見出し画像

役員等賠償責任保険について改正会社法に対応した招集通知の文案を考える

改正会社法が一昨年に公布され、その施行規則が昨年11月に公布され今年の3月1日より施行されようとしています。本年の株主総会ではこの改正に対応しなければなりません。これまで下記のnoteで記載しなければならなくなった項目についてまとめましたが、今回は役員等賠償責任についてどのような文面にすればよいのかという点を考えてみたいと思います。

1 事業報告の記載

役員等賠償責任保険に加入している企業は、招集通知(広義:以下でも同様)の事業報告に記載しなければならなくなりましたので、その記載事項と文案について考えてみたいと思います。

(1)記載項目

役員等賠償責任保険に加入している場合、被保険者の範囲と当該役員等賠償責任保険の内容の概要を記載しなければなりません(会社法施行規則119条2号の2、121条の2)。

(ア) 被保険者の範囲

役員等賠償責任について記載を求める趣旨が、役員等の職務執行の適正の確保でありますところ、当該会社の役員等の中での「被保険者の範囲」を書けばよいようにも思われますが、パブコメではこれを否定し、被保険者の範囲には保険契約者である会社の役員等でない者が被保険者に含まれる場合、役員等でない者も被保険者の範囲に含む旨が回答されました。
また、被保険者の中に子会社の役員等が含まれている場合に子会社の役員等が含まれることを記載すべきとされました(パブコメ回答)。
他方、D&O保険ではSide B,Cといった会社補償等の場合に会社に保険金が支払われるオプションが商品設計上組み込まれていることが多く、このオプションを購入すると会社も被保険者となりますが、この場合が「被保険者の範囲」として記載されるべきかはまだ定かでありません。私見としては、役員等の職務執行の適正の確保の趣旨であることからしますと、経営陣の職務執行に関する損害賠償と直結しないことまで記載を求めるのは過剰ではないかと考えております。

(イ) 当該役員等賠償責任保険の内容の概要

保険内容の概要として記載すべき事項として①被保険者が保険料を負担している場合はその割合②填補対象とされる保険事故の概要③被保険者である役員等の職務執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合はその内容が挙げられます。
③については、D&O保険に免責額についての定めを設け一定額に至らない損害については填補としないこととすることや、犯罪行為その他法令違反行為や故意行為に起因する損害は填補しないこととするといったこと等が該当します。

(2)上記を踏まえた記載文案例

どのような記載になるかは入っているD&O保険の具体的な内容になりますが、参考として文案を作成してみました。

【文案】
当社は、当社及び当社の子会社の取締役、監査役及び執行役員並びにその相続人等を被保険者とする役員等賠償責任保険契約を締結しています(被保険者の範囲)。保険料は全額当社が負担しており(被保険者が保険料を負担している場合はその割合)、役員等がその職務の執行に起因して保険期間中に損害賠償請求にされた場合の損害賠償金及び争訟費用等が当該保険にて填補されます(填補対象とされる保険事故の概要)。また、当該保険契約は役員等の職務執行の適正のため免責金額が設定されておりますので、損害額のうち当該免責金額については填補されず被保険者である役員等の自己負担となります(被保険者である役員等の職務執行の適正性が損なわれないようにするための措置を講じている場合はその内容)

(3)そもそも2021年総会の招集通知に記載するか

経過措置により上記の記載対象となるのは改正会社法施行規則施行後に締結または更新されたD&O保険になります。そのため、3月決算の企業においては3月末日までに更新時期を迎えるか新規の契約をしない限り2021年総会の招集通知に書かなくてもよいこととなります。
しかしながら、更新する予定があれば、参考書類でD&O保険の内容の概要を書かなければなりませんので、今年の総会で事業報告に記載しないメリットがあまりありません。その上、株主に対し情報の開示に前向きな企業という姿勢を示すことにもなりますので、今年から記載してしまった方がよいだろうというのが私見です。

2 参考書類(役員選任議案)の記載

(1)記載項目

株主総会で役員等の選任議案を提出する場合において、その候補者を被保険者とするD&O保険を締結しているときまたはその予定があるときには、参考書類にそのD&O保険の内容の概要を記載しなければなりません(規則74条1項6号等)。その内容の概要について何を書けばよいのか、詳細は明示されておりませんが、保険における填補の対象範囲や契約期間、更新の有無といった記載をすることが想定されます。
また、参考書類のどこに記載するかという点においては、選任議案の説明における中心的な内容となるものではありませんので、注記に記載するのが適切であろうと考えております。

(2) 上記を踏まえた記載文案例

こちらも具体的な文案はどのような保険に入っているかによって変わりますが、サンプルを作成しました。また、「内容の概要」は、事業報告の記載と大部分が重複することになるであろうため、事業報告を引用する形がよいかと考えております。

【文案】
(注)当社は、●●氏を被保険者とする役員等賠償責任保険を締結しております。当該保険契約の内容の概要については事業報告●頁に記載のとおりとなります。なお、同氏が再任された場合には引き続き当該保険契約の被保険者となる予定です。当該保険契約の保険期間は●年●月●日までですが、更新することを予定しております。

3 最後に

施行規則やパブコメ等を参考に文案を作成してみましたがいかがでしょうか。まだ実務が固まる前の段階ですので、ご意見やご助言をいただけると嬉しいです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?