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桜咲く季節にSMをみてお花見をする

はじめに

2023年4月1日。
しばらくすっきりしない天気の日が続いたが、この日は見事な晴天。気持ちのいいさわやかな春空。幸いにも桜は散りきらず、絶好のお花見日和。そんな清々しい日に用があるのは桜並木の広場ではなく、池袋某所の地下の薄暗い空間である。
夢か現実かわからない、幻想夜会。長門実愛女王様が主催する、SMショーのイベントである。
わたしはSM落語での出演が決まっていた。会場に到着すると、主催や他の出演者は既に揃っていた。お祭りが始まる前の、なんとなくそわそわして、わくわくするような独特の空気が充満していた。プロの料理人が軽食の準備に追われており、すでに美味しそうな香りも漂ってくる。
程なくして開場すると、ぽつりぽつりとお客様が来はじめ、受付を済ませて席に向かう。30名ほどでいっぱいになる小ぢんまりとした会場である。
あらかた入場が終わると、簡単な出演者紹介がはじまる。

・レズSMショー
青女王様&らんちゃん

・SM落語

・レズSM鞭ショー
長門実愛女王様&ゆきちゃん

・緊縛体験
蓮華様

みんなそれぞれ自分の強みを活かした内容となっている。出演者紹介が終わると会場の照明が落とされ、集団催眠へとうつってゆく。

集団催眠

ペンライトを持った実愛さんが、ステージ正面に立つ。しんとした会場に、鈴の音ように心地のよい声が響く。

「皆さまこのライトをじーっとみつめてください……」

そう、本日のショーは夢うつつ。来場者全員で不思議な催眠の世界へゆったりと落ちてゆく……

ふわふわした感覚を残して、会場の明かりがつくと、しばし歓談のひととき。美味しい軽食を食べたり、演者は来場者とお話したり、自分の演目を復習したり。緊縛体験の蓮華さんは、早速お馴染みのお客さんを縛り始めている。あたたかで良い空気。
わたしは自分の出番が終わるまで食事は我慢しようと思っていたが、結局ぜんぜん我慢出来なかった。献立は甘口のカレーライスとどこか懐かしい味のナポリタン。「ちょっとだけ食べます、ちょっとだけ……」と言いながらも正直な身体はなかなかの量をお皿に盛り付けていたのであった。これも催眠の力か。


レズSMショー


そうこうしているとショーの時間である。青女王様とらんちゃんのレズSMショー。衣装は色違いのお揃い。青とピンクのコントラストが可愛らしい。それぞれ片手にロングの黒手袋をしている。ふたりとも人前でSMショーをするのは初めてだそう。何となく硬い表情で、ステージ中央で必要な道具を並べてゆく。
キラキラした音楽が流れ始めると、それを合図に後手をとり、青女王様がらんちゃんを縛り上げてゆく。後ろからグッと抱きしめるように首をしめる。らんちゃんの美しい首筋が露わになり、「ゥグッ」と苦しそうな声が漏れる。
青女王様がらんちゃんの後手の縄を解き、正面に移動して手を取る。ポニーテールに結っていた自分の青いリボンでその手を前で縛り直す。そうして、桜形のパドル、青い革のパドル、ラバーパドル、竹鞭などくるくる持ち替えて、らんちゃんの太ももに、おしりにつぎつぎ打ちこんでゆく。打ち込まれるたびに、らんちゃんの嬌声が響く。はだけたシルクのシュミーズから覗く美しい太ももは、満開の桜形に彩られている。
パドルをらんちゃんに噛ませて、渾身の腹パン。くぐもった声がして、崩れ落ちるらんちゃん。パドルは口から落ちてしまうが、また咥えさせる。また腹パン。容赦のない責めが続く。
やがてBGMの曲調が変わり、青女王様はらんちゃんの縄を解いてゆく。そうして最後に、サプライズで青女王様がらんちゃんへのお誕生日プレゼントを渡して終了。
初めてとは思えない堂々としたショーに、会場全体が釘付けになっていた。痛いこと苦しいことをしているのに、ふたりの絆と愛を強く感じた。


SM落語

その後はSM落語の出番である。わたしは先ほどの青女王様とらんちゃんの熱気にやられ、ガチガチに緊張していた。来場者にプロの整体師がいたのだが、遠目に見てもわたしがヤバすぎたのか、声をかけにきてくれた。力の抜き方を教えていただいた。それでもどうにもならず、目の前にいた青さんに「すみません殴ってください」と今後一生言うことがないであろうセリフを言って両頬を張っていただいた。プロだった。脳が揺れた。

ステージの中央に腰をおろすと一気に緊張が高まる。用意してきたカンペも意味をなさず、マクラ(落語に入る前の導入のための雑談)もしどろもどろであった。しかし入ってしまえば何とかなるものである。勢いで駆け抜けるようにさらさら言葉が出てきた。古典落語をSM倶楽部の待機所を舞台に改変した内容であったが、まずまずのウケで救われた想いがした。あまり記憶が無い。


レズSM鞭ショー

その後、実愛女王様とゆきちゃんのレズSM鞭ショー。BGMなしの、ピリリとした空間。緊張したゆきちゃんを縄で拘束し、まずは立ったまま一本鞭が入る。静かな会場に鞭の音と、ゆきちゃんのか細い声が染み入るみたいに響く。その後、ゆきちゃんはうつ伏せに倒され、さらに鞭が打たれてゆく。美しいフォームで、的確に、気持ちの良いタイミングで鞭が入る。ゆきちゃんの声もだんだんと大きくなってゆく。鞭が入る度に、身体がはねる。気持ちよさに、ふるえる。

「うふふ、こんなに柔らかいところを……可哀想に……」

楽しそうな実愛女王様の声と、鞭の音と、気持ちよさそうなゆきちゃんの声が、しんとした会場に重なって響いてゆく。キメ細やかで美しい、ゆきちゃんの雪のように白い肌が、遠目にも赤くなっているのがみえる。
実愛女王様は一本鞭、バラ鞭、ステッキを持ち替えながら、凛として、それでいてとても楽しそうに、ゆきちゃんに打ち込んでゆく。ゆきちゃんはそれに応えるように、全身を震わせて、実愛女王様の愛を受け取る。永遠にも思われるような時間。
どれくらい時間が経ったかわからない。気づくと実愛女王様が、ふらふらのゆきちゃんを支えて立ち上がらせた。

「これでわたしたちのショーは終わりです。」

会場は割れんばかりの拍手喝采だった。


おわりに

最後に全員が簡単に挨拶をしてお開きとなった。来場者の方々もとてもあたたかい人ばかりで、たくさんの方に「良かったよー」とお声をかけていただいた。遠方からはるばる駆けつけてくださった方もいた。

わたし自身、こういったショーに出演するのは初めての経験で、前日まではプレッシャーのあまり陰鬱な日々を送っていた。しかし喉元過ぎればというやつである。なんだか練習の日々までもキラキラして、素敵なことだったように思えてくる。

最後に、色々とトラブルもありましたが、駆けつけてくださった来場者の皆さま、いつも美味しい食事を作ってくださるプロの料理人、お手伝いをしてくださった方々、演者の皆さま、そして主催の長門実愛女王様に、厚く御礼申し上げます。そして本当にお疲れ様でした。

またどこかで。


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