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中学受験の光と影

10年以上前。私は首都圏の大手進学塾で校長をしていました。その当時から、今でもお付き合いが続く生徒の保護者からよく、こう聞かれます。

「先生はお子さんに中学受験をさせるんですか?」

その質問に対してはいつも

「子供がどうしても挑戦してみたい、と言わない限りは、私からやらせるつもりはありません。でも。もし『挑戦したい』と言ったなら、私の知識と経験と人脈をフル活用して応援します(笑)」

と答えています。でもそれは現在、地方で子育てをしているという前提があるからであって、もし首都圏に住んでいたら、やむを得ず中学受験の道を選ばせていたかもしれません。


中高一貫校は魅力的です。

公立中学校のカリキュラムは、勉強ができる子にとっては、進度も深度も物足りません。一方、中高一貫校では、学力が近い生徒と切磋琢磨しながら、適切なスピードとレベルで毎日の教育を受けられます。オリジナリティ溢れる多様な教育プログラムも備えています。大学入試に向けた対策を考えても、公立中高に比べれば、圧倒的に有利です。
教育理念や指導方針についても学校それぞれの特色があり、各家庭の価値観や考え方にあった環境を、たくさんの候補の中から自由に選ぶことができます。

しかし。それが故に。

今の中学受験は明らかに過当競争となってしまっています。入試問題の難度は青天井に上がり、それに合わせて、受験対策のために必要な時間も激増しています。入塾時期の低学年化も進む一方です。

健康な体には、バランスの取れた食事が不可欠であるように、健全な心を養うためには、バランスの取れた生活が必要です。
でも中学受験に挑戦することを選択した場合、小学校の高学年という一番の心身の成長期に、どうしてもバランスを欠いた生活にならざるを得ません。

思春期の時間をほぼ全て勉強につぎ込めば、偏差値は極限まで高められるでしょう。でも果たして、それにどこまでの意味があるでしょうか。「勉強ができる」いうことの価値が、時代とともに低下しているという事実については、いまさら論じるまでもありません。

反面、未知の世界に対する興味関心を持つことや、新しいことに挑戦しようという意欲、物事に取り組む集中力や、石に齧りついてもやり抜く力などは、いつの時代においても、幾つになっても必要なものです。
そしてそれは、勉強以外の様々な方法でも身につけることができます。


高い目標に向かって懸命に努力することは尊いことです。そして努力を積み重ねるほど、選択肢も可能性も広がります。

でもそれは、「何のために」「誰のために」目指す目標なのか。
そしてその目標設定は本当に正しいものなのか。
目的と手段をはき違えてしまってはいないか。

中学受験において、親の裁量はとても大きいものです。
だからこそ、目の前の数字に翻弄されたり、行き過ぎた競争の渦に巻き込まれたりして、本当に大切なものを見失ってしまうことがないようにしたいものです。


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