見出し画像

ハラスメント防止の法務

近年の法改正により、パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントのいずれにおいても使用者にハラスメント防止のための措置義務が課されました。パワハラ、マタハラはすでに施行されており、パワハラについても2020年6月と施行がまもなくに迫っています。そこで今回は、ハラスメントの法務について説明します。


1 ハラスメントって何 

ハラスメントという言葉でどんなものが浮かびますか。パワハラ、セクハラ、アカハラ、モラハラ、ロジハラ等々、ハラスメントという言葉が横行しており、キリがない状態になっています。ここでは措置義務の対象となっていますパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントについて扱います。まず、それぞれの定義を確認しましょう。


(1) ハラスメントの定義

(ア) パワーハラスメント
職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること(労働施策総合推進法(※)30の2①)を意味します。
※世の中でパワハラ防止法などと通称されているものがこちらになります。
(イ) セクシュアルハラスメント
職場において労働者の意に反する性的な言動が行われそれを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること(対価型セクハラ)、又は性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること(環境型セクハラ)をいいます(セクハラ指針)。 
(ウ) マタニティハラスメント
労働者の妊娠・出産、育児休業等の利用に対して、職場において、上司・同僚が労働者に対して行う嫌がらせや、使用者が労働者に対して行う不利益な取扱いをいいます(マタハラ指針)。
(エ) ポイント
上記の定義から職場のハラスメントの共通が要素が以下の2点であることが分かります。
・就業環境が害されることを含めた具体的な不利益がある
・不利益の原因として職場(※)における不適切な言動がある
労働者が不快に感じる言動であればすべてハラスメントであるわけではありません。私が不快に感じればなんでもアウト、というのはジャイアンの主張と何ら変わらないのですが、このような誤解をしている方が少なくないのが本当に不思議でなりません。
※「職場」とは労働者が業務を遂行する場所を指し、事業所以外も含まれます。

(2) ハラスメントという言葉に翻弄されない重要性

定義を説明しておいてなんですが、ハラスメントという言葉に囚われてもあまり意味はありません。上記の各ハラスメントの定義は会社に措置義務が課される範囲を画するだけで、実際に起きた現象の個々の重みづけの判断に資するものではないからです。
例えば、行き過ぎた指導がパワハラに該当した場合を考えてみましょう。具体的に何をしたかで下記の①~③のどれかが変わりますよね。
①企業秩序上の問題にとどまる場合(不適切であるが違法でない)。
②過剰な罵倒や人格批判してしまい民事上の違法性(民709)が問題になる。
③さらに暴行といった刑法が問題になる。
言葉は同じパワハラでも、①~③のいずれかで会社にとっての意味は大きく異なると思いませんか。
加えて、セクハラやマタハラにおいては、④違反行為が行政機関による指導・勧告・公表といった行政リスクも含みます(セクハラ:雇均30、マタハラ:育児介護56の2)。
このように、一口にハラスメントといってもリスクの種類が多様です。①<②<③④の順にリスクの質が深刻になっていきますので、ハラスメントという言葉に翻弄されず冷静に事実を把握しリスク分析をして対応していくことが企業のリスク部門に求められるのです。


2 ハラスメントへの対応

それでは職場のハラスメントに対し、会社はどのように対応すべきでしょうか。

(1) 措置義務について

パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントについてそれぞれ異なる法や行政指針でルールが作られており、それぞれ各ルールに従った対応をすることが必要になります。
しかしながら、実際のルールとしては、いずれのハラスメントにおいても要求されている内容は実質的には一緒です。〇〇ハラスメントと個別に対応するのでなく、職場のハラスメント対応として統一して以下の3点を対応することをお勧めします
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応といった措置を講じること

(2) 実際にハラスメントが発生したら   

仮に発生した場合に会社はどう対応すればよいのでしょうか。ポイントを説明します。
① 事実の調査・把握
ハラスメントはその内容次第では民事のみならず行政・刑事リスクと重大なリスクにつながることもある内容ですので、正確に事実を把握し評価して対応を決めなければなりません。
② ハラスメント該当性や対応の意思決定
事実の調査が終わりましたら、調査して得られた事実の評価とそれに基づく対応の意思決定をすることになります。
調査に対する評価として、ハラスメントに該当せず上司等加害者側に非がない状態でしたら、被害者側と加害者側に対しハラスメントに該当する内容ではない旨を伝えることになるでしょう。また、被害者側が上司等の非のない指導・言動に対し、ハラスメントを持ち出し業務遂行を怠る場合、その行動の頻度や程度によっては、人事部等から指導書を出すことも必要になってきます。
これに対し、調査に対する評価としてハラスメントに該当し加害者に非があった場合には、会社として上司に対して是正させるための対応が必要になります。軽度のものでしたら指導のみや懲戒をするにしてもけん責等軽度のものになるでしょうし、従業員の被害や企業秩序への影響が大きいものや刑事・行政上の違法である場合等には重めの懲戒、場合によっては異動といった措置の検討も必要になります。

3 先入観への注意

最近、某医大の教授が部下である准教授らから嫌がらせを受け精神疾患になったとして大学に約1100万円の支払いを求めて提訴したという事件が起きました(毎日新聞2019年10月29日号)。また、ハラスメント・ハラスメント(何でもかんでもハラスメントだと言い立てる社員の言動そのものが新たなハラスメントとなる)という問題も生まれてきています。
パワーハラスメントは上司が部下にするものであるといった先入観で思い込みを持ってしまうと上記のようなケースに対し誤った対応をしかねません
繰り返しになりますが、会社として適切に対応するために、ハラスメントという言葉やそれに伴う先入観に惑わされず冷静に事実を把握し、そのリスクを分析・評価することが肝要になります。

4 まとめ

会社は、職場のハラスメントに対し予防しまた発生したら適切に対応できるよう下記①~③の措置を行わなければなりません。実際に対応する際には、ハラスメントという言葉やそれに伴う先入観に翻弄されてはならないことを念頭に置き、冷静に事実を把握し、そのリスクを分析・評価するように進めていかなければなりません。

①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
②相談(苦情を含む。以下同じ。)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
③職場におけるハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応といった措置を講じること

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?