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【講座メモ】小川未明『野ばら』一回目

池袋コミュニティ・カレッジにて講師を担当しております講座「西村俊彦の朗読トレーニング」
詳細はこちら

7月から6回の新シーズンが始まりました。
今期は小川未明の『野ばら』
国境を警備する若い兵士と年老いた兵士。二人が平和に暮らす中忍び寄る戦争の足音…という、児童文学でありながらシビアな世界観が光る作品です。

第一回は
・状況などを提示する
・感覚を味わう
・質感の変化を楽しむ
・雰囲気を捉える
などをトピックに講座を行いました。

・状況を提示する

物語冒頭の
大きな国と、それよりはすこし小さな国とが隣り合っていました。
という文章を例に、物事や状況を提示していく感覚を探りました。冒頭ということもあり、ゆっくりと分かりやすく伝えていきたい物です。
こんな時は目の前に一つ一つ物を置いていくような感覚で言葉を出してみると面白いです。

・感覚を味わう

いたってさびしい山でありました

この文章に実感を流し込んでみます。
さびしい、というのを的確に音にしたいですが、「さびしい」という言葉だけに表現を入れると少し変な感じになります。文章全体に漂わせましょう。
はじめに「さびしい山」という言葉だけを、イメージする寂しい音で読んでみた後に、「いたってさびしい山でありました」
という文章にそれを流し込みました。

・質感の変化を楽しむ

警備の二人ははじめは互いに警戒していますが、いつか仲良しになっていきます。この関係性の変化が描かれている地の文で、はじめは固く、次第に柔らかい音にしていくというトレーニングをしました。
固い音には緊張感が、柔らかい音にはなかよし感が現れてきますね。
言葉にはふさわしい音を
というのが、私の信条の一つです。
なかよしになったことが語られた後、「二人は、ほかに話をする相手もなく退屈であったからであります」と文章が続きます。
敵対関係になるかもしれない両者がなかよしになった、その理由は「退屈だったから」
この理由部分に皆さんはどんな感情を持つでしょうか?
語り手の感想を音にしていく
のも朗読を面白くするコツです。
私はこの「退屈だったから」という理由に、なんともおマヌケなユーモラスな感を感じますので、この一文は少し冗談でも言うような感覚で声にしました。
この「理由」が「もっともだ!」と思ったら「もっともだ!」と思いながら。また、「けしからん!」と思うなら「けしからん!」と思いながら一文を声にしてみましょう。響きが大分変わってくるのではないでしょうか。
文章のメインテーマと矛盾しない程度に、語り手の感情を流し込んでいきましょう。こうすることで、「あなたが声に出す価値のある表現」になるのです。

・雰囲気を捉える

国境のところには
・野ばらが茂り
・みつばちが飛び
・蜂の羽音が夢心地に聞こえ
てきます。
こののどかな雰囲気を声に乗せてみましょう。


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