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ソフトクリーム

3月某日。今日は、華金。

ここ最近残業ばかりだったので、今日くらいはいいかと30分で残業を切り上げ、帰宅することにした。

早く帰ることには成功したものの、そこからはまるでノープランだった。

「(せっかくの華金だし、家に直帰ってのも勿体無いよな、、、でも特段行きたいところもないんだよな、でも直帰は勿体なさすぎる、、、うぅ~、、、)」

そんなことを思いながら、気付けば、電車を乗り継いで日比谷まで来ていた。
日比谷を過ぎると、寄り道できるような駅はもう無い。さあどうする。

そのまま帰宅するという選択肢も過ったが、勿体無いという気持ちが勝り、とりあえず日比谷駅で降りてみることにした。

その辺をふらふらする。華金ということもあって、待ちゆく人がみんな晴々した顔をしているように見え、もはやその雰囲気だけで楽しかった。

数分間あてもなく歩き続けていたが、雑誌でも買って読みたくなり、結局いつもの本屋さんに行ってしまった。が、お目当ての2Fコーナーは改修中らしく早速断念する。

同じ建物内に北海道どさんこプラザ(北海道のアンテナショップ)があったので、なんとなく前を通ってみると、ソフトクリームを持ってお店を出てくる人々が数名。

血が騒いだ。

私が今まさに食べたかったものはこれ(牛乳ソフトクリーム)だ、と。

しかし、それと同時に「おひとり様には一番ハードルが高い食べ物だよな、、、」とも勝手に落胆した。

両方の気持ちがせめぎ合い、いったん近くにあった沖縄のアンテナショップに足を運び冷静になろうと試みたが、どうしてもあの牛乳ソフトクリームが忘れられなかった。

結局、心の天秤にかけて圧勝した「食べたい」という気持ちに従い、いざ入店することにした。

店員さんからソフトクリームを受け取る。
「(そうそうこれこれ!市販のアイスクリームとは違うこのやわらかさ。家では食べられない特別感は唯一無二だよな~。しかもバニラじゃなくて牛乳という点がポイントなのよ!しかも機械に固まったアイスが入ったカップを設定して押し出して使うタイプのではなく、もうすでに中でやわらかい状態でスタンバってくれてるタイプの正真正銘ソフトクリーム!うう幸せすぎる、、、)」

ソフトクリームでこんなにも高揚できる純粋さが、まだ自分の中にあったことに安心した。

だが急に現実に引き戻される。ソフトクリームを受け取ったら、自分の陣地(食べる場所)を探さなければならない。これがおひとり様にとっては非常~に大事なのである。

ソフトクリームを一人で食べるという選択をしている時点で、傍から見れば「自分、一人行動なんて余裕です♪」というタイプに思われるかもしれないが、できることならば、極力誰にも気づかれず、ひっそりと食べ終えたい。

絶妙に空いているスペースがなく、結局裏出入口に一番近いポジションで食べることになった。陣地獲得に失敗したが、結論陣地など割とどうでもいい話なのであった。
実際、周りを見てみるとほとんどがおひとり様なのであった。この狭いイートインスペースは、20~40歳の仕事終わりと思われる女性で溢れかえっていた。

全員がただ黙々と目の前のソフトクリームに集中している。
これを言うと、「独り身の女性が群れをなして無言でソフトクリームを食べている光景なんて、日本の闇ではないか。」と思われる気がする。私もその中の一人だった。 

だが自分も実際そうなのかと考えると、一体私は最近嫌なことばかりな可哀そうな人間で、自分を労わるためにソフトクリームを食べに来たのか、というと全くもってそうではない。
ソフトクリームという食べ物が大好きだから食べに来た。これは紛れもない事実である。

そんなことを思いながら、ソフトクリームを一口。

うまい、うますぎる、、、。

私は、牛乳のソフトクリームが食べたいという理由だけで、牧場に行ってしまうような人間である。
これが有楽町で食べられてしまうなんて、嬉しいような、「牧場にまでわざわざ行ってしまったあの時の私の労力は一体何だったのか、、、」と損したような、そんな感情に苛まれれた。

これはおいしい。このソフトクリームを楽しみに1週間の仕事を乗り越えた人もいるんだろうな、なんて考えると、ほほえましくも思えた。みんな一人でも食べに来るって、よっぽど好きなんだろうなあ。

他人からの視線という余計な感情を一旦捨てて、好きという気持ちに正直になり、好きなものに向きあう。
ここには周りの目を気にせずに、好きなものに集中できる真の幸せがあった。

最初は、日本の闇の象徴なんて思ってしまっていたが、ソフトクリームという幸せに包まれた今、日本中で今一番幸福度が高い場所はここなのではないかと錯覚してしまうほどには、洗脳されていた。

だが、ここはやはりおひとり様。みんなささっと食べて帰るので、イートインスペースの回転率は鬼のように良い。私も急いで食べ終えて、その場を去った。

残業をするかしないか、寄り道をするかしないか、ソフトクリームを食べるか食べないか。

あの時、こうした小さな選択肢のうち一つでも違う方を選んでいたら、この感覚を味わうことは一生なかったのだろうなとふと思った。

今、帰宅して小樽ビールと海ぶどうをつまみながらこれを書いている。

(LIVEモードで急いで撮った写真です)

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