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エイティーズ・リヴァイヴァル史再訪(2014年『アイデア』365号)

これは『アイデア』365号の特集「From the 80s to the 80s 現代におけるエイティーズ新解釈」用に書いたものです。もうこの号はsold outになっているようなのでここで再掲。この原稿、「イラストの特集なのに音楽の話が長すぎる」と散々言われました。いいじゃないですか、音楽が先行してたんだから……と言ってたんですけど、まあたしかに長いです。わはは。

introduction

1990年代末頃からの音楽におけるエイティーズ・リヴァイヴァルからしばらく間を置いて、2000年代後半からイラストレーションにも本格的にエイティーズの波がやってきた。しかしよく考えればこれは異例である。たとえば横尾忠則や宇野亜喜良らに代表される1960年代のイラストレーターが起用されることはあっても、1960年代“風”の絵柄を持つ新しいイラストレーターたちが一つの潮流として表舞台に登場したことは──林静一を参照した中村佑介のようないくつかの単発の例を除いて──これまでほとんどないはずだ。それは1970年代風の、1990年代風の、と置き換えても同様で、ある時代に培われたテイストが他の時代の若者らによって再現されることは、ことイラストレーションの世界においてはほとんどなかったのである。それだけにエイティーズ感覚を吸収して自作に取り入れる若手イラストレーターが増加している現状は、1980年代のイラストレーションが特別な固有性を持つことの裏付けといえるだろう。

だが同時に注意してほしいのは、1980年代のイラストといって連想する二大潮流、「ヘタうま」と「スーパーリアル・イラストレーション」が復興しているのではない。現代の参照先の中心は「キャラクター」と「アニメ絵」にある。とくにサンリオや宮尾怜衣などによるキャラクター、魔女っ子や少女漫画原作のアニメといった、女の子がメインターゲットの作品だ。

なぜキャラクターとアニメ絵なのかを推測するに、1980年代の両者に共通する線の均質さと色のシンプルさが挙げられる。キャラクターは商品展開を目的とするため、またアニメ絵は動画枚数が何枚も必要となるために、不特定多数の人間が描いても同一品質になるよう工程が簡素化されている。個人差が出やすい線は、筆圧の影響を受けづらいミリペンのような道具で引き、色の選択は個性より再現性を重視し、印刷ムラの少ない原色や、白の増減という単純な配合で可能なパステルカラーになり、塗り方はフラットか機械的なグラデーションが選ばれやすい。イラストレーションの技法にこうした暗黙のルールが存在することで、線や色による時代感覚の再現性が他のディケイドと比べて高いのではないだろうか。

しかし、エイティーズ風に描けることと、エイティーズ風のイラストが公に広まることは、本来は別の出来事のはずで、ここではさらにインターネットの影響を考慮すべきだろう。通信費を除けばほぼ無料で、国境をこえて自由に発表できる場の登場によって、作品の流通経路は20世紀から大きく変容した。描き手が自分の好きな表現を不特定多数に問い、その表現を面白がる受け手が一定数いればそのまま広まっていく。このかんたんな流通が20世紀までは困難だった。これまでにない革新性、見たことのない新鮮さ、そういった部分に評価が集まるプロ志向の審査制度の限界とまではいわないが、オルタナティヴな流通が示されたことで、一見どこかで見たことのある気がするエイティーズ風イラストにもスポットライトが当るようになった側面はあるだろう。

もちろん彼・彼女らはエイティーズの完全再現を目論んでいるのではない。手癖の残る記号的すぎない表情を絵のどこかしらに加えることで、いかにも1980年代にありそうだとしても実際の1980年代には存在しない独自のイラストレーションを生み出す。こうした既視感の操作によって逆に未視感を煽る手腕が、現代のエイティーズ風イラストレーターに共通したセンスであり、新作に旧作のヴァリエーションを期待されてしまうオリジナル・エイティーズとの相違点だろう。

今回登場する作家たちを特集することは、日本のイラストレーションに起きた変化の特集にもなるはずだ。その変化が大きなものか小さなものかは、まだわからない。ひとつ言えるのは、その変化はすでに起きたということである。

エイティーズ・リヴァイヴァルとはなにか

〈僕は若いし、オリジナルの80sエレクトロ・ポップ・ミュージックが流行っていた頃なんて知らないから、僕はそういう音楽をすごく新鮮な気分で聴いてるんだ〉(Les Rythmes Digitales、『SNOOZER』1999年6月号)

これまで様々な場面で幾度となく「80年代/エイティーズ」再評価は行われてきた。ただ、その内容を考えるとその時々で少しずつ違っていたように思う。たとえば取り上げ方は「80年代に青春をすごした人による80年代の再解釈」と「80年代を知らない世代による80年代の発見」の2つに分けられ、さらに取り上げられる対象は「80年代当時の人気作品」「80年代当時の知られざる作品」「80年代を参照した現代の作品」の3つに分類できる。今回『アイデア』が特集を組むのは「80年代を知らない世代による80年代の発見」として「80年代を参照した現代の作品」が増加傾向にある現状を反映してのことだろう。本稿では80年代再評価の歴史を辿ることで、なぜ現代にエイティーズ感覚の作品が生まれ続けるのかを考察したい。

音楽における80年代再評価前夜

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