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令和元年改正会社法の概要~株式交付制度の新設~

今回は株式交付制度について解説します。

1 改正の背景と概要

現行法上、自社の株式を対価として他の会社を子会社とする手段として株式交換の制度がありますが、これは買収先を完全子会社とする場合でなければ利用することができません。そのため、買収会社が買収先を完全子会社化まですることを意図していない場合、買収会社は株式交換を用いることはできず買収会社が買収先の株式を現物出資財産として自社の募集株式を発行することになります。この場合、検査役の調査が原則として必要となる等負担が大きく、株式を対価とするM&Aの実施が事実上困難になっているとの指摘がされていました。
そこで、改正会社法では、完全子会社とすることを予定していない場合でも株式会社が他の株式会社を子会社とするために自社の株式を他の株式会社の株主に交付することができる制度を新設することとしました(改正会社法774の2~11、816の2~10)。

2 株式交付制度

改正会社法で、株式交付は「株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。第774条の3第2項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付すること」と定義されました(改正会社法2㉜の2)。
株式交付制度の対象は「株式会社が他の株式会社」であるので、日本法上の株式会社に限定され、外国会社との買収は対象外となります。また、目的は、「子会社とするために」となりますので、議決権50%超所有すれば足り、株式交換制度と異なり完全子会社としようとしなくても実施可能となります。

3 買収会社(株式交付親会社)における手続き

(1) 株式交付を行う場合、まず、株式交付をする株式会社(株式交付親会社)は株式交付計画を作成しなければなりません(改正会社症774の2)。株式交付計画では下記のような事項を定めなければならず、原則、効力発生日の前日までに買収会社の株主総会の特別決議による承認を得ることが必要になります。

・「株式交付子会社」(株式交付親会社が株式交付に際して譲り受ける株式を発行する株式会社)の商号・住所
・株式交付に際して譲り受ける株式交付子会社の株式の数の下限
・株式交付の対価として交付する株式交付親会社の株式や金銭等の内容およびその割当てに関する事項
・譲渡の申込期日
・株式交付の効力発生日 等

(2) 買収会社は、譲渡の申込みをしようとする株式交付子会社(買収先)の株主に対し、株式交付計画の内容等を通知します。そして、譲渡の申込みをする株主は、株式交付計画に定める譲渡の申込期日までに譲渡しようとする株式の数等を記載した書面を買収先に交付します。
 買収会社は、申込を受けたら申込者の中から株式を譲り受ける者とその者に割り当てる株式交付親会社の株式の数を定め、効力発生日の前日までに申込者から譲り受ける株式の数を申込者に通知します。ただし、申込みがあった買収先株漆器の総数が株式交付計画で定めた下限に達しなかった場合、買収会社は、株式交付をしないことを申込者に通知することとなります。

(3) 上記の買収会社の通知により、申込者は譲渡人となり、譲渡人は、効力発生日に、通知を受けた数の株式を株式交付親会社に給付し、買収会社の株主となります。なお、買収会社は、株式交付計画において定めた当初の効力発生日から3か月以内の日であれば、効力発生日を変更することができます。 

(4) 株式交付制度は組織再編の一つですので、買収会社は、事前開示として、効力発生日前の一定の日から効力発生日後6か月を経過する日までの間、株式交付計画の内容その他一定の事項を記載した書面(これらを記録した電磁的記録を含みます。)を本店に備え置かねばならず、また、事後開示として、効力発生日後遅滞なく株式交付によって譲り受けた株式の数等を記載した書面(これらを記録した電磁的記録を含みます。)を、効力発生日から6か月間本店に備え置かなければなりません。また、買収会社の株主には、救済手段として、差止請求権と株式買取請求権が認められています。加えて、株式交付の対価に買収会社の株式以外の金銭等を含む場合、買収会社の債権者は株式交付について異議を述べることができ、その場合、株式交付親会社は、公告や知れている債権者への催告等債権者異議手続を行うことになります。

4 買収先(株式交付子会社)における手続き

譲渡人以外の買収先の株主に対する情報提供のための規律や株主総会決議を要するといった規律は設けられませんでした。株式交付は、実質的には株式交付子会社の株式の相対の有償譲渡であり、その条件は譲渡人・譲受人の間で合意されるのが原則であるため、譲渡人以外の株主の保護を図る要請が大きくないためです。



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