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障害物の間を縫って進むくらいなら

 2月の中頃から一気に花粉症が悪化した。

 まずコンタクトはしていられず、眼鏡に切り替えると帰る頃にはレンズが黄色い粉をふいていた。鞄に忍ばせていたポケットティッシュは文字通り紙屑でしかなく、ボックス型のを詰め込むとそれも一日で半分を使い切るありさまだった。
 例年は目のかゆみにだけ眼科で目薬を処方してもらっていた。それも余るくらいの症状だったのだが、今年のは格が違う。鼻の方は市販薬で対処していたが、全くと言っていいほど効かなかった。

 仕方なく仕事を休んで平日の昼間の耳鼻科に行くと酷い混み具合で、予約せずにきたらしい人が受付で4時間待ちを言い渡されて肩を落として帰っていったりしていた。
 座れるスペースもないから下駄箱の横でぼんやり立っていた。クッションを並べたプレイルーム的なスペースの壁に大型テレビがあって、『スーパーマリオブラザーズワンダー』のプレイ映像が延々と流れていた。障害物の隙間をくぐろうとして、トゲにぶつかりステージの最初に戻る。そんなミスを繰り返すマリオを子どもたちが静かに眺めている。こういう需要もあるんだなあとちょっと感心した。

 ちゃんと診断の上で処方された薬はその日のうちから抜群に効いてくれた。
 思えば今まで花粉症が発症しても、まあ外に出なければいいしなどと考えていた。
 障害物の間を縫って進むくらいなら時間経過で消えるのを待つ方が楽だろう。
 そんな自分の労力を減らす思考のクセは昔からあって、それで苦しめられたと言えば大げさだけど、楽しんだりリラックスしたりする気分とかをむやみに削ぎすぎたなとは思う。障害物が消せるならその方が良い。
 花粉を感じずにいられる春の外気はただ暖かい。安心して眠れるくらいには。

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