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ゲームの形をした優秀な出題者「Return of the Obra Dinn」

名作インディーゲームとしてゲームファンの間では有名な作品「Return of the Obra Dinn」。

テレビ東京の番組「勇者ああああ」で、ゲームセンターCXでお馴染みの構成作家・岐部先生が「2019年ベストゲーム」として紹介していたのも記憶に新しいです(ゲーム好きは皆「勇者ああああ」を見てる前提)。

どんなゲームかと言うと、公式な説明としてはこうです。

時は1802年。200トン以上の交易品を積んだ商船「オブラ・ディン号」が、ロンドンから東方に向けて出港した。その6か月後、同船は予定されていた喜望峰への到達を果たさず、消息不明扱いとなった。
そして今日、1807年10月14日早朝のこと。オブラ・ディン号は突然、ファルマス港に姿を現す。帆は損傷し、船員の姿も見えない。これを受け、東インド会社ロンドン本社所属の保険調査官が、ただちにファルマス港に派遣された。同船内を直接調べ、損害査定書を作成するために――。

簡単に言うと、事件の起こった船に乗り込み、そこにある死体に対して不思議な時計を使うと、その死体が死んだ瞬間の状況と、わずかな会話が聞こえるので、それを見て「死んだのは誰か」「どうやって殺されたのか」「誰が殺したのか」を推理していくゲームです。

プレイヤーに渡されるのは、乗組員が描かれた絵と、乗組員のリストと、不思議な時計だけ。

絵とリストは結びついておらず、顔はわかるけどそれがリストの誰なのかはわからない。それを、状況から推理して結び付けていき、最終的に全員の顔と名前、そして死因を一致させていくという一風変わったゲームです。

先日セールをやっていたこともあり、購入してプレイしてみたのですが、なるほど名作と言われるのもわかる素晴らしいプレイ体験でした。

ただ、このゲームを評価するうえで難しいのは、

「はたしてこれはゲームとして面白いのか?」

という疑問です。

実際にプレイした今でも、これを「面白いゲームである」と評価するのは少し違う気がしています。

なのにもかかわらず、購入してから数日間、このゲームを延々とプレイし続け、ゲームをプレイしてない時間も頭の片隅から離れず、攻略に頼らずに自力でコンプリートしてクリアした時の喜びは素晴らしかったですし、終わった時の満足感・充実感は間違いなく名作のそれでした。

ゲームとして面白いわけでは無いのに、プレイしていて面白い。この不思議なゲームを今回は少し語らせてください。

・そもそもゲームとしての面白さとは。

 ゲームの面白さの大きな要因の一つは、「動かしていて面白い」という事だと思うのです。

 ただキャラを動かしているだけで面白い、というのはゲームをやるうえで大きな要素の一つで、例えば「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」で言えば、広大なフィールドを走り、ジャンプして、壁を登り、時には馬に乗り、剣を振って草を刈り、敵と戦う、そういう「動きの一つ一つが気持ちよくて面白い」という作品は、間違いなく面白いゲームです。

ではこの「Return of the Obra Dinn」はどうかというと、プレイヤーの出来る事は「歩く」「ドアを開ける」「見る」「本をめくる」くらいです。

もちろん、歩くスピードやマップの構造はよく考えられていて、移動でストレスを感じたりすることはあまり無いですし、基本的に操作は快適です。けれど、快適なだけであって、動かしていること自体が楽しいというわけでは全く無いです。


そして、もう一つゲームの面白さで言えば、「物語に介入する」面白さがあります。

例えばアドベンチャーゲームなどは動かす楽しさには乏しいですが、自分が選択肢を選ぶことによって物語が変化していく。自分の行動によって結末が変わる、という面白さがあります。

では「Return of the Obra Dinn」はどうかと言うと、この作品は「過去に何が起こったのか」を検証するゲームです。

主人公は不思議な時計の力によって、「過去の状況」を見て、何が起きたのか推理していくのですが、それらは「既に過去に起こった事」であり、主人公はあくまでもそれを「見るだけ」です。

つまり、過去に戻って事件の被害者を救う、と言うような展開は一切ありません。

物語は既に五年前に全て終わっていて、主人公は断片的な状況から何が起きたのかを推理するだけなので、物語への介入は出来ないのです。

もちろん、推理の完成度によってEDは変化しますけど、物語の本筋であるオブラディン号の中で起こった事はもう変わらないですし、ED自体がカタルシスに繋がるかと言われると、そうでもないです。


じゃあストーリーはどうか?

動かす面白さも、物語に介入する面白さも無いけど、ストーリーが面白いゲームというのもたくさんあります。

では「Return of the Obra Dinn」は?

正直、ストーリーは面白いとかでは無いです。

次々に提示される謎の状況や情報への驚きと、これがどうしてこうなったのか解き明かしたい、と思わせる求心力は素晴らしいですけど、最終的にすべての状況を解き明かしたとしても、語られるストーリーは断片的で、それが「面白い!」と言えるものなのかどうかはプレイヤーの受け止め方次第としか言いようがないです。

少なくとも、「誰が見ても面白い心躍るストーリー」とか、「全米が泣いた感動作」とか「ワクワクドキドキ冒険譚」とか「心震わす人間ドラマ」とか、そういうアレでは全然ないです。


……と、ここまで書くと、「じゃあ何が面白いんだよ!?」っていう気持ちを抱くと思うのですけど、この作品の面白さを一言で言うと、

「優れた出題者である」

という一点に集約されると思います。


・ゲームの形をした優れた出題者。


このゲームの素晴らしさを表現するとしたら、「出題者」として優れている、というのが一番しっくりきます。

物凄く簡単に言ってしまえば、この面白さは「間違い探し」とか「ウォーリーを探せ」とか、「アハ体験」みたいなものが一番近いですが、それをさらに進化させたものだと思います。

最初は本当に何が何だかわからず手探りで始まるのですが、情報が集まって来るうちに、少しずつ繋がりが見えて来て、「あっ!」という気づきが生まれます。

1つの気づきが次の気づきを生み、そこで得た情報を持ってもう一度 以前見た景色を見ると、「そうか!これがこうなるのか!」という新たな気付きを生みます。

このゲームはそういう「気づきの連鎖」のゲームであり、このゲームのもっとも優れている点は、「気づかせる為の情報の配置」の絶妙さにあるのです。

それは「ヒントの教え方」と言い方を変えても良いかもしれませんが、とにかくこの作品は、一つの場面に多くの情報が詰め込まれています。

時計によって見える過去のシーンは静止画なのですが、プレイヤーはその3Dで作られた「立体的な静止画」の中を歩き回る事が出来ます。

見る角度を変え、見る場所を変え、何に注目し、どれに意味を見出すか。

それらは全てプレイヤーに任されていますが、同じ場面でも、何度も見るうちに、「あれ……?―――はっ、これだ!!」っと新たな気付きが生まれるのです。

その情報の配置が本当に巧みで、そこにこそ、この作品がゲームである意味があるのです。

例えばこれが本などで平面のイラストであったなら、見る角度によって気付かせるヒントを提示するのは難しかったでしょうし、音や声によるヒントを提示するのも難しかったでしょう。

脱出ゲームのようなもので実際にセットを作るとしても、大きな船を実際に作るのは難しいでしょうし、ゲームだからこそ、同じ場所で違う時間に起こった事件もそれぞれ表現することも出来る。

もちろん本にも脱出ゲームにも、そのジャンルだからこそできる情報の見せ方、というのが存在するのは理解しています。

そんな中でこのゲームは、「ゲームという形を最大限に利用」して、「推理の為の情報を提供」し、そして「推理することの面白さ」をプレイヤーに感じさせるゲームなのです。

例えばクイズなどで「良い問題だな」と思う事があると思います。

それは、問題文の中に巧みに隠されたヒントや、答えを導くための思考の流れなどが大事で、解答者の心理をくすぐるポイントがあってこそ、それは「良い問題」になるのです。

「問題文がややこしくて理解出来ない」「答えを導く為の情報が少なすぎる」それらを悪い問題だとすると、このゲームは、解答者=プレイヤーが頭を適度に悩ませ、何度も考えを巡らせ、注意深く観察することで「確実に答えに辿り着ける」うえに、しっかりと「なぜその答えになるのか納得出来る」道筋がちゃんと作られている。

ゲームとしての直接的な面白さは薄いながらも、ゲームである必要性には満ち溢れていて、ゲームという形をした圧倒的に優秀な「出題者」、それが「Return of the Obra Dinn」なのです。

全ての推理を成功させた時のカタルシスは、このゲームだからこそ味わえる素晴らしいものであり、その時この作品は、プレイした価値があったと心底思えるゲームになることでしょう。


・最後に。


逆説的に言えばこのゲームは、「攻略サイトを見ながらやります」みたいな人には全く面白くないと思います。

ゲームが与えてくれるのはあくまでも情報と、推理の正解不正解だけなので、こちらから挑んでいく気持ちが大事です。

「情報」「ヒント」という種を探し、受け取り、「推理」という水を与え、「答え」という花を咲かせる。

ただ与えられる面白さを享受するだけでは得られない、普段のゲームとは違う面白さと気持ち良さに満ち溢れていますが、それを綺麗な花壇に出来るかどうかは、プレイヤー次第なのです。

もしまだ「Return of the Obra Dinn」をプレイしたことがないあなたがこれを読んでいたら、是非積極的に挑む気持ちでプレイしてください。

この作品は、真摯に向き合い、本気で挑めば、確実にそれに応えてくれるゲームです。

あなたが全ての謎を解き明かすのを願っています。

あ、でも、自力とは言っても、わからない言葉とかはすぐ検索した方が良いですよ。それは答えを見るとかではなく、凄くシンプルに日本人は基本的に外国語の知識に乏しいので(自分もまさにそれです)、「何語で話してるのか」とかがヒントになるヤツは、検索しないと何語なのかわからないんですよね(笑

直接的な答えを見るのではなく、「ヒントの意味を理解する」検索は全く問題無いと思うのです!

では、ご健闘を!!

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