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針女

手先が器用ではないのですが、
綻びを繕うことはするのです。

ちょっとした綻びをチクチクと。


針を無くした事はないだろうか。
コンタクトを落とした時と同じで、
基本は絶対に動いてはならず、
とにかく目を凝らして辺りを探す。

服に表面に付いていたり、
服の淵やら返しに入っていたり。

掃除機を持ち出してみたり、
懐中電灯を持ち出してみたり、
ガムテープを持ち出したり。

日中の光は見つけやすい。
けど、綻びを繕うのは大概夜。


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久々に針を無くした。
手袋を繕っていたら、糸の長さがギリギリになってしまった。
針の際で糸を切ったら針が落ちた。

視界から見切れた事実はあったから、
玉結びを作ってハサミで切ったら落ちた針を探そう。


それなのに針はどこにもなかった。
ひざ掛けにも、座布団にも、洋服にも。

もう、際限なく落ち込んだ。
無いわけないのだから。

そろりそろりと着替えて、
風呂に入って、そして寝た。


ちょっとした体への刺激が全て針ではないかとビクつく。
単なる洋服のこすれや、久々に体を動かして筋が痛いだけだった。

翌朝も気分が悪い。

そろりそろりと部屋を動く。
曇でも自然光は見やすい。


踏んづけたら、足から針が入って全身を巡って、死ぬ。
そんな子供伝説。

「針女」 有吉 佐和子 
遠い昔に読んだ本を思い出した。


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朝の水分カフェオレを飲みながら、
何気なく髪をいじくっていると、
傷んだ髪にぶち当たる。

切ろうと思ってハサミを取ったら、
なにか小さいものが落ちた。

針じゃん、いたよ。針だよ。

また落ちた。
落ちたのははっきり見た。
視界から見切れたから。
どこに落ちた。


心臓はバクバクしている。
昨日と同じことをしている。
また無いとかあるのだろうか。

今度こそ落ち着かなきゃ。
無駄に動いてはいけない。

そこから記憶がない。

でも、針はあった。
針刺しに刺してようやく我にかえる。

自分に戻った。


私は急に元気になった。



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