蒐集:Western Journal
ついに買ってしまった……。『Western Journal』を……。1950年代に出てた日本のミニコミ。もちろん普通は知らないものですので少々解説してから。
前提:ウエスタンとは
1960年代にロックが登場する前に、1950年代にはロックンロールとかロカビリーというのが流行ってたらしい、というのは皆さんも聞いたことがあると思います。ロカビリーの「ビリー」はヒルビリーのことで、ヒルビリーの中でもブルース/R&Bの影響を受けた曲をロカビリーと呼びました。じゃあヒルビリーって何かというと、カントリーミュージックと呼ばれる前のカントリーの呼び名で、つまり白人のフォークミュージックです。ヒルビリーは田舎者という意味で差別的なため、カントリーに置き換わったのでした。
カントリーのリスナーは保守的な白人多め、ブルース/R&Bのリスナーは黒人多め、と言われておりまして、ブルース/R&Bを白人でも聴けるようにしたのがロカビリーのスター=エルヴィス・プレスリーとされますが、今回はロックの話は極力省略。
ヒルビリーのルーツはマウンテン・ミュージック(オールド・タイム)と呼ばれるもので、弓で弾く弦楽器(バイオリン=フィドル)と、指やピックで弾く弦楽器(マンドリン、バンジョー、ギター)の組み合わせによる、電気を使わないアコースティック演奏の音楽です。アイルランドやスコットランド周辺のフォークダンス向けの民族音楽が、18~19世紀のヨーロッパからの移民と共にアメリカ東部のアパラチア地方の山岳部に伝わり、それがアフリカから連れられた黒人奴隷の歌うブルースと混ざってマウンテン・ミュージックができました。
そのアパラチア地方の州の一つあるケンタッキー州出身のビル・モンローが1938年に組んだマウンテン・ミュージックのバンド、Bill Monroe & His Bluegrass Boysがヒットしたことで、彼らのようなバンドの音楽をバンド名にちなみブルーグラスと呼びます。マウンテン音楽との一番の違いは、バンドに一時期在籍したアール・スクラッグスが得意とした、バンジョーのスリーフィンガー・ピッキング奏法です。カントリーも同種の編成ですが、スティール・ギターやエレクトリックギターも取り入れ、よりポップミュージックに接近したものです。
ウエスタン・ミュージックはスコッチ/アイリッシュ音楽に影響を受けた点でマウンテン・ミュージックと同じですが、それがアメリカ西部に伝わり、メキシコ民謡などの影響も取り込み、西部にある大自然や牧場(カウボーイ含む)を讃える歌詞を歌う……という音楽です。カウボーイ・ソングと呼ばれたこともあります。音楽的特徴はハーモニカが時々入る以外はマウンテン~カントリーと同じ、歌の内容だけ違います。そのためひとまとめにカントリー&ウエスタンと呼ばれました。
今回取り上げる『Western Journal』のウエスタンは、カントリー&ウエスタン(以下C&W)のウエスタンです。ジャンル名はやがて「&ウエスタン」が省略され単なるカントリーの一語になります。つまり『Western Journal』はカントリーの専門誌であります。すでにC&Wというジャンル名も伝わっていた時期に、なぜカントリーではなくウエスタンを名乗ったかというと、おそらくですが、1940~50年代は西部劇の映画が日本含めた世界中で多数上映され、黄金期と言われるほど大流行しておりまして、ウエスタンという言葉がキャッチーで、良いイメージがあったのではないかと思います。戦後日本の芸能イベントの代表である「ウエスタンカーニバル」も、わりとすぐに全然ウエスタンじゃないミュージシャンばかりになるのに「ウエスタン」がついたままでしたね。
まあ、日本ではマウンテン、ヒルビリー、カントリー&ウエスタン、ブルーグラスは明確な定義付けがされていたかは怪しく、厳密な区別はなかったようにも見えます。とりあえずこの辺りを全部ひっくるめてのカントリー専門誌とします。
前提:日本のカントリー&ウエスタン・バンド
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