友達をやめたいと言われたこと。

私は友達がいない、と思っている。
年を重ねるにつれて、どんどん少なくなっている気がする。
きっと19歳の、大学1年生の終わりのときに「友達」から言われた一言が、私を狂わせた。 

大学で出会った彼は1歳年上だった。
顔もスタイルもアイドルのようで、しっかりものだった。ちょっと乙女な一面も「かわいいね〜」とみんな言っていた。
彼とはほかの友達も交えて一緒に授業を受けたり食事をしたり、遊びに行ったりした。大学の友達のなかで僕は彼と一番親しい関係を築いていた。
お互いの好きな人の話なんかもした。
彼はいつも「僕の片思いは一生かなうことがない」と寂しそうにいった。好きな人が亡くなったのか、すでに結婚しているのか、二次元なのか…事情はわからないけど深くは聞かなかった。そんな彼がある日「これからも友達でいてほしい君には僕の好きな人を知っていてほしい」とメールがきた。 

こわい、と思った。 

でも、友達でいてほしいから知ってほしいという、なにか特別な感じが少し嬉しかった。そして彼は「どんな理由でも、僕のこと嫌いにならない?」と聞いた。 

「わからない。でも、君は僕の大切な友達で、これからもそうありたいよ」と返した。 

彼から届いたメールをすぐには理解できなかった。
届いたメールは、彼の好きな人の名前がカタカナで書かれていた。
その名前は、僕の知っている、いつも一緒に授業を受けている男友達だった。
そして、自分はバイだと書いていた。
友達でいたいから、自分の好きな人と自分の性的趣向を友達の僕に知っていてほしいと彼は言った。
田舎から都会にきた当時の僕は、バイの意味がわからなかった。
インターネットで検索して、正直驚いた。すぐに返信していたメールがここで途切れるのはいけないと思い、ひとまず「ゆっくり返事させて」と送った。 

僕は彼がLGBTでもそんなの関係なくずっと友達だよ、ただ、いまの好きな人とのこれからについても、話を聞くことしかできないかもしれないなど正直に気持ちを伝えた。彼は「ずっと隠してきた人生だったけど、君とはずっと友達でいたいから話した。ありがとう」と言ってくれた。 

彼は以前、好きな人(以後A)に気持ちを伝え、断られたらしい。Aから「恋愛関係にはなれないけど、大切な友達だよ」と言われて嬉しかったと話してくれた。みんな優しい。私は友人とAの関係を何も知らないフリをして、友人とAと3人で授業や昼食を共にすることもあった。二人っきりがいいかなと席を外そうとしたら「いてほしい」と友人に言われた。少し複雑だった。 

状況が変わったのが、大学1年生終わりの春休み。
友人とAの3人で温泉旅行に行こうということになった。僕とAは地方出身で、いろんなところへ出かけたかったから楽しみにしていた。
旅慣れている友人が宿から交通手段を手配してくれた。僕は複雑な気持ちもあったけど、友達との旅行を楽しもうと気持ちを作っていた。
旅行前に友人から相談を受けた。
・電車はAと隣の席に座りたい
・2:1になるときは、僕が1のほうになってほしい
全部要求を飲んだ。好きな人のそばにいたいのはみんな同じだから。
電車と住んでいる場所の関係で、僕とAが一緒に特急の停まる駅に移動した。先についていた友人は朝からハイテンション。Aは早起きが苦手で眠そうにしていた。
そんなAの様子を見た友人の態度が急変した。
友人から渡された切符の席を確認すると、一人席になる僕のところに友人がいて、僕とAが隣同士の席だった。Aはなにも事情をしらないので、僕がこっそり「席これでいいの?」と友人に聞くと「一人になりたい」と言った。
そのまま彼はiPodで音楽を聞き、眠り始めた。僕とAは「なんか悪いことしたかな?」と困惑した。 

温泉に入るときも彼は一人で行動して、僕とAは一緒にいた。すごく重たい空気が流れていた。
食事のときも僕とAが話しかけても反応が薄い。どうすることもできなくて、Aと二人で話していると、友人が口を開いた。
「二人とも、楽しくないんでしょ?」我々は耳を疑った。
聞くところによると、朝一のAの反応がイマイチで、本当は生きたくないのに無理して旅行に付き合っているんだと友人は感じたらしい。だから、移動も話さない、温泉も一人で行動するようにしていたらしい。
Aが「朝は苦手だから・・・ごめん。そんなつもりなかった」というと、友人は「謝らせるつもりはなかった。ごめん」と泣き出した。 

それからは、友人がAに対して思っていることを一気に吐き出した。
彼は、Aが秘密主義なのがつらいと言った。好きな人が誰か教えてほしい、休みの日は何しているか教えてほしい、電話に出てくれない理由を教えてほしいなど。
「友達だったらなんでも話してよ!」が彼の考えだった。
Aは「隠し事をしているわけではない。ただ、大切な友達だからこそ言えないこともあるんだよ」と言った。私もAに同意した。
友人は泣いた。「いま、大切な友達って言った?」と。
その日の夜、友人はmixiの日記に「大好き」とかいて公開した。 

翌日、和解したつもりだったが友人はまた不機嫌になっていた。
「今日は話しかけないで。近寄らないで」とまで言われた。
仕方なく僕はAと二人で電車の時間まで観光した。友人は、他人のふりをしながら僕らと同じところにいた。
帰りの電車は僕と友人が隣だった。
隣にいる友人からメールがきた。「僕のmixiの日記を見て」と。
内容は「僕の恋は終わりました。きょう、この瞬間に。永遠にさようなら」と書いていた。
「見たよ。」と直接伝えると「そういうことだから。」と彼は言って、そのまま最寄駅で電車をおりた。 

家に帰って友人にメールした。
旅行の段取りありがとう。俺もAも楽しかったし、感謝してるよ。春休み、時間あったらまた遊ぼうね。 

メールがきた。
「内容は二人が楽しそうな姿をみるのがしんどい。つらい。僕の気持ち考えてよ。」
そして最後はこう書いていた。
「君とはもう会いたくない。友達やめたい」 

僕はすごくショックだった。悲しみと怒りが両方込み上げてきた。
でも、忘れることにした。
「わかった。さようなら。」
翌日から実家に帰省することにしていたから、忘れることにした。こんなドロドロした気持ちはここに置いていきたかった。 

翌日、電車のなかでいるときに友人から鬼電がきた。
実家に帰る移動中で電話には出られないとメールすると、「友達やめたくない」と返事がきた。
でも、僕は正直疲れていた。温泉旅行で振り回されたのがストレスだった。
「今は何も考えたくない。友達やめたいとかやめたくないとか、ちょっと今は整理できない。地元に帰っている間はこのこと思い出したくない」と言ったら「また帰ってきたら連絡してほしい。話したい」と言われた。 

でも僕は連絡をしなかった。
厳密に言うと、ガイダンスのための登校日前日の夜に戻ったから、明日学校で会うからいいかなと思っていた。
翌日の学校で、僕は成績優秀者として表彰された。
その後友人からメールがきた。
「表彰おめでとう。でも、連絡くれるって言ったのにくれなかったね。嘘をつく人とは友達になりたくありません。2度と話しかけないでください。」 

私はキレた。狂った。 

それから友達がわからなくなった。
月曜日の3限目に一緒に授業を受ける子
中国語のクラスが同じ子
実習で同じグループの子
彼らと遊んだりするときも「友達と出かける」ではなく「チャイ語のクラスの子」という言い方をするようになった。 

自分が傷つかないために「友達」という言葉を避けている。
「友達がいない」といえば、もし親しい人が離れていっても元からいないことにしているから関係ない 

齢30。私は、友達がほしい。

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