【講座メモ】小川未明『野ばら』二回目
池袋コミュニティ・カレッジにて講師を担当しております講座
「西村俊彦の朗読トレーニング」
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小川未明の『野ばら』をテキストにしたシーズン・二回目の講座メモです。
今回は
・身体の状態を想像する
・明るくあいさつする
・はじめと終わりの音の変化
・音の硬さ柔らかさ
・老人を演じる
をトピックとしました。
・身体の状態を想像する
「どれ、もう起きようか。あんなにみつばちがきている。」
この台詞を読む際にこの台詞を発する人物がどんな身体の状態にあるかを考えました。
大きく分けると3パターンくらいかと思います。
1.寝床から半身起きている
2.寝床から起き上がりながら
3.まだ布団の中
どの状態でも文章とは矛盾しない選択肢だと思います。ですが、出る音は明確に違ってくるのは、実際その姿勢になってみるとよく分かります。あなたはどれを選びますか?
私は動きを感じる台詞が好きなので、2の動作中の発話を選びます。
他にも、伸びをしながら、なんてのも面白そうですね。
・明るく挨拶する
「やあ、おはよう。いい天気でございますな。」
こちらの台詞は、いかにも明るい朝の挨拶なオーラを感じます。中にはまだ目が覚めきっていないムニャムニャした挨拶、という選択肢もあるかと思いますが、今回は明るく挨拶する際の「声の方向」に注目しました。
明るさや爽やかさを感じさせるには、
口から活字が出る、とイメージした場合、その活字を上に放物線を描くように飛ばす事をイメージすると効果的です。
ボールを高く投げ上げる時のような感じです。そうすることで音は明るく、爽やかになってきます。
他にも、笑顔で発話するだけでも、音は明るく変化したりします。
・はじめと終わりの音の変化
「初めのうちは、老人のほうがずっと強くて…しまいにはあたりまえに差して…」
青年の将棋の腕前上達を示す地の文で、「初めのうちは」「しまいには」と段階が明確に示されます。
第一に、第二に、といった感じで物事の区切りが示される場合には、そこを的確に立てる(強調する)と伝わりやすくなります。
大切にする、と意識するだけでも効果的ですが、他の言葉と音の高さの変化を起こすと効果的です。
「初めのうちは」は文の頭でもあるので高めの音から、その後徐々に音は下がっていきますが、「しまいには」の所で少し音を上げると効果的です。
ただこのとき、「初めのうちは」よりも高い音で出ると
初め→しまい
という順序が若干崩れて聞こえるので、高くしすぎないように注意です。
・音の硬さ柔らかさ
「二人とも正直で、しんせつでありました」
皆さんは「正直」と「しんせつ」の二つの言葉、どちらの方が固いイメージがあるでしょうか?
私は正直、の方が若干固く、しんせつ、は少し柔らかく聞こえます。
実直なイメージと柔和なイメージとでもいいましょうか。こういった言葉にふさわしい音を選んでいくと地の文にも彩りが生まれます。ただ、やりすぎるとガチャガチャしてくるので、ほどほどに…。
・老人を演じる
この物語の主人公の一人は「老人」です。
老人の台詞を読む時にはどのように表現したら良いでしょうか?
がっちり「老人」らしい声を出すでしょうか?それとも敢えて意識はしないでしょうか?
朗読における台詞の読み方は諸説あるようですが、私は早い話、なんでもいい、正解はないと思っています。
演じた方が楽しければ演じれば良いし、さらっとやりたければさらっとやれば良いのです。好きに楽しんで下さい。
ただ、「老人」を演じようとすると「あからさまな老人」が登場してしまう事があります。現実にはそんな人いなくない!?というようなコテコテの、記号化された老人です。
記号は分かりやすく「老人」なので、これまで人類が積み重ねてきた「型」を使うことは良いことだと私は思います。ただ、「型」だけになりすぎないこと、台詞の意味・働きを取りこぼさない事が肝心です。老人を説明することだけに集中しすぎないように、老人に生命を吹き込みましょう。
また、さらっとやる場合にも、「違う人物だから少しは変化をつけたい」という方もいらっしゃるでしょう。
そういう場合に有効な型は「少しゆっくり喋る」あるいは「少し声を低くする」など、速さや高さに変化をつける事です。
(老人はゆっくり喋る、というのもイメージだけの話ですが)
これもやりすぎると「老人の説明」になりかねないので、やはり大切なのは台詞の本質です。
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