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雑談:「短冊CD」っていつから言われだしたのか問題

2023年7月7日、「短冊CDの日 2023」というイベントが行われました。イベントというか、その日に短冊CDを一斉リリースする日、という、レコードストアデイみたいなリリースイベントですな。

短冊CD=8cmシングルの細長いパッケージは、日本では1988年2月21日から各社一斉に発売されたフォーマットです。それまではシングルというと7inchレコードだったわけですが、レコードからCDへの移行が進む中で、CDでもシングルを、という発想が生まれたわけですね。

そうなるとお店側もCDを全面に展開しなくてはいけなくなりますが、CD用の棚を用意するのはなかなかの手間と費用です。そこで、それまで7inchレコード(177.8mm×177.8mm)を置いていた什器をそのまま使えるように配慮して、シングルCDのパッケージを縦167mm×横86mmのサイズにした、という話があります。これだと7inch用だった棚にシングルCDを2枚並べて販売すればよく、新たな設備投資がわずかで済む、というところですね。……ホンマかいな?と書いてて思いますけど。笑い。

7inchレコードを置いてたお店の什器をシングルCD2枚用に転用!……ほんと?

他にも、8cmサイズで売ると小さすぎて万引きがしやすいため、とりあえずサイズを無駄にデカくして、家に帰ったら不要な部分は折ってコンパクトに畳みましょう方式にした、との話も読んだことがあります。まあ複合的な理由なのかもしれません。このサイズに決定した会議がどこかで行われたんだと思いますが、その議事録を読んでみたいところです。


で、本題。Twitterでこういう書き込みを見つけて、着眼点がいいな、と思いました。

「短冊CD」。たしかにいつ言われだしたのか、よくわからんな? 疑問に思ったことがなかった。でももうかなり長い間そう言ってる気もする……。よし、検索クンの登場だ!

※ここから下に登場する引用文で太字の強調をしているのは、すべて引用者によるものです。現物では強調されていませんのでご注意ください。

『la farfa』2023年7月号

能町みね子連載「買わりばえのしない私vol.5」で短冊CDの話題。全然初出探しとは関係ないですが、ちょうどいいタイミングだな~と思ったので。

短冊CD」と言われて意味わかるだろうか。20代以下の人はどういうものを想像するだろうか。

能町みね子「買わりばえのしない私vol.5」(『la farfa』2023年7月号)

『文藝』2003年夏季号

長嶋有さんの短編に「短冊みたいなシングルCD」という言い方で出てきました。

入り口に八センチシングルCDのワゴンセールがあって、五枚で百円と殴り書きした紙が貼り付けてある。保子はかねてから探していたCDがあるので、近づいてみてみたが、あまりたくさんあるのですぐに諦めた。古本やレコードと比べても、短冊みたいなシングルCDの題名はあまりに小さすぎる。

長嶋有「センスなし」(『文藝』2003年夏季号)

『COOKIE SCENE』14号(2000-07-10)

同号掲載の対談記事「MP3とは何だ!?」(伊藤英嗣×和田晃太郎)に、「短冊CDレアグルーヴ」という見出しがあり、そこの対話に「短冊シングル」「短冊CD」「短冊型CD」の3種類が出てきます。

和田:でも友達の家に行って短冊シングルがズラーッて並んでたら爽快ですよね(笑)
伊藤:(笑)それすごいわ!
和田:怖くないですか? 壁一面に短冊CDがズラーッと並んで…
伊藤:10年後のコレクター市場を見こしてとか(笑)。勝手にやってくれって感じだけど。
和田:怖いわ…それ…(笑)。
伊藤:あ、こんなこというと「えとせとら(・レコード:日本の珍盤、奇盤、クズ盤専門店)」が広告出してくれなくなる!
和田:出てないですから(笑)!
伊藤:(笑)でもさ、プロモーション・ツールとしての短冊型CDって意味もあるみたいよ。

伊藤英嗣×和田晃太郎「MP3とは何だ!?」(『COOKIE SCENE』14号)

言い方が定まっていない感じですが、むしろこの3つが同じものを指していると難なく認識できる程度には使われていたのかも。

『MARQUEE』019号(2000-06-01)

一番最後に載ってるレコード店のレコメンドコーナーにおいて、愛知県arch recordsの推薦盤紹介で「短冊型CDシングル」登場。文=井上浩二。

⑥CORNICHE CAMOMILE/First Cut(CDS/Channel)
⑥は人気男女デュオの新作。“アイドルポップス”とのことで短冊型CDシングルにカラオケ付き。限定生産につきお早めに。

「SHOP TOP POP:arch records」(『MARQUEE』019号)

アイドルポップスだからあえて短冊型にした、という選択。興味深いです。

『COOKIE SCENE』10号(1999-11-10)

巻末の座談会「complete control!?」(伊藤英嗣×手塚るみ子×青木優)で、編集長の伊藤英嗣さんが「短冊シングル」を説明しています。

ライヴのチケット高くて、ぶらりと行ってみようって気にならないってことで言えば、レコードもそうだよね。まずあれ、いわゆる短冊シングル。イギリスとかだと、CDシングルは確か4ポンドくらいで、七、八百円。ま、そんなに安くないし、アルバムは日本と変わんないか日本の輸入盤店でアメリカ盤買うより高いくらいだけど、1、2ポンド、つまり三、四百円の7インチ・シングルってやつがある。

「complete control!?」(『COOKIE SCENE』10号)

いわゆる、と先につけているのに注目したいです。自分はそう呼んでないけど世間的にはそう呼ばれてるみたい、といったニュアンスが込められているように見えます。1999年は、使ってる人もいれば使ってない人もいるという時期なんでしょうね。

川勝正幸『ポップ中毒者の手記2(その後の5年分)』収録の1999年の原稿

1999年7月7日に発売されたgroovisionsのchappieのシングル『七夕の夜、君に逢いたい/水中メガネ』についての原稿で「短冊」に言及。

ここだけの話だが、チャッピーはデビューするなり野宮真貴さんからやんわりとしめられたらしい。「ファースト・シングルがマキシなんて生意気ね」と。確かに。チャッピーは新人なのに、ひな祭りに出た「Welcoming Morning」、子供の日発売の「Good Day Afternoon」と、ともにマキシ。7月7日リリースの「七夕の夜、君に逢いたい/水中メガネ」は“短冊”だが、これは七夕にちなんでのこととか。

川勝正幸「声も着せ替えするアイドルの勝負シングル」1999

単行本の現物を見失い、上記原稿の初出が不明ですが、ほぼ同内容のテキストが、Sonyのchappieの発売当時のページに残っていましたので再引用。発売用に書かれたテキストとすると1999年7月に公開されたと見ていいでしょう。URLにも9907の文字列が入ってますし。

チャッピーはひいきされてる。と、 最近、諸先輩の歌姫たちから嫉妬されているらしい。確かに。
不況の昨今、なぜかチャッピーの周辺のみ、景気がいい感じ。
 新人なのに、ひな祭りに出た「 Welcoming Morning」、こどもの日発売の「Good Day Afternoon」と、共にマキシ。
 7月7日リリースの『七夕の夜、君に逢いたい /水中メガネ』は"短冊"であるが、これは七夕にちなんでのことだというし。

川勝正幸「20世紀最後の、夏の定番ソング」(Chappie 水中メガネ/七夕の夜、君に逢いたい)

この文章で重要なのは「七夕に発売だから短冊CDにしよう」という意図がスタッフ側にあったことに言及されている点です。つまり、もう1999年の時点で細長いシングルCDのことを「短冊」とする認識が存在した、わけです。それまでのシングルはすべてマキシシングルで出ていたのに、あえて短冊で出しましょう、という。

ということで、1999年の時点でシングルCDは「短冊」と思われていたし七夕にちなむ発想もあった!のでした。20世紀の言葉だったんですねえ。

……で、終わるときれいなんだけど、実際はまだまだ辿れたので、これより古い使用例を以下に羅列していきます。ここからはマジで知りたい人向け。

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