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「未來」6月号自歌

短歌結社「未來」、この号では歌が9首載ったのを見た。

在りし日のままに眠れる従兄(ひと)の顔撫でよと言はれ指はたゆたふ
おとなしう焼かれて壺に納まりてあんなにうまく死ねるだらうか
胴枯れの桃にみの虫のみ生りて振り子の影をなせども揺れず
分身をかしづき誰かの分身を殺す世界に三年遊べり
丑の刻近くなりせばお先にと仮想の世からうつつへと落つ
同郷の風のたよりや春の来て鬱にならぬはわれのみと聞く
自まつげを聞き違へにき血まつりが際だちてゐるわがまみのほど
9の上にはたはた踠く秒針を夫と助けて茶の湯の沸きぬ
コーヒーを好める夫も吾と九年夏摘み紅茶をふつと言ひ当つ

・1つ上の従兄の死は未だ自分の中で受け入れられない死の中のひとつである。動かぬ人を前にして、お別れに戸惑った瞬間。
・納骨が粛々と進行する。滞りのひとつもない。故人の年が近いので自分のときのことを考えずにいられなかった。
・庭の桃の木。右半身が枯れてしまっているが蓑虫がのぼってはぶら下がっている。振り子のシルエットが揺れない、時がなかなか進んでいかないところを表現した。
・MMORPGのゲームをしている。自分で作ったアバターに成長を与えて、他のキャラクターを倒す。3年続けていると良くも悪くも色々なことが安定してくる。
・「落ちる」という動詞について考えていたとき。ネットから離脱するときに「落ちます」と宣言するのをおもしろく感じて詠んだ。
・親の家へ行くと、同級生の話をよくされる。あの子は調子が悪い、この子も働けない。ついに、いちばん活発だった子が引きこもっていると聞いて衝撃を受けた。
・聞き間違いや空耳はよく起きる現象である。自まつげが血祭りに聞こえた。あまり短歌にしないことかもしれないが、おもしろく詠めたらと思う。
・秒針とあるから、アナログ時計の9の上から登れなくなってその場で秒を刻んでいる、電池がない状態だと伝わってほしい。
夫は壁から時計を外し、妻は電池を用意する。
・夫は日常的にコーヒーを飲み、妻は紅茶をいれる。9年目のある日、紅茶をひと口飲んだ夫は「セカンドフラッシュ?」と言った。正解であった。

採られなかった1首は、宇宙葬についての歌であった。最後に位置していたので、そこでまた死の歌に戻ってしまうと、たしかに広がっていかない。
切られてみて、蛇足だったと理解する。

今回は、「生死の境を描いて直情あふれる」というほかに、1首目と8首目が良いと、黒瀬先生から評がいただけた。
まだ、自分では良いものとそうでないものの区別がつかないので、とてもありがたく思っている。

地元で、結社とは別の、短歌のサークルのような活動をしているが、一生懸命詠んで提出しても、難しくてわからないと言われてしまう。今回ほめていただいた8首目などはそれである。  
当たり障りのないことを詠むようになって4年過ぎたところで、未來をつかんだ。
本気が出せる場があるのはありがたいことである。

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