増え鬼(ショートショート)

「鬼だ! 鬼が来たぞ!」 村人が声を上げると、その場にいた全員が血相を変えて逃げ出した。
 鬼は集団でやって来た。肌の色は真っ赤で、頭には二本のツノが生えている。
「父さん! 俺だよ、アキラだよ!」
「ダメよ近づいちゃ! もう父さんではないのよ! お願いだから戻って来て!」
 必死に訴えかける母親。しかし、子どもは父さんと呼ぶ鬼に近づいた。
「う……うおぉぉぉぉぉ!」
 子どもは鬼にタッチされると雄叫びを上げた。肌の色はみるみる赤くなり、ツノがニョキニョキと二本生え、子どもは鬼になった。
「いやあぁぁぁぁぁ!」
 発狂する母親。気が狂ったのか、鬼になった子どもに近づこうとする。それを見た他の鬼達は、一斉に母親を囲む。
「僕の後ろに隠れてください」
 僕は母親の前に立ち、手を組むと「バリア」と唱える。すると、透明な光り輝く膜に包まれた。鬼はバリアの中には入って来れない。しばらくすると、鬼は諦めたのかその場から去った。
「アキラ! アキラァァァァァ!」
 母親は子どもの名前を叫ぶと、泣きながら崩れ落ちた。家族が鬼になってしまった苦しみは、僕にもよくわかる。僕の父さんと母さんも、鬼になったのだから。
「ケイ、無事だったのね」
 妹のカホが走って来た。カホは僕にとって唯一残された家族。僕は強く抱きしめた。

 全ては、一体の鬼の出現から始まった。その鬼は襲いかかるのではなく、村人達にタッチした。すると、タッチされた村人達は次々と鬼になった。村人達は恐怖し、震える日々を過ごした。だがある日、救世主が現れた。それは「バリア」が使える、通称「選ばれし者」と呼ばれる者達だ。選ばれし者は、バリアを使い村人達を守り、鬼の増殖を防いだ。

 僕は高台に登り、村の様子を眺めていた。鬼は近くにはいないみたいだ。「ここにいたのね
 カホが後ろから話しかけてきた。
「カホ、家にいなきゃダメじゃないか」
「嫌よ。鬼が危険なのはわかるけど、ずっと家の中にいたんじゃ変になりそう。それに、ケイと一緒なら怖くないでしょ?」
 イタズラな笑みを浮かべるカホの頭を、僕はそっと撫でた。
「僕がこの世界を終わらせて、みんなで楽しく生きられる世界にしてみせる」
 僕は拳を握り、カホに向かってニコッと微笑んだ、そのときだった。
「鬼だ! 鬼が来たぞ!」
 村の方から大声が聞こえた。
「カホはここにいるんだ!」
 心配するカホをよそに、僕は村へ向かった。
 村に着くと、選ばれし者達がバリアを張って村人達を守っていた。僕もその中に加わり、一緒にバリアを貼る。が、今日の鬼は何か違う。普段ならバリアを見てすぐに去って行くのに、こちらの様子を伺っている気がした。すると、見たことのない巨大な鬼が金棒を持って現れた。巨大な鬼が金棒を振り下ろすと、バリアは木っ端微塵に砕けた。
「やめろ! 来るな!」
 村人達と選ばれし者達は、鬼にタッチされ次々と鬼になっていく。カホが心配だ。僕はカホを探して走り出す。
「助けて、ケイ!」
 カホの声が聞こえた。声のする方へ行くと、カホは鬼達に囲まれていた。しかも、金棒を持った巨大な鬼もいる。鬼がジリジリとカホに近づいていく。僕はなんとかカホのとこまで辿り着き、バリアを張った。が、巨大な鬼の金棒で砕かれてしまった。
「ちくしょう! カホだけは……カホだけはなんとしても守り抜いてやる!」
 力を込めてそう言い放った次の瞬間、体が金色に輝く光に包まれた。もしかしてこれは、スーパーバリア?
 鬼は光の眩しさに目をつぶされ逃げて行った。けど、スーパーバリアは誰も入ることのできない究極のバリア。バリアの中に入ることのできなかったカホは、鬼になった。
 数年の月日が流れた。人間は僕一人になった。僕は憔悴しきっていた。このまま生きていても悲しいだけだ、全てを終わらせよう。
僕は鬼になったカホの前でバリアを解くと、そっと触れた。そこから先の記憶はない。

 目が覚めると、父さん、母さん、カホがいた。声をかけようと近づくと、血相を変えて逃げ出した。不思議に思ったけど、真っ赤になった自分の体を見て、全てを悟った。
 今度は僕が鬼になる番か。そういえば、何度もこの世界を繰り返している気がする。


※この作品は落選作品です。
私事ですが、仕事やめれそうです。やったー

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