訳:
村川智哉(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター インターン)、郭弘一(同インターン)
企画・構成:工藤郁子(世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター  プロジェクト戦略責任者)


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