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Lido Community Staking : リワードとペナルティについて

*この記事は2024年2月に公開されたLidoのブログ記事「Lido Community Staking: Rewards & Penalties」に適宜説明を加えながら日本語に翻訳し、再編集したものです。
参考

コミュニティ・ステーキング・モジュール(以下、CSM)に関するシリーズの第三回目のブログでは、CSM内およびモジュール間のリワード分配の詳細と、MEV盗難に対処するための戦略について掘り下げています。前回のパートについては以下のリストを参照してください。

  1. 概要:https://note.com/buythedipams/n/nf4c9afac33d3

  2. ボンディング(担保):https://note.com/buythedipams/n/n8bb64fb1551e

  3. 報酬とペナルティ:本記事

  4. ステークの配分とバリデーターの終了:https://note.com/buythedipams/n/n87ef46e81c9b

リワードとは?

Ethereum上でバリデータを運用する際、オペレータは二種類のリワードを受け取ります。一つ目はエグゼキューションレイヤー(EL)リワードで、ガス代やブロック生成によって得られる可能性のあるMEVリワードを含みます。二つ目はコンセンサスレイヤー(CL)リワードで、バリデータがアテステーション、ブロック承認、ブロック提案などのCLタスクを正しく実行することで受け取るリワードです。

CSMオペレータがLidoプロトコルを使用してバリデータを運用すると、二種類のリワードを得ます。

1. ノードオペレータリワード(Node Operator rewards):Lidoプロトコル全体のリワードの一部から提供される(オペレータ各人のアクティブバリデータ数がLido全体に占める割合に応じて、モジュール固有のオペレータリワードシェア変数によって乗算される)。
2. ボンドリワード(Bond rebase):ボンドされたトークンから生成されるステーキングリワード。

次のセクションでは、バリデータリワードについて説明します。

出典:blog.lido.fi

CSMを通したノード運用では、Lidoからノード運用を委託されたステーキングのプロ(Curated)とステーキングリワードが連携されます。これらのプロが実現するステーキングリワードは個人でステーキングを行うソロ・ステーキングに比して利回りが大きくなりがちで、こうしたプレーヤーがCSM全体の利回りを底上げしてくれるのも本モジュールの魅力のひとつです。例えば、各ブロック(約12秒に1回)の中に格納される取引情報(トランザクション)を処理するとELリワードがもらえるのですが、この処理者は確率論で選ばれます。つまり、より多くのバリデータを運用しているノードオペレータの方がこの処理を担当できる可能性が上がり、結果として運用収益が高まりやすいです。この観点は本稿後半で掘り下げます。なお、ノードオペレータリワードは特定の条件を満たすことができないと提供されません。具体的には、次の章とその次の章で詳細を解説します。

他方、ボンドリワードに関しては、、自身が担保として預け入れたETHに応じ、運用するバリデータのパフォーマンスに関わらず受け取れるリワードです。これは、LidoにETHを預け入れた際の顧客と同じ要領で還付されます。

担保金に関する記事で述べたように、CSMを用いてバリデータを運用するためには、ノード運用の潜在的なリスクをヘッジするためにETHを担保として預け入れます。この時預け入れたETHは、LidoでETHをステーキングする際の預かり証トークンであるstETHの形で残高が管理されます。stETHはリベーストークンと言って、自動的に残高が変動する仕組みになっています。stETHの残高はLidoに関連するバリデータからのCLリワードやブロックプロポーザルの当選時に増加します。CSMに用いる担保金のETHをLidoにステークさせることで(つまり、CSM参加者のETHは他のノードオペレータが運用します)、自身のETHがstETHに交換されます。その結果、担保のETHはLidoでETHをステークしている状態となり、担保からもステーキング報酬を受け取ることができます。

https://operatorportal.lido.fi/

Lidoのオペレータポータルの展開されていた図が分かりやすかったのでこちらにも貼っておきます。端的に言えばボンド(担保)のETHを用いて2種類のリワードを受け取るのがCSMです。

  • ボンドリワード:LidoにETHを預け入れることでもらえるリワード。仕組み上は一般のETH保有者がLidoにETHを預け入れて利回りをもらうことと同様の報酬体系。

  • ノードオペレータリワード:バリデータ運用の成果としてもらえるリワードで、パフォーマンスによる足切り(しきい値を下回ったバリデータにはリワードが還付されない)が存在。CSMだからもらえるユニークなリワード。

と場合分けすると分かりやすいです。

リワードを平均化する

出典:blog.lido.fi

ステーキングルータのアーキテクチャの下では、複数のモジュールが存在し、それぞれ異なるバリデータのサブセットを登録しているため、パフォーマンスレベルも異なる可能性があります。例えば、Curated Moduleは通常、ビジネスとしてバリデートを行うキュレーションされたオペレーターを持つため、CSMよりも高いパフォーマンスを期待され、コンセンサスレイヤーの報酬に大きく貢献します。逆に、パフォーマンスが低いモジュールは少ない額のリワードを生成する可能性があります。

Lido内のバリデータ間におけるリワードの格差を最小限に抑えるために、ステーキングルータはリワードを平均化しています。これは、各モジュールのアクティブバリデータ数を考慮して、異なるモジュール間をまたいででリワードを平均化することを意味します。

エグゼキューションレイヤー(EL)報酬に関しては、CSMのオペレーター各位が低いMEVボーナスでブロックを生成することや、半年に一度しかブロックを提案できないことを心配する必要はありません。EL報酬はプロトコル全体の報酬平準化メカニズムの一部であり、この機能により報酬の変動が少なく、予想される平均値に近いものとなります。

出典:blog.lido.fi

先述の通り、ELリワードからの収益はCuratedステーカーとそれ以外で大きく乖離する可能性が想定されています。その理由は、ELリワードとはいわば宝くじのようなものでより多くのバリデータを運用していれば(より多くの宝くじを保有していれば)当選確率が上がる仕組みになっているからです。Ethereumでは約12秒でブロックが提案されます。自分が提案したブロックが承認された場合、そのブロックに格納されるトランザクションを処理し、それらトランザクションに含まれるガス代から収益を上げるのがELリワードです。また、トランザクションの順序を並べ替える(ガス代が高いものを優先的に処理する)ことでELリワードを最大化することをMEV Boostと呼びます。validatorqueue.comを参照すると、2024年7月時点でEthereumのバリデータ総数は約104万台となっており、これらのバリデータが12秒おきにブロックの提案を争っているわけで、抽選に参加している母数が非常に大きいです。この状況下で、Curatedステーカーは最低でも約8,700台のバリデータを運用しているため、ELリワードの当選確率は上昇することになります。

CSMの参加者は、CuratedステーカーにELリワードの高い収益率を維持してもらいながら、アテステーションをはじめとするCLタスクに集中するだけでソロ・ステーキングに比して大きな利回りの還付を受けることができます。

リワードの平等配布

CSM内のもう一つの革新的な機能は、パフォーマンスしきい値(Performance Threshold)を使用したリワードの平等配布です。一定期間(frame)ごとに、パフォーマンスが一定のしきい値を超えたバリデータに限り、CSMが受け取った報酬をアクティブバリデータの割合に基づいて分配します。

一方、パフォーマンスがしきい値を下回ったバリデータは、該当フレームでは報酬を受け取れません。

出典:blog.lido.fi
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パフォーマンスしきい値についてはLidoオペレータポータルの画像を用いて解説します。Lido CSMでは専用のオラクルを用いて各バリデータのパフォーマンスを計測しています。この文脈でのパフォーマンスとは、アテステーション率を想定しています。アテステーション率とは、特定の期間(frame)における全アテステーション機会のうち、該当のバリデータは何%正しく参与できたかを示す値です。上記の図では、5台のバリデータを運用する個人の各バリデータのアテステーション率で棒グラフが描画されています。この時、バリデータ4番がアテステーション率のしきい値を下回っています。従ってこのノードオペレータは1番から3番と5番のバリデータに限りノードオペレータリワードを受け取ります。ただし、4番を含むすべてのバリデータはボンドリワードを受け取ることができます。

出典:blog.lido.fi

最も重要なのは、CSMはコミュニティ・ステーカー向けに設計されているため、インターネットや電力の障害などの要因による短期的なパフォーマンス低下が原因でノードオペレータの報酬が減少しないように、リワードとペナルティの設計に余地を持たせていることです。また、「パフォーマンスの悪い」バリデータに対しノードオペレータリワードを提供しないようにメカニズムを組んだことで、CSMに参加しているのにバリデータを運用しないフリーライディング行動や不適切なバリデータ運用を抑止します。

この報酬設計はまだ議論中であり、具体的なしきい値もまだ決定されていません。フォーラムでの提案に関するアイデアや意見を自由に共有してください。

出典:blog.lido.fi

インターネット障害や電力問題が発生し自身のバリデータがオンラインにならなくとも、それが一時的であれば、Curatedステーカーや他のCSM利用者が実現したノード運用のパフォーマンスが平等配布されることで収益を確保できます。他方、従来のソロ・ステーキングでは、自分のバリデータがオフラインになっても利回りをけん引してくれるプレーヤーが他にいないため、オフラインの期間は収益を上げることができなくなります。この問題をアテステーションミスと言います。

ただし、数日以上に渡りアテステーションミスを継続してしまうとCSMから強制的に退場させられることになるので注意が必要です。ただし、アテステーション率は正しいセットアップを通して安定化させることができるのでハードウェアやネットワーク回線を含む準備が大切になってきます。

ペナルティとMEV盗難

前の記事で、バリデータのETH残高が引き出し時に初期の預け入れ額を下回る場合や、MEV報酬の流用が発覚した場合、ノードオペレータのボンドにペナルティが科されることを述べました。

バリデータの残高の確認はオンチェーン上でも簡単に行えますが、MEV盗難の検出はブロック構築の手法が多様化していたり、そもそもすべてのMEV事案を考慮することの難しさから一筋縄ではいきません。

現在、LidoではMEVの監視デザインを設計しており、MEV盗難が検出された場合は、CSM委員会(CSM committee)を設置して一時的に該当のボンドを凍結することが提案されています。実際のペナルティはオンチェーンガバナンス(Easy Track)を通じて実施されます。

提案されたアプローチが最適でない可能性があるため、MEV盗難監視と緩和の代替案についてコミュニティのフィードバックを求めています。

出典:blog.lido.fi

MEV盗難とは、文字通りMEVを盗んでしまうことです。MEVリワードはELリワードに含まれるため、ノードオペレータリワードとなります。つまりブロックを提案したノードオペレータが一旦LidoにMEVリワードを送り付け、その収益をLido内で分配するのが元来の筋です。ただし、生成したMEV報酬があまりにも大きければ、一部の悪意あるノードオペレータがお金に目をくらませてMEVリワードを自身指定する任意のアドレスへ送りつけてしまう可能性も否定できません。Lido含むステーキングプロトコルでは、このような事態を厳しく罰しています。

MEV窃盗は疑いのあるトランザクションが検知されてから実際に窃盗が行われたのかはオンチェーン上で確認できません。そのため、疑わしいノードオペレータの担保は一時的に凍結されてます。その後、エコシステムの委員会による判決を待って、ペナルティの必要があれば担保が没収されます。

(付)さらなる理解のために


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