令和元年改正会社法の概要~トイレを和式にせよと要求する株主対応~

三井金属鉱業の今年の株主総会において、オフィスの便器を和式にして踏ん張れ、古新聞紙をトイレットペーパー代わりにせよといった株主提案がされ話題になっております(IT media ビジネス「新聞紙をトイレ代わりにせよ」……モンスター株主のトンデモ議案が無くならないワケ」等)。

企業法務を担当している皆様には、既視感を感じた方もいらっしゃるかと思われます。かつて野村HDにおいて、トイレを和式にせよ社名を野菜HDにせよといった株主提案がされ話題になりました。そしてこうしたトンデモ株主提案の発生を受け、会社法改正がされた(施行はまだ)ので、今回は改正会社法における株主提案権の濫用防止を扱います。

1 株主提案権の濫用的な行使を制限するための措置の整備

近年、一人の株主が大量の議案の提案をする、上記したような無茶苦茶な提案するなど株主提案権を濫用的に行使される事例が散見されました。そこで、改正会社法では、これを防止するために株主が同一の株主総会での株主提案に制限を設けることにしました(改正会社法304Ⅳ、Ⅴ)。

2 株主提案権の濫用的な行使を制限の内容

改正会社法では、株主に対し権利として提案できる議案の数の上限を10までに制限することにしました。株主が10個を超える提案をした場合、会社は10個を超えた部分のみその提案を拒絶できます。

この点について、どの10個が提案権の行使として認められどれが拒絶されるのか、また10個というのはどのように数えられるのかという点が論点となります。

(1)10個の選択について

10個を超える議案が提案された場合にどの10個の議案を取り上げるかは、原則として会社の取締役が定めることとされています。他方、株主がその提案に際し、議案の全部または一部について優先順位を定めている場合には、会社はその優先順位に従うことになります。

(2)議案の個数の数え方

議案の数え方で問題になりやすいのが、役員等の選解任議案です。複数の役員について提案した場合、これは人数分と考えるべきか否かが問題となります。この点、会社の役員等の人数という不確定な要素により、株主提案権が制限されることは合理性を欠くと考えられ、一つの議案とみなすこととなりました。
次に問題になりやすいものとして、定款変更に関する議案が挙げられます。この点、定款変更に関する議案は、原則として、定款変更の内容ごとに異なる議案として数えられますが、定款変更に関する二つ以上の議案について異なる議決がされたとすれば当該議決の内容が相互に矛盾する可能性がある場合にはこれらは一つの
議案とみなされることになりました。

(3)不当な株主提案への対応

改正法案では、不当な目的での株主提案権の行使についても制限しようとしておりましたが、企業側の恣意的な拒否につながりかねない懸念が指摘され、この点は改正会社法では採用されませんでした。

もっともこの点はすでにこれを許容しない裁判例もありますので(東京高判平成27年5月19日)、法改正までされなくとも対応可能な状況になっております。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?