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「未來」7月号自歌

入社から5か月、欄頭の3人のなかに入れていただいたのを見た。

沼田市の池田とふ地に落とされし我が属性は水か大地か

田に並みて鯉など泳ぐ池のあり池田と申す由か知らねど

りんごりんご看板を読む子らを乗せスクールバスの往く峠道

いのち湧くとて上下する春の土おつかなくつてとんで帰りぬ

をみなごのスケッチブックしどけなう沼田城址を囲みては散り

浪立ちて晴れの少なき新潟に学ぶ書と画と酒とじよんのび

越後路に雨を聞きつつふるさとの蝗の跳ねる音をし思ふ

沼、池、潟――水の縁にさからはず吾が嫁ぎ来し地は大泉

ぐらぐらと水を炙ればT-faLのとれてはならない取つ手がとれる

・個人にとって親和性のある自然物があるのかもしれない。生まれ育った環境がどれほど影響するのかはわからないが、わたしの場合、水か地かのどちらかな気がしていた。
・宮崎での黒瀬先生の講演を聞き、地名というものを意識して詠んだ。この池田という地名は合併により消え、学校名や郵便局名くらいにしか残っていない。
・小学校に通うのに峠をひとつ越えなければならず、2年生まではバスに乗れた。リンゴ農家が多く、至るところにりんご園の看板がある。バスの中から、文字を覚えたての子らがひらがなだけ読んでいる。
・3年生になると徒歩通学になる。ある日の学校帰り、土が1箇所、盛り上がっては戻るを繰り返しているのを見た。蛇なのか蛙なのか土竜なのか、大人になればおよその見当はつくが、当時はなにか大地自体が息をして生きている気がして逃げ帰った。
・女子高校に通い、美術の授業で近くの城址公園に行く。城址を囲んで描くが、2時間ほどの写生、みんなお行儀よくしているわけではない。
・これも宮崎での黒瀬先生の講演にあった、方言というものを意識して詠んだものである。じょんのび、というのは新潟で覚えた「のびのびする」とかの意味のことば。
・水に触れながらも大地のことを思う。乾いた稲穂の間を大群のイナゴが跳ねる音は雨音にも似ている。
・我が属性は水か大地か、の答えを一応ここで出している。水に関する地に縁があったなと振り返ることができた。
・現在の生活の中での1首。仕事に家事に忙しくするうちにこの地での暮らしは9年目に入る。ついにティファールの圧力鍋の取っ手が破損したところから着想した。

採られなかった1首は、幼いころの作者が草(大地)を怖がるのを親が語りぐさにしている歌であった。
草がこわいのを、親に語らせるのではなくて、自分でこわいと思ったほうがよかったのかもと反省。

今回は、黒瀬先生が宮崎でおこなった「土地と短歌」の講演に強く影響を受けている。地名は悠久のもの、方言は今の一瞬のもの、悠久と一瞬をうまく織り込むこと。
がんばります。

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