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【懐かし死】ハローキティ×人生ゲーム

うちの実家にあった人生ゲームがちょっと変わっていた。

その名も「ハローキティ 人生ゲーム」。
ポップなキティちゃんというキャラクターに「人生」という壮大なテーマを掛け合わせたゲームが、まあそこそこには楽しかった。

簡単に言えば、一般的な人生ゲームの設定が全てキティちゃん仕様になっている、という感じ。

“一般的”などと述べているが、私は先にこの人生ゲームを知り、それで育ったので、俗にいう一般的な人生ゲームで遊んだのは大分あとのことだった。

この人生ゲーム、ありとあらゆる設定が、キティちゃんにちなんでいる。
例えば、キティちゃんの世界で使われている通貨は「🍎(アップル)」である。
公式プロフィールにて、キティちゃんの伸長はりんご5個分、体重はりんご3個分という設定があったり、好きな食べ物は「ママの作ったアップルパイ」であったり、とにかくキティちゃんの世界ではりんごがよく登場するのだ。

この「🍎(アップル)」は単位なので、100円、200円…というように、「100🍎(アップル)、200🍎(アップル)…」と数える。
お金にまでキティちゃんの顔が施されていて、かわいいデザインになっている。

だが、キティちゃんの世界にもちゃんと約束手形(借金)というものが存在する。全然かわいくない。
他のお金はピンクだの水色だの、かわいらしい色合いが使われているが、約束手形は白地に赤文字で漢字で「約 束 手 形」ときちんと刻まれている。気のせいか、キティちゃんの顔もこの約束手形ばかりは全然笑っていないように見える。

これを受け取ってしまったときは、子供ながらに絶望した記憶がしっかりと残っている。なかなかにインパクトのある紙幣。子供に借金の怖さを教えるという意味ではうってつけのデザインで、少なくとも幼少期の私にはとても響いていた。

借金のリスクを最小限に抑えるため、保険も存在するのだが、こちらは打って変わって「いちご保険」というキュートなネーミングである。

保険の名前をこんなに可愛らしくできるのならば、借金の名前ももう少しどうにかできなかったのかと思うが、やっぱり借金を可愛らしいものとして扱ってはいけない、という大人側の倫理観がはたらいたのか、あえて可愛らしい名前にしなかった制作チームの意図を感じた気がした。

そしてまた、特徴的なのが職業。一般的な人生ゲームでは、銀行員や医者といったところがよくある職業なのだろうか。しかし、キティちゃんの人生ゲームで選択できる職業は、なんというか偏りがすごい。

お給料の良い順に並べると確か、スチュワーデス、ピアニスト、看護婦、画家、詩人、テニスプレーヤー※ という6種類があった。それにしても、職業名の“当時感”がすごい。スチュワーデスも看護婦も今ではアウト笑

テニスプレーヤー※とあるが、これだけ給与システムが特殊で、給料マスを通過するたびに、ルーレットを回して給料が決まる。
出た数に50をかけた金額が給料になるので、最大値の10が出れば10×50=500アップルもらえて、固定給組で一番高収入なスチュワーデスの給料300アップルを優に超えることができる。
逆に1を出してしまえば、50アップルしかもらえない。ちなみに最低給は詩人の120アップルだが、それの半分にも満たない。試合の勝敗により給料が変動するという設定にもまた、妙なリアルさがある。

しかし、ここで一つ思うことがある。ルーレット制は、他の職業にも適用できるのではないか、と。

なぜ、テニスプレーヤーには一攫千金のチャンスがあるのに、詩人や画家にはそれがなく、生涯低賃金生活を強いるのか、幼いながら不思議でたまらなかった。
人生ゲームをプレゼントしてもらった6歳の頃は、詩人という職業にいまいちピンと来ていなかったが、授業で詩について扱い出す小学生にもなれば、あの給料の決め方には不信感を覚えた。
国語の授業で詩人の俵万智の存在を知ったあの時、「詩人」と言う響きであの人生ゲームを思い出し、「俵万智は『サラダ記念日』でいくら稼いだと思ってんだよ!」と心の中で嘆いた記憶は今でも鮮明である。

画家だってそうだ。亡くなってから評価される画家は数多くいるものの、生きているうちに世界的に有名になり、億稼ぐ画家だっている。

しかし、このゲーム上で一攫千金チャンスがない限り、画家と詩人はなりたくない職業なのである。その職業になるマスに止まるか、職業決めのマスを通過する時に職業を決めることができるのだが、職業決めで伏せられた職業カードを選ぶ時は、「画家や詩人ではありませんように…」と祈ってしまう自分がいた。
この人生ゲームで育った子供たちは、たとえ絵や詩の才能があったとしても、中には画家や詩人になるのをやめてしまった子もいたのではないか…と余計な心配もした。
所詮ゲームだが、強烈な固定観念になったようにも思える。

そのほかゲームの進め方やイベントについては、ほとんど一般的な人生ゲームと同じである。キティちゃん要素が少しずつ入っているところくらいしか変わっているところはない。

例えば、お金を失うイベントでいったらこんな感じ。

「ママの花瓶を割っちゃった。350アップル払う。」

大分序盤で出てくるコマなので、キティちゃんが幼少期の頃のイベントなのだが、いくら自分(母)の大切な花瓶だからって、子供に弁償させるのは酷すぎるだろ…と思ったり、

最後の方のマス目になると、イベントの規模も大きくなるのだが、

「宇宙旅行に行く。3000アップル払う。」

というマスもある。

3000アップルというこのゲーム内では大きすぎるお金が動くイベントで、このコマに止まると落胆していたのだが、冷静に考えると、

ん…。花瓶の10倍もしない金額で宇宙にまで行けてしまうのか。
ママの花瓶が激高なのか、宇宙旅行が格安なのか。

前者ならば、ママがブチぎれて、幼い子供に弁償させるのも無理がないか。
こういう金銭感覚のバグが生まれるのもこのゲームの醍醐味なのである。(違う)

小さい頃は何気なく遊んでいたゲームだったが、今でも思い出すだけでこんなに楽しいとは、私史上最高のゲームだったのかもしれない。
そんなゲームは他にそうない。
幼稚園生ながら、銀行係をやったおかげでちょっとした計算までできるようになったから、このゲームには感謝している。

先にも述べたが、「ポップ」×「人生」という二つの乖離したテーマが、この面白さを生み出しているのかと思った。


こうしたしょうもない思い出し話も載せていけたらと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

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