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【講座メモ】芥川龍之介『トロッコ』二回目

池袋コミュニティ・カレッジで行っています
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シーズン・トロッコ、二回目の講座メモです。

・「−−」の働き

『トロッコ』の中に頻繁に登場する「−−」がつけてある箇所について注目し、その意味を考えました。
例えば
「他の一人、−−耳に巻煙草を挟んだ男も」
という箇所では、「つまりそれは」といった感じで、前の「他の一人」のディテールを表すために引かれている気がします。
では
「そう云う姿が目にはいった時、良平は年下の二人と一しょに、もう五六間逃げ出していた。−−それぎり良平は使の帰りに、人気のない工事場のトロッコを見ても、二度と乗って見ようと思った事はない。」
はどうでしょう。
先程の「つまり」の意味とは違った働きをしているように感じます。
なんとなく、時間の経過、といった意味合いの事を感じる気がします。
『トロッコ』は語り手の昔話、という形式なので、
・現在の語り手が現在の事を語る
・現在の語り手が過去の事を語る
・現在の語り手が過去に入り込む
など、語り手がどの位置にいるのか(語り手の視点)が微妙に変化してくる作品です。「もう五六間逃げ出していた」に関しても、過去に入り込んで読む/過去の思い出を回想して読む、のどちらでも成立すると思われます。
この箇所の「−−」は、ここでなにかしらの(気持ちの)視点の移動が起きる印かな、と思ったりしました。

語り手の位置

そう思って読んでみると、読み方が微妙に変わってきますね。「これはなんだろう?」という好奇心を、常に持っていたいものです。

・つなぎの処理

「すると土を積んだトロッコの外に、枕木を積んだトロッコが一輛、これは本線になる筈の、太い線路を登って来た。」

ここの、トロッコが一輛のあとの「、」を「、」として読むか「。」として読むかで結構印象が変わるよ、という文章のつなぎ方処理を見てみました。ややマニアック。

「、」として読む場合は「いちりょう」の「う」の音を下げすぎないのがポイントかと思います。かつ、次の「これは」の「こ」を少しだけ高い音にすると繋がりが気持ちいい。
対して「。」として処理する場合は「いちりょう」の「う」の音をしっかり下げる。丁寧に置いてあげる感じです。トロッコの存在感が際立ってきます。
特に長い文章でもないので「、」として処理するので良いと思いますが、作家の中にはなかなか「。」をつけない(太宰治とか多い)人もいるので、そういう場合は「。」でおさめる箇所をつけるといいアクセントになります。

・台詞いろいろ

「この人たちならば叱られない」
この台詞を
・安心
・おどおど
・チャンス!
・期待
と気持ちを変えて、さらに、実際口に出した言葉/心の声、と分けて、計8パターンで声に出してみました。
色んな読み方がありますね。

・線路の上がり下がり

作中の、線路の勾配が上りになったり下りになったりする箇所を繋げて読んでみました。
上り坂を読むときには上を向いて、下り坂を読むときには下を向いて、などしてみると、位置に相応しい音になるような気がします。
また、上り坂・下り坂、それぞれの坂を目の前にした時の「良平の気持ち」にも注目。
トロッコを押すのが楽しいので上り坂でもマイナスのイメージにはならないですね。
下り坂になると、「乗る方が良い」という気持ちになるので、これまた別の楽しさが発生しています。
坂の勾配の説明の地の文でも、それを目にした子供の気持ち、という物が読みに乗ってくると、より活き活きしてくると思います。

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