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管理職か専門職のみでよいのか  ~「滞留職」の提案~

0 はじめに


 「管理職か、専門職か」
 社内のキャリアパスとして、従来は管理職のみの「単線型」から、管理職と専門職の「複線型」に移行したという話をよく聞くようになりました。
 誰もが管理職になれるわけでもないし、そもそもマネジメントに向かない人もいる。また、会社としては、部下なしの「担当課長」といった管理職待遇の社員を抱える余裕もない。さらに、人手不足が強まる中で誰もが会社の戦力になってほしい。ゆえに、専門職というコースを用意して、管理職になれない(ならない)人はそちらを目指してほしい・・・。
 一見すると、上記は理解できる論理に見えます。ただ、本当にそれでいいのでしょうか。こちらでは、管理職と専門職の複線型のキャリアパスについて、個人的な考察を書いていきたいと思います(あくまで、データに基づかない一個人の考察です)。
 


1 選択肢が増えることには賛成


 個人的には、管理職のみの単線型に比べれば、複線型のキャリアパスの方が望ましいと感じています。
 「はじめに」で書いたとおり、誰もが管理職に向くわけではないため個人にとっては選択肢が多い方がよい。また、管理職に向かない社員でも専門職としてなら適性があるかもしれないため、適材適所という意味では会社にとっても悪くない話です。
 単線型の会社が「実力主義」と称してポストで処遇しようとすると、優れたプレーヤーを管理職に昇進させるということに繋がります。本来、優れたプレーヤーが向く可能性が高いのは管理職ではなく専門職のはず。昇進させた社員が管理職としても優れているというのであれば問題ありませんが、管理職の適性がなければ悲劇です。なぜなら、会社は優れたプレーヤーと引き換えに劣った管理職を得ることになり、本人は向かない管理業務に従事するのですから・・・。
 一方、複線型であればポストでの処遇が格段にやりやすくはなります。個人としての実績は抜群でも後輩の育成を苦手とするAさんは専門職、実績は平凡でもチームのまとめ役を果たしているBさんは管理職といったキャリアパスを描けるからです。
 

2 (余談)実績への処遇は何ですべきか


 個人の実績に対する会社の処遇としては昇進、昇給、賞与の3つ。このうち、少なくとも短期の実績は賞与で報いるべきと考えます。周囲の環境や前任者の用意など、短期の実績は本人の能力以外にも左右されます。ポスト(昇進)と給与(昇給)は上げてしまえば下げるのは容易ではありません。一方、実績を上げたにも関わらず何らの処遇がないのでは社員は不満を抱くでしょう。ゆえに、1回限りの賞与で処遇すべきというのが個人的な意見です。
 

3 「管理職」と「専門職」の2つの線のみでよいのか


 ざっと見たところ、専門職のキャリアパスを設けることはよいことに思えます。ただ、それだけでは不足というのが個人的な意見です。
 1で書いた「個人としての実績は抜群でも後輩の育成を苦手とするAさんは専門職、実績は平凡でもチームのまとめ役を果たしているBさんは管理職」というのは悪くはないですが、落とし穴があります。例えば、「個人としての実績には波があり、後輩育成やチームのまとめ役はしたくないCさん」がいたらどう処遇すべきでしょうか。
 管理職と同じく、誰もが何らかの専門性を持つことに向くわけではありません。また、「ずっと携わりたい」という分野を見つけられるとも限りません。加えて、その専門性は会社にとって有益なものでなければならない。個人が好きなことを極めればよいわけではなく、例えば、銀行に管理栄養士がいても業務とさほど関連はないでしょうし、スマホで議事録が取れるこの時代に速記ができても活躍できる場面は少ないでしょう。
 会社にとって有益であるという前提がある以上、専門とする分野は一定程度、会社側が指定することとなると思われます。ただ、会社がある程度指定しても、専門性の選択を社員の自由意思に任せれば、広報やマーケティングなどのいわゆる「花形」「人気部門」を専門として選択する社員が多くなることが予想できます。この場合、会社としては人気部門であっても必要な社員数は決まっており「ダブり」「余り」が生じることになります。他方、会社側で各社員の専門性を指定する場合、本人の意思とのマッチングが難しく、モチベーションの低下に繋がりかねません(加えて、人事部門に各社員のマッチング作業という膨大な負荷をかけることにもなります)。
 また、社会の変化によりかつては必要であった専門職が不要となることは大いにあり得る話で前述の速記などは典型例でしょう。
 つまり、管理職に加えて専門職というキャリアパスを設けても全ての社員をどちらかに分けることも難しく、分けたからといって戦力化するのも難しいという結論に至ります。
 

4 「滞留職」があってもよいのでは


 前提を覆すことになりますが、管理職と専門職に完全に分けることができないなら、分ける必要はないと思います。つまり、どちらにも分岐しない、分岐の前の状態で留まり続ける「滞留職」がいてもよいのではないでしょうか。
 「社員の戦力化」といっても、あくまで「給与相応(以上)の貢献」を求めているという前提があり、いわゆる「働かないおじさん(おばさん)」は年功序列で上がった給与に対して貢献が少ないがゆえに批判されているというものです。
 であれば、「滞留職」の給与は一定程度で頭打ちになるであれば批判は小さいのではないでしょうか。管理職か(会社の認める)専門職にならない限り給与は上がらないというものです。
 「マネジメントもせず、専門性を身に着けずとも働き続けられる」とは一見すれば、選択を先延ばししたい社員にとってよい制度のように見えます。ただ、実態はそうではありません。これまで通り会社の人事権に服して「やれと言われたことをやっている」にもかかわらず、定期昇給がなくなるからです。
 また、「花形」「人気部門」に専門職が集まるということは、「滞留職」が配属されるのは不人気部門である可能性が高いです。「行けと言われたところにいったら楽しくはないし、給与も上がらない」となれば一概に社員にいい制度とは言えません。ただ、誰もが管理職や専門職に向くわけでもない以上、強引な二者択一を迫るよりは、第三の消極的な選択肢を取り得るのは社員にとって悪くはないはずです。
 なお、「花形」「人気部門」の専門職が必要数以上にいる場合については、専門性(能力)の高い社員から定員を埋めていき、定員外の能力が劣る社員については「滞留職」扱いとなります。人気部門を選ぶ以上、競争にさらされるという形になります。
 

5 まとめ


 今回は「管理職か、専門職か」の二分化に違和感があり、「滞留職」を提案させてもらいました。
「マネジメントもせず、専門性を身に着けずとも働き続けられる」し「給与も上がっていく」というのは、昨今の「働かないおじさん(おばさん)」に対するバッシングや人手不足の深刻化を見る限り難しいでしょう。ただ、全社員を戦力化すべく「管理職」と「専門職」のどちらかに振り分けるのはやや非現実的ではないかと感じています。
であれば、「これまで通りでもいいけど、給与は上がらないよ」という選択肢を提示する方が現実的ではないかと思い、このような記事を書かせてもらいました。
思いつき程度のものですが、ご覧いただきありがとうございました。

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