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4IRアジェンダブログ:AIを活用したがん検診と治療とは?

がんは、世界各国で主要な死因であり、平均寿命を伸ばす上で大きな障壁となっています。世界保健機関(WHO)によると、がんは2000年から2019年までの間、183ヶ国中112ヶ国で70歳以下の死因第1位または第2位を占めました。がんの検診・治療精度を高め、より多くの人がその恩恵を享受できる環境を整えるという長年の課題に対するひとつ答えとして、同分野における人工知能(AI)の活用が注目されています。

世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンターは、がん検診・治療に持続可能な変革をもたらすための新プロジェクト、FIRST of Cancer Care (FIRST: Fourth Industrial Revolution for Sustainable Transformation)を開始しました。

原文(These AI projects are improving cancer screening and outcomes)はこちら↓

アジアで約6割の死亡症例数

2020年、グローバルながん死亡症例のうちの58.5%がアジア域内で起こると推計されています。特にインドでは2025年までにがんの症例数が12%増加し、156万人が新たにがんに罹患すると予測されています(インド医学研究評議会調べ)。その一方で、アジアにおけるがん治療は課題が山積みです。政策および計画実行力の欠如、インフラ整備や人材の観点におけるリソース不足、サービス享受における格差、ヘルスケア分野への不十分な投資など、多くの点が指摘されています。

がん治療とAI

AIベースのアルゴリズムは、がん検診の改善、腫瘍ゲノム特性評価の補助、創薬プロセスの加速、経過観察の精度向上など、がん治療に統合されることで、診断精度と速度の向上、臨床上の意思決定への寄与が可能となります。そしてこれは結果的にがん治療におけるヘルスケア格差を埋める上でも重要な役割を果たすと期待されています。生体医療リサーチでは、診療所においてAI技術を安全かつ倫理的に活用する方法の模索に注力しています。

インドで始動したFIRSTプロジェクト

世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンターのFIRST of Cancer Care (FIRST: Fourth Industrial Revolution for Sustainable Transformation)は、AI、IoT (Internet of Things)、ブロックチェーンなどの新興技術を活用して、がん治療に持続可能な変革をもたらすことを目的としています。本プロジェクトには、政府、臨床医、ITソリューション提供事業者、学界、市民社会組織のパートナーなど、マルチステークホルダーが参画しています。

先行するマイクロソフト社

プロジェクトに参加しているマイクロソフト社は、すでに5つの最先端がん治療プロジェクトを通して治療の個別最適化と効率化を推進しています。

1. がんを詳細に可視化するInner Eye                   機械学習(ML)と自然言語処理(NLP)を組み合わせ、患者一人ひとりに最適ながん治療法を提供することを支援しています。具体的には、MLと画像認識技術を組み合わせ、放射線科医が腫瘍の進行を詳細に理解するInner Eyeというシステムで、これは実際にケンブリッジの病院において患者の腫瘍を自動検知して表示するAIモデルを開発するために使用されています。

2. 単一細胞ゲノミクス分野での協業                    BC Cancer(カナダ、ブリティッシュコロンビア州の医療サービス機関)と協業し、がん細胞のゲノムを単一で表示できるようにする「単一細胞ゲノミクス」の分野もカバーしています。これにより、患者の腫瘍に最適な化学療法の組み合わせを予測することが可能です。

3. クラウドベースツールBioModel Analyzer               同社が開発したクラウドベースツールのBioModel Analyzer(BMA)は、がんの早期発見方法や、がん治療薬が耐性を持つタイミングをモデル化することにより、がん治療法の効率化に貢献しています。アストラゼネカ社との協業では、白血病患者の薬物の相互作用および薬物耐性を検証する上でBMAを活用しています。

4. 最適な医療データを提示するProject Hanover              精密医療機器の読み取り能力向上を目的とするProject Hanoverは、断片化された情報を自動的に分類し、最も関連性の高いデータを見つけられるように設計されています。これにより、腫瘍専門家が患者にとって最適な治療計画を策定しやすくなることが期待されています。

5. ゲノムデータを扱うデータベースClinical Knowledgebase        独立非営利生物医学研究所のジャクソン研究所(通称 JAX)は、Project Hanoverと協働し、世界の医学・科学コミュニティがゲノムデータを迅速かつ正確に把握するためのツールを開発しました。Clinical Knowledgebase (CKB)は、臨床試験や治療オプションに関する情報を共有できる検索可能なデータベースで、複雑なゲノムデータの保存、並び替え、解釈を通して、患者の治療成績を改善することが期待されています。

数百万人の命を救う道

マイクロソフト社をはじめ、すでにこの分野では多くの取り組みががん検診・治療の進化に貢献しています。世界経済フォーラム第四次産業革命インドセンターのFIRSTプロジェクトも、がん官民連携のプラットフォームとして大きく発展するでしょう。AI技術を用いた検知、治療、データベース連携など、リアルタイムでの共同作業とデジタル空間での知識共有を可能することで、数百万人の命を救う道につながっていきます。


執筆:
世界経済フォーラム第四次産業革命日本センター
竹原梨紗(インターン)

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