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委ねる

早朝、お寺に続く山道を歩いていたら、道の端に積もった落ち葉の中に、白い小さな三角のものが見えた。
もしやと思い手に取ると、思った通り、ウラギンシジミだった。
去年の冬も別のところでこの蝶に会ったが、今日会った蝶は、脚を曲げ、動いていなかった。
でも、何か死んでしまった蝶のカサカサと軽い感じがなかったので、寒さで仮死状態になっているのかなと思い、そっと息を吹きかけてみた。

何度か、手の中の蝶を温めるつもりで息を吐きかけていると、わずかに脚が動いた。
やはり生きている!

一日中、陽のささない、森の中で、体が冷え切ってしまったようだ。

嬉しくなってしばらく温め続けていると、脚を踏ん張って手袋につかまりからだを起こした。

更に温めていると、触覚を翅の間から出して、動かしだした。

ウラギンシジミ秋型♂

そのまま両手でくるみ、時々、息を吐いて温めながら歩いた。本堂についたので、お参りの間だけ蝶のとまった手袋を脱いでベンチにおいて、戻ってみると、蝶は再び横になって、動かなくなっていた。
死んでしまったのかと、驚いてまた息を吹きかけると、しばらくして、蘇生したようで、また、脚を動かしだした。

その辺の日向に置き去りにするのは、まだ早いようだったので、手の中で温めながら山を下りた。

しばらくすると突然、手の中で、翔んだような感触があったので、手を開くと、何回か羽ばたいたが、すぐ下のアスファルトに落ちてしまった。
まだ、遠くまでは翔べないようだった。

翅の裏は真っ白

拾い上げた蝶は、陽を浴びてじっと手袋につかまっていた。

それを見て、蝶に何か委ねられている気がした。

そう思った私は、そのまま家まで連れて帰り、陽のさす温かい物干しに置いた。すると、閉じていた翅をゆっくり拡げて日光浴を始めた。

しばらくして、1階では影ができ出したので、2階の物干し場に移動した。
ここなら夕方までずっと陽があたり続ける。

1時間ほどして見に行くとまだ日光浴をしていた。
その後、もう1時間して見に行ったときにはいなくなっていた。

もう、陽のささない山の中ではなくて、春まで、晴れた日には、温かな陽のあたるところで元気に過ごしてくれるといいなと、思った。