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「未來」5月号自歌

短歌結社「未來」に入って3ヶ月経ち、初投稿の歌がようやく8首載ったのを見た。

ますらをの正しう箸を持ちたまひ骨を拾へる姿うつくし
いぬに草踏ませ灼けつく道をゆくここに倒るる日など思ひて
わかることとわからぬことと順番に点滴の粒這ひ来る聖夜
吾子を詠むことの永劫なくなりてなほ望月は欠けじと夫は
家中の暦かけかへ待つてゐるリセットボタンを押す神の指
一年の後もこころや変はらぬとHonda Dreamに試されてゐる
ワクチンを何とはせしか夜もすがらよろづの筋肉在り処を吟ず
「南南東今年の恵方は南南東」鴉鳴けども吾は東人

・箸の持ち方を多く非難され、それでも直す気はないと言っていた若者を見かけた。しかし、箸を使わねばならぬ本当のときは、近しい者の骨を拾う瞬間である。
生を続けるためと死を納めるための共通の道具である箸。美しく箸を持ち骨を拾う青年は実景。
・灼熱の道の上の犬の散歩。いぬの足が熱くないように草を踏ませる。このいぬとどちらかが倒れるまで一生散歩し続けるのだろう、と、ふと思う。
「いぬに草を踏ませ」だったが、黒瀬先生が「を」を添削にて外してくださったようだ。そのほうが定型におさまるし、散文的な感じが抜けたし、「さ」と「せ」が近くなって、草のカサカサ言う感じがするし、とてもいい気がする。助詞を省略したほうがいい場合がある。勉強になる。
・クリスマスに腹痛でERに入った。そこで病巣が見つかった。点滴をうたれながら子を持つことは絶望的であると説明された。
点滴は落ちるというよりはじわじわ近づいて入り込んでくる感覚を表した。
・夫に謝った。が、不屈の夫は気にすることはないと言い、いつも通り円満に暮らし続けている。望月〜は藤原道長の例の歌から借りた。
・他にもいろいろと酷い目に遭った2022年だったので、新しい年に切り替わるのを心待ちにしていた。ただ時間はコントロールできないので、その時をじっと待つしかない人間ということも意識した。
・バイクが欲しいという夫。世の中は戦争中、物が値上がりし、部品づくりのラインが止まり、流通が滞る。新車で買ったとしても納車は早くて1年後。1年経てばひとの心は変わる。Honda Dreamの店員に試されている。
・新型コロナウイルスのワクチン接種をした。ファイザー社製のワクチンは初めてであった。副反応の筋肉痛。身体中の筋肉という筋肉が「我々は〜!ここに〜ある〜ぞ〜!」と主張してきて痛い。心臓も筋肉だから鼓動するたびに痛いのだ。
・鬼滅の刃のカラスの声で再生されるのを期待。恵方巻きは関西の風習のはずが、瞬く間に全国に浸透していく。すべての地域が均質化され、その土地らしさがなくなっていくのはおそろしいことである。

採られなかった2首は、2匹の犬が出てくる歌と恵方巻き反対の歌であった。
状況が伝わりにくい歌と、偏屈な印象を与える可能性がある歌だったと思う。

その嫌な感じのところを切り、ちょうど自己紹介になり得るような8首を載せていただき感動している。
また、「修辞の本格派だ。それでいて個の生を見つめる姿勢に重みがある。」と黒瀬先生から評をいただき、この瞬間ほど古文を勉強してきてよかったと思った日はなかった。

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