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令和元年改正会社法の概要~株主総会資料の電子提供制度について~

さて前回の記事では、会社法の改正内容の概要をざっくりとまとめましたが今後は、個々の論点について説明したいと思います。

まずは、株主総会資料の電子提供制度について取り上げます。

1 改正の背景と概要

(1)現行の会社法(以下「現行法」といいます。)では、株主総会の資料を株主に対して株主総会の2週間前までに書面により提供しなければならないとされており(現行法299Ⅰ、301Ⅰ)、電子提供が認められるのは例外的に株主から個別に承諾を得た場合に限られていました(現行法299Ⅲ、301Ⅱ、302Ⅱ)。
この点に対し、投資家からは株主総会資料の提供を受けてから株主総会までの期間が短いと指摘があり、また、会社にとっては株主総会資料を印刷し各株主に郵送する時間や費用等の負担であるという指摘がありました。

(2)そこで、改正会社法では、株主総会資料を自社のウェブサイト等に掲載し、当該ウェブサイトアドレス等を株主に書面で通知をすれば、株主の個別の承諾がなくとも株主総会資料を株主に適法に提供したこととする電子提供制度を新設しました(改正会社法325条の2~325条の5)。

2 株主総会資料の電子提供制度の詳細

株主総会資料の電子提供制度の詳細を、その対象・手続き・書面交付請求制度に分けて説明します。

(1)電子提供制度の対象

電子提供措置の対象となる事項は、次の資料にそれぞれ記載すべき事項となります。
・狭義の招集通知(株主総会の日時、議案等)
・株主総会参考書類
・議決権行使書面
・計算書類及び事業報告
・連結計算書類

(2)電子提供制度実施のための手続き

①導入手続き
電子提供制度を採用するためには、定款で電子提供制度を採用する旨を定めることを要します(改正会社法325の2柱書)。ただし、振替株式を発行する上場会社においては、定款に「電子提供措置をとる」旨を定めなければならず、改正会社法の施行日に当該定めを置く旨の定款変更をしたとみなされます(改正振替法159の2、整備法10Ⅱ)。
このため、上場会社は、改正会社法の施行に伴い、電子提供制度を一律に採用することを義務付けられます。

②実施手続
電子提供制度を採用した会社は、株主総会の3週間前の日または招集通知の発送日のいずれか早い日から、株主総会の日以後3か月を経過する日まで継続して、電子提供措置を行う必要があります。
なお、電子提供措置は、通常、会社のホームページ等のウェブサイトに電子提供措置の対象事項を掲載することになりますが、EDINET を使用して電子提供措置開始日までに電子提供措置の対象となる情報を含む有価証券報告書を提出すれば、これをもって電子提供がなされたものとして取り扱われます(改正会社法325 条の 3 Ⅲ)。
電子提供制度を採用した会社であっても、招集通知を株主総会を総会の日の2週間前までに提供しなければなりません。これですと、一見電子提供制度を採用する意味がないように見えますが、招集通知には以下の事項を記載すれば足りるとされ、大幅に記載が簡略になりました(改正会社法325の4Ⅱ)。
・日時及び場所
・株主総会の目的事項
・議決権行使書面を利用できる旨(電子投票を利用できる旨)
・電子提供措置を採用している旨
・有価証券報告書のEDINET開示を行ったときはその旨
・その他法務省令で定める事項(電子提供措置の対象事項を掲載しているURL等を想定)

なお、ウェブサイトのシステムの不具合などにより、株主総会参考書類等の提供を受けることができない期間が生じ、当該期間が電子提供措置開始日から株主総会の日までの期間の10分の1を超えた場合には、電子提供措置の効力が否定される可能性があります(改正会社法第325の6)。

(3)書面交付請求制度

電子提供制度は、インターネットを利用することが前提とされます。改正会社法は、インターネットの利用が困難な株主に配慮するべきであるとして、株主が請求した場合には、電子提供措置の対象となる事項を記載した書面の交付を会社に義務付けることにしました(改正会社法325の5)。
具体的には、ある株主から株主総会の基準日までに書面交付請求が行われた場合に、会社は、当該株主に対し、招集通知の発送と同時に電子提供措置の対象となる事項を記載した書面を送付しなければなりません。なお、株主の書面交付請求は一度行うと、その時期の直近の株主総会だけでなくその後のすべての株主総会についても有効となりますので、この点に注意が必要です。

3 実務上の影響

非上場会社は、電子提供制度を導入するか選択することができますが、上場会社は電子提供制度を導入しなければなりませんのでこれに対応しなければなりません。
そのため、上場企業においては、電子提供制度を採用する旨の定款変更とその施行に向けて株主総会資料の再構成と電子提供の方法や書面交付請求に対応するロジの整理等を行う必要が生じます。

なお、EDINETでの対応について、現状において株主総会の 3 週間前までに有価証券報告書を提出することは相当にハードルが高いため、その方法を考える場合には改正会社法の施行までに有価証券報告書の作成実務の大幅な見直しがされないかを注視する必要があるでしょう。

幸い、このテーマは他と異なり公布から3年6月以内に施行となっておりますのでまだ時間的猶予がありますので、着実に対応していくことが可能です。





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