【講座メモ】セリフと視点
池袋コミュニティ・カレッジで開催中の朗読講座
「西村俊彦の朗読トレーニング」【詳細はこちら】
宮沢賢治の『注文の多い料理店』をテキストに全6回でお送りするシーズンの3回目。
まずは呼吸周りの筋肉をほぐすストレッチ
からの
ストレッチしながらの発声
その後、今回見ていく箇所を回し読みで味わいました。
今回ピックアップしたのは
・セリフのニュアンス
・物並べのリズム
・言葉の視点
・地の文の感情
です。
・セリフのニュアンス
A「なるほど、鉄砲を持ってものを食うという法はない。」
B「いや、よほど偉いひとが始終来ているんだ。」
という会話のニュアンスを色々変えて読んでみます。
肯定✕肯定
と設定することで、状況を疑わずに喜ぶ華やかさが、
やや疑問✕やや疑問
とすると注文を疑いはじめている感が出てきます。
続いて
肯定の後に続く台詞を
・嬉しい
・馬鹿だなぁ
・考え考え
という風情で読んでみることで、色々に関係性が変化することを味わいました。
発話のスピードや間もそれぞれの心境で変わってきます。気持ちから入るもよし、テクニックから入るもよし。辿り着くのは同じ所です。
・物並べのリズム
「ネクタイピン、カフスボタン、眼鏡、財布、その他金物類、ことに尖ったものは、みんなここに置いてください」
という注文箇所を色々なリズムで読んでみます。
一つ一つを大切にするよりも、全体を一繋ぎのような気持ちでテンポよく読んでみると、細かい内容よりも「注文が沢山ある」事が際立って聞こえてきます。
また、一つ一つを大事に頼んでみるとそれぞれの重要さが増してきますね。
それぞれの物を実際外すような動きを想定しながら読んでみると、微妙に音色が変わってきます。眼鏡など、体の高い位置にあるものは少し高めの音が馴染むかもしれません。
物や場所の高低差も、音の高低で表現することが出来そうです。
物の名前などが列挙されるような箇所は文学作品でしばしば見られるもの。
美味しい遊びどころだと思って楽しみましょう。『外郎売り』のようにすらすらと言えたら気持ちいいかも?
・言葉の視点
「壺の中のクリームを顔や手足にすっかり塗ってください。」
こちらの注文書きを、視点を変えて読んでみました。視点の転換は、東百道先生がその著書『朗読の理論』の中で提唱されている基本にして重要テクニックですが、
ひらたく言うと
「その言葉を発しているあなたは何者か?」
ということかと私は捉えています。
注文書きを
・この罠を仕掛けた山猫
・注文を読んだ紳士
・語り手
・紳士の気持ちに寄り添う語り手
と4パターンで読んでみることで、文章と自分の距離感・視点の置きどころが変化する事を味わいました。
人物の視点なのか
作家・語り手・神など、物語の外の存在の視点なのか
で心持ちが大きく変わってきます。
さらにそこに、状況についての言葉か、心境についての言葉か、
というような違いが加わってくる事で、
「読んでいるあなたは何者か」
がより明確に変わってきます。読んでいるあなたは
「今」誰なのか
誰に肩入れしているのか
物語を読む中で自分の立ち位置をはっきりさせ、色々な立場から声に出していくと朗読は、ことに「地の文」は豊かになってきます。
・地の文の感情
理由をつけてクリームを塗りたくる紳士の台詞、続いてクリームを塗りたくる描写の地の文、と続く箇所。
台詞のニュアンスを
・自信たっぷり
・理解できない事をどうにかこじつける
の二種類で読んでみます。
さらに続く地の文を、台詞の感情を継続する形で読んでみると…クリームを塗る様子に彩りが生まれます。
自信たっぷりを引き継ぐと、特に何の疑いもなくクリームを塗る微笑ましい光景に、
こじつけを引き継ぐと、疑いながらもクリームを塗る様子が立ち上がります。
こじつけの場合には地の文を読むスピードも慎重な足取りになっていますね。
これは先程の視点の話で言えば、
「人物に寄り添った語り手」の言葉になっているということでしょう。
情報を伝えると思い込みがちな地の文ですが、そこにもしっかり気持ちが通っているのです。
語っている出来事に対して、私はどんな感情を抱いているのか?ハッピーなのかアンハッピーなのか、賛成なのか反対なのか、そんなおおまかな所でも構いません。そこを意識していく事で、字を読む「音」は「血の通った言葉」に変わっていきます。
「血の通った言葉」で地の文を読んでいくと、文学作品はより臨場感を持った形で立ち上がります。
毎回、結局同じ事を言っているような感もありますが、どれもこれも
「血の通った言葉」で喋るという事を目標に、身体と心を動かすアプローチであると言えます。
フィットするやり方が見つかったら、それを色んな所に当てはめて突き詰めてみるのも一つの道となります。
私の場合は、コーポリアルマイムという身体表現を体験したことが一つの大きな転機でした。
身体は雄弁に語ることが出来る。
そこから、動作をきっかけに感情を掴んでいくアプローチにハマっております。
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